セルロースってよく聞くけど一体なに? と思っている人も多いのではないでしょうか。
このサイトでも、今までに何度か「セルロース」という言葉を使った記事を書いていますが、肝心のセルロース自身の説明をしていませんでした。
実は、セルロースは身の回りに溢れ、身近なところで大活躍してくれている大事なものです。
それどころか、昔から人間の生活にはなくてはならないものだったと言っていいでしょう。
この機会にセルロースについて簡単に説明しておきたいと思います。できるだけわかりやすく説明しますので、気になる方はぜひ読んでみて下さい。
セルロースは植物を形作る物質
セルロースは、植物の細胞壁や植物繊維の主成分で、植物の重量の約3分の1を占めています。植物を形作っている物質と言っていいでしょう。
動物は骨がなければふにゃふにゃですが、植物が硬くて丈夫なのはセルロースのおかげなのです。
セルロースの構造
セルロースは、下の図のような構造が長くつらなってできています。
線は化学結合を示していて、折れ曲がっている角には炭素があります。
また、炭素は4つの結合をしますが、図では2つや3つしか結合(線)がありません。残りは水素と結合しているのですが、それを省略しています。
また、太い線は手前にあるという意味で立体的な構造も表しています。
このように長く連なった分子を高分子と呼び、生物の身体の大部分やプラスチックなどは高分子でできています。
セルロースの構造の特徴
セルロースの構造には次の特徴があります。
- 直線性が高い
- OHが多い
OH同士は、強く引き合い「水素結合」と呼ばれるものを形成します。
化学結合ではないのですが、それに近いくらい強いので「結合」という言葉が使われているのです。
セルロースは、OHを沢山持っているので、隣のセルロース分子と強く水素結合します。
構造も直線的で隣の分子と近づくことできることもあって、水素結合によって強く結ばれています。
そのため、非常に硬くて頑丈な性質を持つのです。
セルロースの用途
セルロースは、どんな用途に使われているのでしょうが?
用途について簡単に説明しておきます。
セルロースをそのまま利用する用途
まずは、人間があまり手を加えずに、セルロースをそのまま利用する用途から始めましょう。
セルロースは、紙の原料になるパルプの主成分ですし、木綿の主成分でもあります。紙や綿はセルロースでできているのです。
また、木材が丈夫なのもセルロースのおかげなので、古くから木材を利用してきた人類には欠かせない材料と言ってもいいでしょう。
セルロースを加工して利用する用途
人間が手を加えて利用することもあります。
象牙などの替わりに使われた「セルロイド」の原料もセルロースです。
≫≫セルロイドとは何か? 世界発のプラスチック材料
また、最近では「セルロースナノファイバー」としての利用も始まっています。
≫≫セルロースナノファイバー その特徴と製造法と広がる用途
それ以外にセルロース自体を繊維やフィルムにして利用することも古くから行われていました。
そのことについては、もう少し詳しく説明しましょう。
セルロースを成形して利用する用途
セルロースは、普通のプラスチックのように熱をかけても融けることはないので、好きな形に加工するのが難しいという特徴があります。
しかし、セルロースを液体に溶かすことで、繊維やフィルムとして加工することができます。
溶かした溶液を細い穴から押し出して液体を取り除くと繊維になりますし、細長いスリットから押し出すとフィルムになります。
銅アンモニア法
セルロースを溶かす液体はほとんどありませんが、「銅アンモニア溶液(シュバイツァー試薬)」と呼ばれる液体には溶けるので、それを利用して繊維やフィルムにすることができます。
この方法を「銅アンモニア法」と呼びます。
ビスコース法
セルロースそのままでは溶けないので化学反応で「ビスコース」と呼ばれる物質に変えて、繊維やフィルムにした後、ビスコースをもう一度セルロースに戻すという方法もあります。
銅アンモニア法よりもこのビスコース法の方が主流になっています。
セルロース繊維の名前は「レーヨン」
このようにして作られたセルロースの繊維は「レーヨン」と呼ばれています。
レーヨンは19世紀末に作られた初めての人工繊維です。
セルロースそのものは植物が作ってくれるのですが、それを人工的に繊維にするため人工繊維と呼びます(物質自体を化学的に作る場合は化学繊維と呼びます)。
日本でも盛んに製造され、三菱レイヨン、東レ(東洋レーヨン)、クラレ(倉敷レイヨン)など、現在でもその頃の名残りが社名に残っている大会社も沢山あります。
※レーヨンの日本訳は「人造絹糸」で、帝人(帝国人造絹絲)の社名もそこからきています。
セルロースフィルムの名前はセロファン
セルロースをフィルム状にしたものは「セロファン」と呼ばれます。
レーヨン、セロファンともに、古くから使われている材料ですが、新しい化学繊維やフィルムに押されて用途が縮小していってます。
ただ、レーヨンやセロファンの構造は、セルロースそのものです。
木綿や木材が腐るように、セルロースは生分解されて自然に還るので、その点が見直されて再び広まることも考えられます。
なお、セロファンは、半透膜という性質も持っているので、実験に使われることも多いフィルムです。
≫≫浸透圧とは何か? わかりやすく簡単な説明と少し踏み込んだ話
セルロースを構成している以外な原料
セルロースは、下の構造をした物質が連結して長くつらなったものです。
この物質は「グルコース」、別の呼び方をすると「ブドウ糖」です。
グルコースの構造には、α型とβ型があり上の図はβ型になります。
水に溶けた(体内にある状態)では、セルロースはα型になったりβ型になったり自由に変化するので、同じものと考えても問題ありません。
ちょっと意外かもしれませんが、セルロースの材料は糖分なのです。
食物繊維が糖分?
セルロースは食物繊維の主成分です。
健康に良さそうな食物繊維が糖分でできているというのは意外なのではないでしょうか?
健康のために食物繊維を摂っているのに、実は糖分だったなんて……と心配する必要はありません。
人間を含めほとんどの動物はセルロースを糖に分解することはできません。
水素結合によって硬く丈夫になっているので分解されにくいのです。
ですから、セルロースでできた植物繊維は糖として体内に吸収されることはありません。
※草食動物の中には腸内の細菌にセルロースを分解させて、それを栄養源にしているしたたかなものもいます。
実は、セルロースと同じようにグルコースが長くつながった物質は他にもあって、私たちにもなじみの深いものもあります。
ちょっとつながり方が違うだけなのに、性質や働きは全く違うものです。
「でんぷん」です。
食物繊維とでんぷん、全く違うように思えるふたつの成分は親戚なのです。
そのことは、別記事(でんぷんとは? 多糖類の形状と特性をわかりやすく解説してみる)に書きましたので、気になる方はのぞいてみて下さい。
炭水化物にはセルロースも含まれる
グルコース(ブドウ糖)などの糖は炭水化物とも呼ばれます。
グルコース分子は炭素が5個、水素が10個、酸素が5個で構成されています。炭素1、水素2、酸素1の割合です。
水素2、酸素1はH2O、つまり水になります。炭素1個と水1個からできているようなものです。そのため炭水化物(炭素と水でできた化合物)と呼ばれるのです。
またグルコースなどが長くつらなった構造をしているもの(でんぷんなど)も同様に炭水化物と呼ばれます。
この定義ではセルロースも炭水化物に含まれます。
食品の栄養表示をみると”炭水化物〇g(うち植物繊維△g)などと書かれているものがあります。セルロースなどの食物繊維も炭水化物ではあるのですが、分解、吸収されないため別表示にしているのです。