「触媒」
化学を習うと必ず出てくる重要なものです。
工業的な化学合成では触媒を使わない方が珍しいので、身のまわりの化学製品があるのは「触媒のおかげ」と言ってもいいくらいです。
ただ、触媒とはどんなものなのか、わかったようでよくわからないという人も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は「触媒」が化学反応に及ぼす効果について説明したいと思います。
触媒の働きとは?
まずは、Wikipediaの「触媒」の項を見てみましょう。
触媒(しょくばい)とは、一般に、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないものをいう。
Wikipedia
触媒とは、
- 特定の化学反応の反応速度を速める物質
- 自身は反応の前後で変化しない
という特徴を持ったものです。
「変化しないのに反応に影響する?」
何かピンとこないかもしれません。
化学反応の速度とは?
以前に『化学反応の進む方向と速度 反応速度論の基礎』という記事を書きました。
その中で、
- 化学反応が進む方向は決まっている(自由エネルギーが低い方向)
- 反応の速度は反応途中のエネルギー障壁で決まる(活性化エネルギー)
ということを説明しています。
反応する方向は決まっていますが、A→Bと一瞬で反応するのではなく、AからBに移り変わる途中段階を通らなければならないので、その途中段階の状態によって反応の速度は変わるのです。
これを頭に入れておけば、触媒の仕組みがわかると思います。
触媒は新しい道を作るもの
A→Bと化学反応が起きるとき、触媒がなければ途中の高い山を越えなければなりません。
![活性化エネルギー](https://tbits.jp/wp-content/uploads/2019/05/0af8bd2cd65fac146bc0a24c704a21ae-300x146.jpg)
そこに触媒があると、AからBに行く別の道ができるのです。
![触媒](https://tbits.jp/wp-content/uploads/2019/09/98892ab20c739a845ffbe0536526d113-1-300x146.png)
その別の道の峠が低ければ、そちらを通ってどんどん反応が進むことができます。
例えば、Aが触媒の表面に吸着すると、吸着していないときのAとは違った状態になります。
吸着したAという違う道を通ることで、山が低くなれば反応の速度が上がるのです。
これが触媒の作用です。
触媒作用は単純ではない
と簡単に書きましたが、触媒の作用は単純なものではありません。
新しい道を作ることは間違いないのですが、それがどんな道なのかまでは中々わかりません。
昔から使われている触媒でも、その具体的な働きがわかっていないものも沢山あるほどです。
コンピューターの性能も上がり、複雑なシミュレーションもできるようになってきましたが、それでもまだ足りないくらい複雑なのです。
反応速度を上げるとどうなるか
触媒は反応速度を上げるだけのものです。
そう聞くと「求める化学物質を作る時間を短くするだけ」というイメージを、持つかもしれません。
でも実際は、ひとつの触媒の発見で世の中が大きく変わることもあるほど大きなことで、触媒発見によってノーベル化学賞を受賞した人も大勢います。
触媒がもたらすインパクトは「求める化学物質を作る時間を短くするだけ」というようなものではありません。
実質的に反応しない場合
化学反応の速度は活性化エネルギーで決まりますが、活性化エネルギーが高すぎると反応速度が遅すぎて現実的ではない場合があります。
計算上「100億年かければ反応する」は、人間の感覚では「反応しない」と言い換えてもいいでしょう。
化学反応は温度を上げれば速度が上がるのですが、温度を上げると反応する方向が変わる場合があります。
AからBを作るとき、200℃以下ではA→Bの反応が進み、200℃を超えるとB→Aの反応が進むのなら、温度を上げても駄目なのです。
このような場合、触媒の発見によって「実質上起こすことができなかった反応を進めることが可能になった」と言えるのです。
副反応の抑制
触媒が大きな効果を産むのは副反応がからんだ場合です。
AからBを作りたいのに、CやDができてしまうというときに、AからBへの反応だけ速度を上げる触媒を使えば目的のBを作ることができます。
普通に反応させれば、ほとんどがCになってしまうのに、触媒を使えばほとんどがBになるということも起きます。
化学工業で、触媒を使うのはまさにこのような場合です。
Wikipediaの触媒の定義で、「特定の化学反応の反応速度を速める物質」とあえて「特定の」という言葉をつけているのは、このことを考慮しているのだと思います。
色んな反応が起きる中で、目的とする「特定の」反応だけを起こす、これが触媒の一番大きな作用だと言っていいでしょう。
そして、それによって化学工業が成り立っているのです。
光触媒について
「触媒」と名の付くものの中に「光触媒」というものがあります。
光触媒という名前をみると、光が触媒になっているような印象を受けますが、光は「物質」ではないので触媒にはなりません。
光が当たっているときに触媒作用を示す物質を光触媒と呼ぶのです。
通常「光触媒」と呼ぶときは「二酸化チタン」という物質のことを差すことがほとんどです。
また、普通の触媒は、反応する方向を変えることはできませんが、光触媒では光のエネルギーを使って通常は起こらない反応を起こすこともあります。
例えば、酸素と水素が反応すると水になります。
室温で酸素と水素を混ぜるだけでは反応しませんが、白金などの触媒を使うと反応速度が上がり水が生成します。
酸素+水素→水
というのが反応する方向です。
しかし、二酸化チタンなどの光触媒に光を当てることで、水→酸素+水素という逆の反応を起こすことができます。
電気分解の電気のエネルギーの替わりに光を利用するためです。
普通の触媒は反応の方向を変えることはできませんが、光触媒の場合は反応の方向が変わる場合でも「触媒」という言葉を使うことになっています。
![](https://tbits.jp/wp-content/uploads/2019/05/laboratory-1009178_640-300x219.jpg)
![](https://tbits.jp/wp-content/uploads/2019/03/bd9c30cd4ede8d81aac55b6f4248a070_s-300x225.jpg)