溶液の性質を表現するときに「活量」や「活量係数」という値を使うことがあります。
この「活量」かなり理解しにくい概念です。
私も最初に見たときは「なんでこんなもの導入するんだ?」と疑問だらけでした。
そこで「なんのために活量を使うのか?」「活量を導入するとどんなメリットがあるのか」簡単に解説してみます。
活量とは何か?
活量の定義を色々調べてみましたが、一貫した定義が見つかりませんでした。
そこで、Wikipediaの活量の項目を引用します。
個人的には、納得の定義です。
活量(かつりょう、英: activity)は、実在溶液における実効モル濃度である。できる限りモル濃度(あるいは他の濃度)に近い性質を持ち、しかも厳密な熱力学の関係に登場し得る量である。一般的には、温度、圧力、物質量についての複雑な関数になる
Wikipedia
溶液の濃度を理論的に取り扱う場合は「モル濃度」または「モル分率」を使います。
分子量が違う異種分子の溶液同士を比較するために「重量」ではなく「モル数」で表す方が都合がいいからです。
活量は、モル濃度に近いものですが、モル濃度そのものではなく「実在溶液における実効モル濃度」を表します。
モル濃度は「単位体積当たりに含まれる分子のモル数」です。
でも理論的に扱うときには、各分子のモル数の割合である「モル分率」で表した方が取り扱いやすいので、今後はモル分率で表現することにします。
分子Aの個数が95%、分子Bの個数が5%混ざった溶液の場合、Aのモル分率は0.95、Bのモル分率は0.05というように表す濃度の表現です。
ラウールの法則を使って定義する
「実在溶液における実効モル濃度」と言われても漠然としてわかりにくいので、少し具体的に説明してみます。
活量を定義するのに、「ラウールの法則」を使うことが良くあります。
ラウールの法則は、溶液の蒸気圧を表すもので物質が溶解することで蒸気圧が低下する「蒸気圧降下」に関する法則です。
「溶液の蒸気圧は溶媒の蒸気圧に溶液中のモル分率をかけたものになる」
これがラウールの法則です。
他の物質が溶けることで、溶媒分子の割合が減って、その減った分蒸気圧も小さくなるというものです。
式で表すと、こんな感じです。
$P=P_0\chi P:蒸気圧,P_0:純物質の蒸気圧,\chi:モル分率$
これを活量を使った式にしてみましょう。
$P=P_0\alpha P:蒸気圧,P_0:純物質の蒸気圧,\alpha:活量$
え? 何が違うの? と思いますよね。
活量は測定しなければわからない
ラウールの法則は、希薄溶液(溶質のモル分率が1に近い)でしか成立しない近似則です。
でも、濃度の代わりに活量使った式は、どんな濃度でも成り立ちます。
$P \fallingdotseq P_0\chi(\chi \simeq 1)$
$P=P_0\alpha$
「なぜそうなるのか?」と疑問を持つかもしれませんが、考えるのは無駄です。
これが活量の定義だからです。
活量を求めるには、実験が必要です。蒸気圧を測定し、その実験値を式に代入することで計算します。
ラウールの法則と同じ形の式が成り立つように、無理やり作ったものが活量です。
どうして、こんな人為的なものを導入するのでしょうか?
活量を使えば便利になる?
活量のように新しい量を定義するのは、大抵の場合それを使えば便利になるからです。
でもラウールの法則をいくら眺めても便利になるとは思えません。
ラウールの法則は、(濃度が低い場合は)濃度から蒸気圧が計算できるというメリットがあります。
しかし、活量は蒸気圧を測定して初めてわかるものです。
何かメリットがあるのでしょうか?
他の性質との関係で真価を発揮する
活量は、蒸気圧などひとつの性質だけみていても、その意味合いはわかりません。
他の性質との関係で初めてわかるのです。
溶液は濃度によって変化する性質を色々持っています。
よく知られているものだけでも、凝固点降下、沸点上昇、浸透圧などがあります。
電気分解や電池にしたときの電圧、化学反応の平衡なども濃度が関係してきます。
これらの性質と濃度の関係式は、活量を使って表すことができます。
ある濃度の蒸気圧を測定して、そのときの活量を計算すれば、それを使って他の多くの性質を計算できるのです。
物質の移動や化学反応の方向を決める「化学ポテンシャル」という熱力学的な量があります。
活量は、濃度による化学ポテンシャルの変化を表したものとも考えられるので、ほぼ全ての熱力学的な変化に対して応用することができるのです。
活量係数を使うこともある
濃度と活量の比を活量係数として表現することもあります。
活量=活量係数×濃度
活量係数を使うと式に濃度が現れるので、濃度の影響だということがわかりやすくなります。
気体ではフガシティを使う
活量は、溶液の濃度に相当するものです。
気体の場合にも、同様の量を定義すると色々と便利です。
二種類以上の気体が混合されているとき、それぞれの気体の圧力が溶液での濃度に相当します。
その圧力(分圧)を置き換えるものがフガシティーです。
活量での活量係数と同じように、フガシティー係数を使うこともあります。
このように、使いやすくて便利な量を定義することで、各種の計算が簡単になるのです。
活量やフガシティーの物理的イメージ
活量やフガシティーを使うと、何かの方法で一度測定するだけで、多くの特性を導くことができます。
だから便利に使われているのですが、それで終わってはもの足りない気がします。
何か物理的なイメージが欲しいので、最後にそこを説明しておきます。
”浸透圧とは何か? わかりやすく簡単な説明と少し踏み込んだ話” という記事でも違った角度から説明していますので、そちらも参考にして下さい。
液体や気体の分子は、自由に動いています。
完全にフリーの状態で動き回っているのであれば、特性は単純になって濃度や分圧で表すことができます。
しかし、実際の液体や気体では、分子同士に相互作用(分子間力)が働いていて、完全にフリーな状態ではありません。
そのため、分子間力がない場合に成り立つ単純な式からずれてしまいます。
そのずれを、補正したものが活量、フガシティーなのです。
活量係数やフガシティー係数は、複雑な分子間力の影響を表したもので、簡単に計算することはできず実測に頼っているというのが現状です。