2020年4月7日、光格子時計という正確な時計を使って東京スカイツリーの上と下で時間の進み方が違うことが報告されました。
光格子時計については、以前の記事「国際原子時とは?時刻はどうやって決めているのか」でも紹介しました。
300億年(宇宙の年齢の2倍以上)で1秒しか誤差が出ないというとんでもない精度の時計です。
この光格子時計の登場で、時間の単位 ”秒” の定義がかわることが確実視されています。
東京スカイツリーでの実験を簡単におさらいした後、秒の定義が変わる理由について説明してみましょう。
スカイツリーの実験の結果
まずは、2020年4月7日に報告された東京スカイツリーでの実験結果を説明してみましょう。
重力による時間の進み方の違い
一般相対性理論によると、重力が強い場所では時間がゆっくり進みます。
ですから、地上では地球の重力によって時間の進みが遅れています。
地表から離れて高度が高くなれば重力が弱くなり、地上よりも時間が速く進むことになります。
このことは、「GPS衛星の原子時計は地上のものと違う?相対性理論の不思議」でも紹介して、GPS衛星の原子時計ではこの効果を補正していることも説明しました。
地上と人工衛星との間では、これまでの原子時計でも時間の進み方の違いは測定できていたのです。
スカイツリーでの実験結果
光格子時計を使えば、地上と人工衛星どころか東京スカイツリーの上と下程度でも時間の進み方の違いが観測できることが確認されました。
実験結果を引用してみます。
展望台では1日あたり4.26ナノ秒(ナノは10億分の1)、地上よりも時間が速く進んでいた。この差を基に、両者の高低差が452.603メートル、不確かさ39ミリであることが求められた。一方、確認のためにレーザーで高低差を測ると452.596メートル、不確かさ13ミリとなり高精度で一致した。
サイエンスポータル
計算値と実測値の一致も見事です。
高層マンションの最上階に住んでいると、地上より時間の進み方が速いので年をとるのが早くなります。
でも気にする必要はありません。一生最上階で過ごしても0.00001秒以下ですから。
実験の意義
実は、この結果は今さら驚くようなものではありません。
光格子時計の精度は色々な方法で確かめられていて、スカイツリーの上下での時間の進み方の違いが観測できるだろうということはわかっていました。
だから実験で確かめたのです。
「300億年で1秒しか誤差がない」という説明ではピンと来ませんが、「東京スカイツリーの上下での時間の進み方の違いを観測した」というとイメージが湧きやすく話題になります。
このことで「光格子時計という凄い時計がある」ということが一般の人々の間でも知られるようになりました。
秒の定義が変わる
光格子時計の登場によって、時間の単位「秒」の定義が変わることが確実視されています。
定義が変わるというのはどういうことなのでしょうか?
単位の定義の決定
単位の定義は「国際度量衡総会」で決められます。
この国際度量衡総会は、4年に1度、FIFAワールドカップ開催の年に開かれます。
次々回2026年の会議で秒の定義がかわることは間違いないでしょう。
現在の秒の定義
現在の秒は、セシウム原子を使って定義されています。
秒(記号は s)は、時間のSI単位であり、セシウム周波数 ∆νCs、すなわち、セシウム133原子の摂動を受けない基底状態の超微細構造遷移周波数を単位 Hz(s−1 に等しい)で表したときに、その数値を9192631770 と定めることによって定義される
これは、現在最もよく使われている「セシウム原子時計」で測定する時間に合わせて決められているのです。
単位の定義の誤差
セシウム原子時計で秒を決めているということは、セシウム原子時計の誤差分は秒の定義があいまいだということです。
セシウム原子時計では、10-15程度の誤差があります。
定義自体が誤差を含んでいるのですから、その誤差以下の「秒」は意味を持ちません。
これはどんな単位の定義でも同じです。
ですから、できるだけ誤差がないように単位の定義は随時見直されているのです。
光格子時計で秒を定義する
光格子時計は、10-18の精度で時間を測定できます。
セシウム原子時計の1,000倍です。
その正確さが確認されれば、光格子時計で秒を定義するようになるのは当然の流れです。
今の秒の定義が採択されたのが、1967年ですから2026年に変わるとすれば、約60年間同じ定義が使われてきたことになります。
そろそろ変わってもいい頃ですね。