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フェルマーの最終定理とは? 証明される前から定理と呼ばれた大予想

三平方の定理

数学の超有名な問題「フェルマーの最終定理」

1995年にアンドリュー・ワイルズによって証明されましたが、問題が知られてから300年以上もかかった難問です。

この「フェルマーの最終定理」、ワイルズが証明する前から「最終定理」と呼ばれていました。

「定理」は証明されたものに使う言葉で、証明されていない問題は「予想」と呼ばれるのが普通です。

【参照】ABC予想とは何か! 望月教授のIUT理論が解決した?数学の難問

なぜ証明されていないのに「フェルマーの最終定理」と呼ばれていたのでしょうか?

フェルマーの最終定理とはどんなものか、そしてなぜ「定理」と呼ばれるようになったのか、簡単に解説してみたいと思います。

目次

フェルマーの最終定理とは

フェルマーの最終定理は、17世紀の数学者 ”ピエール・ド・フェルマー” が書き残した問題です。

問題自体は簡単に理解できるのですが、証明することが難しく、長年にわたって数学者を悩ませ続けました。

フェルマーの最終定理の内容

フェルマーの最終定理を現代の言葉になおすと、

n>2のとき

xn+yn=zn

を満たす自然数x、y、zは存在しない

というものです。

nが2のときは、x2+y2=z2 と三平方の定理の式になって、これを満たすx、y、zは無限にあります。

32+42=52(9+16=25)などがその例で、このような数をピタゴラス数と呼びます。

でもnが3以上になると答えがないというのがフェルマーの最終定理です。

フェルマーの最終定理の書き残し

フェルマーには、ディオファントスの『算術』という本の余白に自分が気づいたことを書き込むという習慣がありました。

全部で48の書き込みがありましたが、その中のひとつがフェルマーの最終定理でした。

実際の書き込みはこんな感じです(Wikipedia訳)。

立方数を2つの立方数の和に分けることはできない。4乗数を2つの4乗数の和に分けることはできない。一般に、冪(べき)が2より大きいとき、その冪乗数を2つの冪乗数の和に分けることはできない。この定理に関して、私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる。

Wikipedia

私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる

とフェルマーは証明を見つけたと書き込んでいます。

フェルマーは最終定理を証明していたのか?

フェルマーは本当に最終定理を証明していたのでしょうか?

「数多くの数学者が挑戦して1995年にやっと証明された定理を、フェルマーという天才は1600年代に証明していた」

本当にそうなら、わくわくするような話です。

でも、実際にはきちんと証明できていなかったと考えられています。

ただ「証明した」と書き残していることは「定理」と呼ばれた理由のひとつでしょう。

フェルマーの定理の時代背景

本

フェルマー自身が「証明した」と書き残していることは「定理」と言われた理由のひとつと言えます。

でも

本の書き込みに『証明した』と書いてあるから証明されている『定理』だ

なんて無邪気に信じられるはずもありません。

それなりの背景があるはずです。

そこで、少し当時の時代背景に触れてみたいと思います。

ディオファントスの時代

フェルマーが書き込みをしていたのは、古代ギリシャの数学者ディオファントスの『算術』という本です。

ディオファントスが『算術』を書いたのは3世紀頃、フェルマーが読む1400年も前に書かれた本でした。

フェルマーはこの本を1630年代に読み、そこから数論のおもしろさや深遠さに目覚めたようです。

でもフェルマーのような大数学者が1400年も前の本に刺激を受けるというのは不思議な気がします。

古代ギリシャの数論

古代ギリシャでは紀元前から数学が発達しました。

ピタゴラスが、フェルマーの最終定理にも関連する三平方の定理を証明したのは紀元6世紀のことです。

ユークリッドが有名な『原論』を書いたのが紀元3世紀、そう考えるとディオファントスの紀元3世紀はつい最近のような気さえします。

その古代ギリシャの数論の集大成がディオファントスの『算術』だとも言えます。

『算術』の背景には、紀元前から脈々と受け継がれ発展していった歴史があるのです。

ヨーロッパの数学

古代ギリシャでは高度な数学が知られていましたが、あくまでも古代ギリシャの学者たちの間でのことです。

門外不出とまではいわないものの、広い地域に広まるようなものではありません。

古代ギリシャの数論はアラビアには伝わっていたようですが、ヨーロッパでは完全に忘れ去られていました。

フェルマーが産まれたフランスでは知る由もなかったのです。

ヨーロッパへの数論の広がり

1453年に古代ギリシャの知識が大量に流出するきっかけとなった大事件が起きます。

ギリシャ帝国(東ローマ帝国)の滅亡です。

そのときに学者たちが大量の文献を抱えてヨーロッパへ逃亡したことで、古代ギリシャの知識がヨーロッパに知られることになったのです。

その文献の中にディオファントスの『算術』もありました。

フェルマーがディオファントスの数論を読んだ時期

実際にディオファントスの『算術』が知られるようになるのは、翻訳されてからのことです。

最初に翻訳されたのが1575年で、フェルマーが読んだのは1621年にバシェによって翻訳されたものです。

フェルマーが『算術』を読んだ1630年代は、ヨーロッパの人々がようやく古代ギリシャの数論を目にすることができるようになった時代なのです。

古代ギリシャで多くの学者が長い年月をかけて作り上げた数論、その集大成がいきなり目の前に現れた、と考えればフェルマーが刺激を受けたことも納得できます。

ただ当時のヨーロッパではフェルマー以外に数論に強い興味を示した人はいなかったようです。

フェルマーは、数論に関しては孤立していました。

研究の記録

17世紀には学術論文などはありません。

自分の発見した定理などは、数学者同士手紙でやりとりしていました。

しかし数論の場合は、他に興味を示している数学者がいないため一方的に送り付ける形が多くなります。

数学者同士が送り合った書簡があれば、その証明の過程などもある程度わかりますが、それができません。

また自分の見つけた独創的な発見は、優先権を主張するため証明は載せず、それを使った結果だけを送ることが多かったようです。

ですから、数論に関してフェルマー自身が証明した結果はほとんど残っていないのです。

現在なら新しい定理を証明したら発表するのが当然ですが、フェルマーの時代には証明は発表しないのは、ある意味当然のことでした。

ですから、当時の人々が「本当に証明していたのではないか」と考えても不思議ではありません。

フェルマーの業績

数字

フェルマーは単に「フェルマーの最終定理」に名を残しただけの人物ではありません。

他にも大きな業績を沢山残しています。

それをみれば、フェルマーの最終定理が「定理」と呼ばれたことも納得できるのではないでしょうか?

数論の業績

フェルマーは「数論の父」と呼ばれるほど、自然数を扱う数論で大きな業績を残しています。

その業績は基本的に『算術』への書き込みによるものです。

『算術』への書き込みは、それだけで大きな価値のあるものだったのです。

その中には48個の問題があり、後に数論の重要な定理となったものが沢山あるのです。

もちろん証明は載っていません。

フェルマーの書き込みを後の数学者が証明していったのです。

中には間違いもありましたが、数論の重要な定理が次々と証明されたことでフェルマーの書き込みは「定理」と呼ばれるようになったのでしょう。

そして最後まで解決できなかった問題を「フェルマーの最終定理」と呼ぶようになったのです。

算術への書き込みの公開

フェルマーが『算術』に書き込んだ内容は、息子の ”サミュエル・ド・フェルマー” が『算術』を再販したときに付録として記載しました。
そのおかげで人々の目に触れるようになったのです。
もしサミュエルが公開しなかったら数学の歴史も大きく変わったことでしょう。

数論以外の業績

フェルマーの業績は数論だけではありません。

当時は、確率論、解析幾何学、微分積分学などの新しい数学が誕生した時代ですが、全ての分野でフェルマーは大きな業績を残しています。

【参照】確率は難しくて当たり前? 数学者も悩んだ確率論の話

単に『算術』に書き込みを遺した数論専門の数学者ではなく、誰もが認める偉大な数学者だったのです。

その権威性も「定理」と呼ばれることに一役買ったことでしょう。

フェルマーの最終定理の証明

フェルマーの最終定理は、1995年にイギリスの数学者 ”アンドリュー・ワイルズ” によって証明され本当の意味での定理になりました。

その証明は現代数学の最先端を組み合わせた複雑なものです。

現代の数学者でさえ簡単に理解することはできません。

フェルマーがこれと同じ証明を行ったということは絶対にあり得ません。

もしフェルマーが最終定理を証明していたとすれば全く違うアプローチだったはずです。

フェルマーでも可能だったかもしれない素朴な証明方法が見つかれば、

私は真に驚くべき証明を見つけたが、この余白はそれを書くには狭すぎる

が本当だったということになるかもしれません。

そうなれば面白いのですが、残念ながら期待薄のようです。

三平方の定理

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