最近バスマットやコースターによく使われている珪藻土。
爽快感を味わえるほど、瞬時に吸水してくれることから、愛用者がどんどん増えています。
この珪藻土、一体どんなもので、どういう仕組みで水を吸うのか気になりませんか?
珪藻土が吸水するのは、その構造に秘密があります。
それを知っておけば、珪藻土製品の取り扱いの注意点もわかり、より有効に使うことができるようになるかもしれません。
そこで、珪藻土が水を吸う仕組みを、できるだけわかりやすく簡単に説明してみます。
なお、珪藻土バスマットの選び方については、別記事に書いていますので、そちらも参考にしてください。
≫≫珪藻土バスマットのおすすめは? 吸水の仕組みから選んでみた結果
珪藻土とは?
珪藻土の読み方は「けいそうど」、英語では ”ダイアトマイト(diatomite)” と言います。
自然に産出する土の一種で、珪藻(diatom)という単細胞の藻の殻が堆積してできたことから、珪藻土と呼ばれています。
珪藻土自身は、最近知られるようになった新しい材料ではなく、昔から色々なところで利用されていました。
日本では、蔵などの壁材としてよく使われていましたし、珪藻土を焼き固めたものは七輪の材料として使われています。
また、別記事「ノーベル賞とは何? 歴史、賞金額、日本人受賞者を総まとめ」にも書いていますが、ノーベルが最初に発明したダイナマイトは、珪藻土を使ったものだということも有名です。
この珪藻土の主成分は、二酸化ケイ素(SiO2)という物質です。
珪藻土は英語で、ダイアトマイト(diatomite)と呼びます。ダイナマイト(dynamite)とよく似ています。
これは偶然なのでしょうか?
ダイナマイトの語源は ”dynamis(力)”とされていますが、これはノーベルが作った造語です。
珪藻土のダイアナマイトも意識して命名した可能性が高いと思うのですが、どうでしょうか?
二酸化ケイ素とは?
二酸化ケイ素の結晶は「石英」です。特に無色透明な石英を「水晶」と呼びます。
珪藻土と水晶は化学的には同じ成分でできているのです。
そして、普通の砂の主成分でもあるので、地球の表層の約6割は二酸化ケイ素(SiO2)を含む鉱物でできているというありふれた物質なのです。
でも石英や普通の砂は水を吸いません。
同じ成分でできている珪藻土だけが水を吸うのはなぜでしょうか?
二酸化ケイ素の構造
二酸化ケイ素(SiO2)の結晶は、下の図のようにSiとOがつらなった構造をしています。
※実際は立体的ですが図にできないので平面にしています。
原子がずっと結合しているので、水晶はそれ自体が大きな分子のようなものです。
この構造では、水が入り込む隙間もないので、吸水することはありません。
二酸化ケイ素の表面はどうなっているのか?
二酸化ケイ素(SiO2)は、SiとOが連なった構造をしていますが、この鎖が永遠に続くことはできません。
結晶の表面では結合する相手がいなくなるからです。
結晶の表面は、下の図のように酸素に水素が結合する形で鎖が断ち切られています。
表面の構造と水
二酸化ケイ素(SiO2)の結晶の表面は、-O-Hという形になっています。
水はH2Oなので、H-O-Hという形(実際はブーメランのように曲がっています)です。
なんだか似ています。
似たもの同士は引き合うので、SiO2の表面は水を吸着しやすくなっています。
二酸化ケイ素表面のOHと水が引き合う、これが珪藻土が吸水する仕組みを理解する第一歩です。
水晶も、表面は水を吸着しやすいのですが、表面積が小さいのでごく微量しか吸着できません。
特にOHの構造同士は強く引き合うことから水素結合と呼ばれています。化学結合ではないのですが「結合」という言葉が使われるほどの強さです。
非晶性二酸化ケイ素
今まで、二酸化ケイ素SiO2の結晶の話としてきましたが、結晶ではない非晶性のSiO2と呼ばれるものがあります。
非晶性SiO2の構造をイメージ的に表すと、こんな感じです。
ところどころで、Si-Oの結合が切れて(O-Hになって)、規則正しく並んでいないものが非晶性二酸化ケイ素です。
このように結晶が乱れてくると、水が入り込む隙間も出てきますし、隙間には水と引き合うOHもあります。
そのため、結晶性二酸化ケイ素よりは水を吸いますが、珪藻土に比べると僅かなものに過ぎません。
珪藻土の構造と吸水する仕組み
珪藻土は、0.1から1ミリメートルの大きさの土で、その中に目に見えないほど小さな穴がたくさん空いています。
そして主成分は非晶性のSiO2です。
非晶性のSiO2で構成されていて、穴がたくさん空いているので表面積が大きい、これが珪藻土が吸水する仕組みです。
たった1gの珪藻土で、表面積がボクシングのリングより広いのです。
その莫大な表面に水と引き合うOHが存在するのですから、よく吸水するはずです。
これが、珪藻土が水を吸う仕組みです。
珪藻土に吸収された水はどこにいくのか?
よく「珪藻土に吸収された水はどこにいくのか?」と聞かれることがあります。
ここまでの説明でわかって頂けたと思いますが、珪藻土に吸収された水は、
「珪藻土の穴の中で珪藻土表面に吸着されている」
のです。
そして、吸着された水は湿度の低いとことに置いておくと、自然に蒸発して空気中の水蒸気になります。
これは、珪藻土と水が引き合う効果より、水分子が蒸発して広い空間に広がろうという効果の方が大きくなるからです。
コップに入れた水が、沸点より低い温度でも蒸発していくのと同じ仕組みです・
珪藻土の利用方法
珪藻土のは、湿度の高いときには吸湿して、湿度の低いときには水を放出するという性質があります。
この性質を利用したのが蔵の壁材です。
壁に珪藻土を使うことで、蔵内を一定湿度に保つことができるのです。
また、珪藻土は穴がたくさん空いているため熱を逃がさないという特徴があります。
七輪はその背質を活かしています。
またmダイナマイトに使ったのは、ニトログリセリンという液状の爆薬を珪藻土の穴にしみこませるためでした。
昔から、珪藻土の特徴を知り尽くして利用していたことがわかります。
産地による違い
珪藻土は天然に産出されるものですから、採取した場所によって特徴が変わります。
表面積が大きいものや小さいもの、穴のサイズが大きいものや小さいもの、様々です。
バスマットに使うのなら、水をたくさん吸水して陰干しで簡単に乾くものがいいでしょうし(穴のサイズは大きめ)、調湿用の壁材なら目的とする湿度で吸湿するもの(穴のサイズは小さめ)がいいでしょう。
珪藻土はどこで採れたものがいいのか調べるときは、使用する目的をはっきりさせないと間違うことがあるので、気をつけてください。
バスマットに使われる珪藻土には、天然の珪藻土を加工してより吸水しやすくした材料を使っているものもあります。
珪藻土の穴をより多くして吸水力を高めるという仕組みです。
というよりも、元々は吸水力を高めた珪藻土バスマットが発売され、それを真似た安物が出回ったという経緯のようです。
二酸化ケイ素の別名はシリカ
二酸化ケイ素(SiO2)は、”シリカ”とも呼ばれています。
食品の乾燥剤として使われているシリカゲルのシリカです。
シリカゲルも小さな穴がたくさん空いていて吸水するものなので、人工的に作った珪藻土のようなものです。
珪藻土とシリカゲルの違い
ただ、珪藻土とシリカゲルの大きな違いは、珪藻土は吸った水を湿度の低いときに放出するのに対して、シリカゲルは吸水した水を簡単には離さないというところにあります。
これは、穴の大きさ(と深さ)によるものです。
シリカゲルの穴は珪藻土より小さく、一旦中に入った水が中々出てこれないのです。
温度を上げるとさすがのシリカゲルでも水を放出するので、フライパンで焼けばシリカゲルは再生利用できます。
気が向いたら試してみてください(試す人なんていないか)。
シリカゲルにも色々ある
シリカゲルは人工的に作られるので、穴の大きさなどをコントロールすることもできます。
ですから、珪藻土のように吸湿、脱湿するようなシリカゲルを作ることも可能なのですが、用途が少なくあまり出回っていません。
珪藻土の発がん性
最後に、よく話題に挙がるシリカの発がん性について触れておきます。
結晶性シリカの粉末は、発がん性が認められていますが、珪藻土を含む非晶性シリカについては、有効なデータが出ていません。
「発がん性はあるかもしれない」
としか言えない状況です。
ただし、珪藻土を扱う仕事をしていて毎日のように珪藻土の粉末を吸い込んでいる人が、がんになる確率が上がるかどうかといったレベルでの話です。
もし、珪藻土バスマットなどで発がん性を気にするのであれば、表面を削るときなどには、粉末を吸い込まないようにマスクをするようにして下さい。
珪藻土が吸水する仕組みを記事にした理由
珪藻土の吸水の仕組みをネットで調べてみると「小さい穴が空いていて表面積が大きい」という説明はよく目にします。
しかし「珪藻土の表面が水を吸着しやすい」という説明はほとんど見かけませんでした。
穴と表面積だけなら、活性炭の方が珪藻土の何十倍も表面積が大きいので、より多くの水を吸うはずです。
しかし活性炭は、あまり水を吸収しません。
珪藻土の表面は水が吸着しやすく、活性炭の表面は水ではなく有機物が吸着しやすいというのがその理由です。
そこで、この記事では珪藻土の表面の構造に重点を置いて説明してみました。
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