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ボルツマン分布とは? 分子のエネルギーと温度の関係をわかりやすく解説

分子運動

温度と物質のエネルギーには関係があります。しかし同じ温度でも物質を構成している分子ひとつひとつのエネルギーはばらつきがあり、エネルギーが高い分子、低い分子が混在しています。

そのエネルギーの分布を表すのがボルツマン分布と言われるものです。

ボルツマン分布は、熱力学や統計力学、量子力学の分野で活用されている重要なものです。ここでは、ボルツマン分布の基本的な考え方と意味、応用例などをわかりやすく説明します。

目次

ボルツマン分布とは

ボルツマン分布は、オーストリアの物理学者 “ルートヴィッヒ・エードゥアルト・ボルツマン” の名前から名付けられています(ルートヴィッヒ・ボルツマン 早すぎた天才科学者の生涯)。

ボルツマン単独で発見したというより、数人の科学者たちの研究に沿って見出されたもので、ギブス分布、マクスウェル=ボルツマン分布などとも呼ばれています。

このように多くの物理学者が関わった、ボルツマン分布とはどういうものか簡単に見てみましょう。

ボルツマン分布のグラフ

まずボルツマン分布のグラフから見るのが早いでしょう。

ボルツマン分布
ボルツマン分布

エネルギーが低いほど分子の割合が多く、エネルギーが高くなるほど分子の割合は減っていきます。エネルギーゼロが一番多く、エネルギーが高いほど少なくはなっていきますが、どんなに高いエネルギーの分子も存在割合はゼロにはなりません。

温度が変わると分子のエネルギーも変わってきます。温度が違う場合のボルツマン分布の変化を見てみましょう。

温度が高いほどエネルギーが低い分子の割合が減って、エネルギーが高い分子の割合が増えていきますが、エネルギーが低いほど分子の割合が多いという形状は変わりません。

ボルツマン分布の式

ボルツマン分布は以下の式で表されます。

$$f(E) = Aexp \frac{-E}{kT}$$

  • $f(E)$はエネルギー$E$の分子の割合
  • $A$ は規格化定数
  • $k$ はボルツマン定数(1.38×10-23 J/K)
  • $T$ は絶対温度(K)

この式のAは規格化定数です。割合を示す式ですから、全てのエネルギーを持った分子の割合を足し合わせると1(100%)にならないといけません。そうなるように調整するための定数だと思ってください。

規格化定数

この式のAは、トータルが100%になるように導入しただけの定数なのですが、実は統計力学という分野で大きな役割を果たすことになります。
ここではこれ以上踏み込みませんが、不思議な感じがします。

ボルツマン分布の応用

ボルツマン分布は色々な分野で応用されています。そのいくつかを紹介しましょう。

化学反応への適用

ボルツマン分布は化学反応の速度に適用できます。

物質が反応するとき、ある一定のエネルギー(活性化エネルギー)以上のエネルギーを持った分子だけが反応に寄与します。エネルギーが低い分子は反応できないのです。

その一定値以上のエネルギーを持った分子の割合はボルツマン分布で表されるので、反応速度の解析にはボルツマン分布が使われます。

温度を変えた時の反応速度の変化は、ボルツマン分布から導かれるのです。

化学反応の進む方向と速度 反応速度論の基礎参照

物理現象への適用

ボルツマン分布は、気体分子の平均運動エネルギーや平均自由行程、比熱容量などの性質や、物質の電気的・光学的特性など多くの物理的現象に適用されています。

マクスウェル分布の導出

ボルツマン分布から、気体分子の運動エネルギーや速度の分布としても知られているマクスウェル分布が導出されます。

歴史的にはマクスウェル分布が先に見出され、それを一般化することでボツルマン分布が見出されたのですが、現在では一般則であるボルツマン分布からマクスウェル分布を導出することが普通に行われています。

気体分子の並進運動エネルギーは、$\dfrac{1}{2}mv^2$で表せます($m$は質量、$v$は速度)。ボルツマン分布にこの式を代入すると、以下の分布が得られます。

$$f(v) = Av^2 exp(\frac{-mv^2}{2kT})$$

これが、気体分子の速度分布を記述したマクスウェル分布です。温度が高いほど、高速の分子の割合が増えることを示しています。

このように分子の速度と温度が相関することから、マクスウェルはマクスウェルの悪魔を発想したのです。

≫≫マクスウェルの悪魔とは何か? わかりやすく簡単に説明

ボルツマン分布は近似式に過ぎない

ボルツマン分布は、分子がどんなエネルギーでもとれる、つまり連続的なものとして導出されました。その後、量子力学の誕生で分子がとれるエネルギー状態は飛び飛びであることがわかりました。

ボルツマン分布自体は、あるエネルギーがEである準位にある粒子の数として再定義されることになります。

このように、ボルツマン分布の説明では、エネルギーが連続とした場合の説明と、量子力学のエネルギー準位を使った説明が混在しているので、注意してください。

また、量子力学的にエネルギー準位を用いたボルツマン分布も正確ではありません。量子力学では統計の取り方が異なるからです。

量子力学では、ボース=アインシュタイン分布または、フェルミ=ディラック分布と言われる分布を使わなければなりません。これらの分布を説明すると長く、難しくなるので興味のある方は、別途検索してみてください、

ただし、温度が充分高い場合には、近似としてボルツマン分布を使うことが多いようです。

参考:熱音響研究会「誕生と変遷にまなぶ平衡系の熱力学」第10章 統計物理学の誕生

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