ブラックホールとは、光も抜け出せすことができない、全ての物質を飲み込む穴のようなものです。
このブラックホールのことを知るには、研究の歴史を辿るのが一番わかりやすいはずです。
そこで、ブラックホールの研究の歴史を簡単に説明してみました。
わかりやすさ重視のため、正確性に欠ける部分もありますが、ご了承願いいます。
ブラックホールとは? 簡単な説明
ブラックホールは大きな質量をもっていて、その大きな重力で光を含む全てのものを飲み込む天体です。
「ブラックホール」という名前は、1960年代後半から使われ始めていて、50年くらいの歴史があります。
ブラックホール研究の歴史
ブラックホールの研究が活発になったのは1960年代からですが、ブラックホールの着想はその200年前にさかのぼります。
そこからの研究の歴史を順を追って、説明したいと思います。
脱出速度
「脱出速度」という言葉を聞いたことがありませんか?
重力を振り切って脱出するために必要な速度のことです。
地球の重力を振り切って脱出するために必要な速度は、秒速約11キロメートルです。
マッハに直すと、マッハ40くらいになります(高速戦闘機でマッハ3程度)。
ロケットで地球を脱出するためのは、これほどの速度が必要なのです。
重力と脱出速度
脱出速度は星の重力(質量)と大きさで決まります。
重たくて小さい、密度の大きい星では、脱出速度はもっと速くなります。
ちなみに光の速度は秒速約30万キロメートルで、地球の脱出速度の3万倍程度です。
もし、とんでもなく高密度の星があれば、脱出速度が光の速さ(秒速約30万キロメートル)を超えることがあるかもしれません。
そうなると、光でも脱出できないブラックな星になるだろうと考えることができます。
これが、ブラックホールの最初の着想です。
光は波だった
この着想は、光を普通の物質(粒子)と考えて、ニュートンの運動法則をあてはめたものです。
その後、光は波だということが分かりました。
波に重力が働くとは考えにくいので、この初期のブラックホールの着想は表舞台から消えていくことになります。
特殊相対性理論と量子力学
その後、電磁気学が完成したことによって光は電磁波という波であることが分かりました。
そして、1900年代に入り、ニュートン力学に変わる新しい理論として特殊相対性理論と量子力学が生まれます。
光とはどんなものなのか少しずつ明確になっていきました。
しかし、重力を扱うことはできなかったので、ブラックホールという概念は誕生することはありませんでした。
一般相対性理論
そして、1915年にアインシュタインが「一般相対性理論」を発表しました。
待ちに待った重力を扱う理論です。
その発表からすぐ、ブラックホールに相当する理論解が見つかりました。
初期に着想されていたブラックホールと同じように、質量が大きくて小さな場合は光も脱出できないというのは、一般相対性理論でも同じだったのです。
もちろん、あくまでも数学的に解が求まっただけで、ブラックホールが実在するかどうかは別の話です。
光が脱出できなくなる大きさは、質量から計算できます。
面白いことに、一般相対性理論で計算した光が脱出できなくなる大きさ(シュワルツシルト半径)と、ニュートン力学の脱出速度から計算した半径は、全く同じ結果になるのです。
不思議な気もしますし、そうなって当然のような気もする、とう奇妙な結果です。
一般相対性理論発表時の状況
光を粒子と考えてブラックホールが着想されたときは、物質が何でできているのかすらわからない時代でした。
でも一般相対性理論が産まれた時点では、物質は原子からできていること、原子が原子核と電子でできていることなどがわかっていました。
ですから、ブラックホールになるほどの高密度な物体になり得るのかどうかという検討もできます。
星の運命
そこで、星はどんな運命を辿るのかということを考えていた人たちがいます。
重力は引力なので、星は自分自身の重力によって小さくなるような力が働きます。
それと釣り合うように、大きくなる方向への力が働いていると、大きさが一定になります。
太陽の場合は、重力で小さくなろうとする力と、熱の放出や電気的反発で広がろうとする力が釣り合っています。
しかし、太陽が燃える原料(質量の小さい原子核)がなくなると、広がろうという力がなくなり、重力で小さくなってしまいます。
質量が同じで小さくなるということは密度が上がるということです。
これを「白色矮星」と呼びます。
簡単にいうと、鉄の固まりのようなものです。
白色矮星になる前に、一度高温になって赤色巨星という大きな星になります。その外層部が飛び去って残った部分が白色矮星になります。
太陽より大きな星の場合
白色矮星は、実際に存在することもしられていて、太陽のような星の最後だと思われていました。
白色矮星は、普通の星より密度が高いのですが、まだブラックホールになれるほどの密度には到底およびません。
中性子星
その後の研究で、太陽よりも質量が大きい星では、白色矮星よりもさらに密度が高い「中性子星」と呼ばれる状態になり得ることがわかりました。
原子核を作っている中性子だけでできているので、星全体がひとつの原子核になったようなものです。
中性子星は自分たちが知っている物質とはかけ離れたものです。
1立方センチメートル(角砂糖1個分)の大きさで、10億トンの重さ、想像することもできません。
パルサーと呼ばれる星が中性子星で、実際に観測されて存在が認められています。
そしてブラックホールへ
これほど高密度な中性子星でも、まだブラックホールではありません。
もし中性子星でとどまらず、もっと小さくなることがあれば、ブラックホールになるかもしれません。
中性子星ですら普通の物質とかけ離れたものですが、それが重力で崩壊した状態となると想像もできません。
しかし重力が大きいと中性子が破壊されて縮むこともあり得るのです。
しかし、多くの科学者はブラックホールは実在しないと信じていました。
なぜなら、ブラックホールは特異点と呼ばれる数学的にイレギュラーなものを含んでいたからです。
単なる数式上で現れるおばけのようなもので、物理的な意味はないと考えられていました。
特異点定理
1960年代半ば、「ペンローズ・ホーキングの特異点定理」というものが証明されました。
特異点はイレギュラーなものではなく、一般相対性理論を用いる限り避けられないものだという証明です。
おばけなんかではなく、必ずいるものだったのです。
それから、ブラックホールの理論的な研究が活発になっていきました。
何とか特異点を避ける方法はないか? ブラックホールが存在するとしたらどんな特性を持っているか?
そして、次々と面白い事実が分かってきたのですが、その話は別記事で紹介することにします。
≫≫ブラックホールはブラックではない? ホーキング放射とは何か
ブラックホールの観察
ブラックホールは、光を出さないため直接観測することはできません。
しかし、ブラックホールが存在していることを間接的に見出すことはできます。
観測した天体の運動が、近くに見えない大質量の星があるとしか考えられない動きをしているとか、目に見えない大質量の星に大量のガスが吸収されていく様子などです。
特に2000年以降、そのような観測事例が増えてきて、現在ではブラックホールは実在すると信じられています。
ブラックホールはもはや物質ではありません。文字通り宇宙に空いた「穴」のようなものです。
そんなものが存在していると思うとわくわくするのは自分だけでしょうか?
追記ブラックホールの観測
2019年4月10日、国立天文台などの世界約80の研究機関による国際チームは10日、ブラックホールの撮影に成功したと発表しました。
撮影されたのは、おとめ座のM87星雲にあるブラックホールです。
あのウルトラマンの故郷、M78星雲の元になった銀河だというのも興味深いところです。