冬になると、道路の凍結を防いだり雪を融かすために、凍結防止剤、融雪塩が大活躍します。
日本では、凍結防止剤に塩化カルシウム(通称:塩カル)が使うことが多いのですが、なぜ塩カルが使われるのでしょう。
塩カルが使われている理由とその性質を、わかりやすく説明してみます。
凍結防止剤、融雪塩とは
凍結防止剤と融雪塩(融雪剤)、目的は違いますが、物質としては同じものです。
予め凍結を防ぐために使う場合は「凍結防止剤」、雪を融かす目的で使う場合は「融雪塩」と呼ぶのが一般的です。
しかし、実際には厳密に使い分けられてはいないようです。
凍結防止剤の作用:凝固点降下
凍結防止には、物質が水に溶けることで凝固点を下げる「凝固点降下」という現象を利用しています。
水は0℃で凍りますが、他の物質が溶けていると0℃でも凍らなくなる現象です。
凝固点降下は水に溶けるものならどんな物質でも起きるので、何を使ってもいいのですが、
- 水に良く溶ける
- 凝固点降下が大きい
- 害が少ない
- 安い
このような特徴を持ったものが望ましいのは当然ですね。
凍結防止剤、塩化カルシウムの特性
日本では、凍結防止剤や融雪塩として主に塩化カルシウム(塩カル)が使われています。
この塩カル、一体どんな物質なのでしょうか?
塩化カルシウムとは?
塩化カルシウムは、塩素とカルシウムからできている塩です。
塩素と聞くと危ないイメージがあるかもしれませんが、塩化ナトリウム(食塩)と同じような物質で、大きな害はない物質です(だからこそ凍結防止剤に使われるのですが)。
にがりの替わりに豆腐の凝固剤としても使われているものです。
塩化カルシウムの用途
塩カルは他にも身近なところで使われています。
例えば乾燥剤。
数mm程度の白い粒状の乾燥剤を見たことありませんか?
そう、これに使われている白いつぶつぶです。
まさに塩化カルシウム、それも散布しやすいように粒状になっている凍結防止剤と全く同じものです。
道路の横に置いてある凍結防止剤(塩化カルシウム(粒状)と書かれているもの)を持って帰って、乾燥剤の詰め替え用に使うこともできます。はやってはいけません。
自然界にある塩化カルシウム
塩化カルシウムは自然界にも普通にあり、海水に山ほど溶けている物質です。
ですから、自然を破壊するような有害物質ではありません。
でも害はあります。
海の近くで塩害と呼ばれる現象がありますが、それと同じです。
金属をさびやすくする、農作物の生育に影響を与える……、海辺で問題になることと同じ問題が発生します。
凍結防止剤が撒かれた道路を走った後は車が錆びやすくなるのは、塩カルが溶けた液が金属の錆びを促進するからです。
凍結防止剤が撒かれている場所を走行した後は、よく洗浄した方がいいですね。
塩化カルシウムの毒性
塩化カルシウムは、特に毒性を持っているわけではありません。
でもWikipediaを見ると半数致死量が1000 mg/kg(ラット/経口)となっています。
ラットが体重1キログラムあたり1000ミリグラムの塩化カルシウムを食べると、半数が死に至るということです。
体重60キログラムの人に換算すると、60グラムの塩カルを一気に食べると死亡する危険性があります。
でも、心配しないでください。
塩化カルシウムを60グラムも食べようと思っても食べれるものではありません。
ちなみに、食塩は一気に200グラム食べると死に至りますが、食塩の急性毒性で死んだ人がいないのと同じです。
むりやり大量に食べさせて害が出ない物質など、どこにもありません。
もちろん、塩分の摂りすぎは身体によくないので、散歩中に犬が塩カルが撒かれた雪を食べていたら止めさせた方がいいでしょう。
※特に犬は人間よりも塩分を控える必要があるので、できるだけ食べないようにするべきだと思います。
塩化カルシウムの製造方法
塩化カルシウムは、炭酸ナトリウムというガラスの原料などになる重要な物質を製造するときに、副生物として出てきます。
アンモニアソーダ法とかソルベー法とか呼ばれる、化学の世界では一番有名と言っていいほど、広く行われている工業的な製造法です。
ですから、塩化カルシウムを製造しようとしなくても、自然にできてしまいます。
そのため、工業が盛んな日本では、安く手に入るのです。
その他の凍結防止剤
塩化カルシウム以外にも凍結防止剤として使われる物質はあります。
よく使われているのは、塩化ナトリウム、食塩です。
特に、岩塩が豊富に採取できる国では、岩塩をそのまま利用しています。
塩カルと食塩の比較
塩カルと食塩を比較すると、塩カルの方が凍結防止の効果が高いことが知られています。
塩化カルシウムは水に良く溶けることもあり、気温が-20℃くらいまでなら充分な効果を発揮します。
また、塩化カルシウムは水に溶けるとき発熱するので、雪を融かすときに速攻性があるのも特徴です。
これに対して、食塩では気温が-10℃以下では効果を発揮することができません。
特に気温が下がる地域では、食塩では性能不足なのです。
塩カルの欠点
そんな塩カルにも欠点があります。
乾燥剤に使われていることからわかるように塩カルは吸水します。
きちんと封をして保存しなければ、水を吸ってドロドロの液体になってしまうのです。
また、塩カルを撒いた後に、日が照って道路が乾燥したとしても、残った塩カルが水を吸収して路面がぬるぬるしてしまいます。
塩カルが滑りの原因になってしまうのです。
この欠点を補うために、塩カルと食塩を混合したものを使うことも増えています。
塩カル、食塩以外の凍結防止剤
塩カルや食塩はでは、どうしても塩害が起きるので、塩害のない凍結防止剤も開発されています。
酢酸カルシウム・マグネシウム(CMA)や、尿素系の物質などが知られていますが、価格の問題もあって飛行場の滑走路など限られた用途にしか使われていません。
国中の道路に使用するのですから、わずかな価格差でも膨大な費用になってしまうのです。
当分の間は、塩カルのお世話になるしかなさそうですね。