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フロンとは何か? オゾン層を破壊した夢の化学物質

フロン廃材

フロンは、オゾン層を破壊する物質だということを知っている人は多いでしょう。

オゾン層は、上空10~50キロメートルの成層圏にあって、有害な紫外線が地表に届くのを防いでくれています。

そのオゾン層を破壊するということで、フロンの生産や使用は制限され、もはや身の回りで目にすることはありません。

今では、すっかり悪役になってしまったフロンですが、開発当時は「夢の化学物質」と言われて大歓迎された物質だということをご存知ですか?

そんなフロンの特性と歴史をわかりやすく説明してみたいと思います。

目次

フロンとは何か

実はフロンは特定の物質の名前ではなく、「フロンとは何か?」と訊かれても明確な答えはありません。

Wikipediaにも

フロン類(フロンるい)は、炭素と水素の他、フッ素や塩素や臭素などハロゲンを多く含む化合物の総称。場合によって指す物質の範囲は異なる。
Wikipedia

と書かれています。

炭素、水素、フッ素、塩素、臭素でできている物質ですが、その中でどの物質をフロンと呼ぶのかははっきりしないのです。

ここでは、代表的なフロンとして、フロン12とフロン11を紹介します。

フロン12

最初に開発されたフロンは、フロン12と呼ばれる物質です。

正式名称は ”ジクロロジフルオロメタン” 、炭素1つに、塩素とフッ素が2つずつ結合した化合物です。

冷蔵庫の冷媒用に開発されたもので、沸点が-30℃の気体です。

フロン11

フロン11も冷凍機用によく利用されていたフロンです。

正式名称 ”トリクロロフルオロメタン” 炭素1つに、塩素3つとフッ素が結合した物質で、フロン12のフッ素1つを塩素に置き換えた構造になっています。

沸点が24℃なので室温で、液体になったり固体になったりします。

フロンの性質を簡単に

フロン11と12は構造は似ていますが沸点がかなり違います。

フロンは構造を変えることで、色々な沸点を持ったものを作ることができるのです。

フロン12は、室温で気体です。

そのフロン12に圧力をかけて液体にした状態でスプレー缶に入れておくと噴霧剤になります。

かつては、ヘアスプレーや殺虫剤など家庭用スプレーにも普通に使われていました。

フロン11は、室温付近に沸点があることを利用して、冷凍庫の冷媒洗浄剤(洗ってもすぐ乾く)に広く使われていました。

このように目的に応じた沸点の材料を設計できるのが大きな特徴です。

夢の化学物質と呼ばれた訳

スプレー

フロンが夢の化学物質と呼ばれた訳は、沸点を設計できることだけではありません。

フロンの一番の長所は、反応性が低く化学反応をほとんど起こさないということです。

化学反応を起こさないと、どんな利点があるのでしょうか?

燃えない

まず大きな利点は「燃えない」ということです。

燃焼というのは空気中の酸素と反応する化学反応ですから、反応を起こさないフロンは燃えません。

ですから火災や爆発の原因にならないばかりではなく、消火剤にすらなります。

フロンは安全性の高い物質なのです。

毒性が低い

もうひとつ大きな利点は、毒性がほとんどないということです。

フロンが体の中に入っても、化学反応を起こしません。

体内で何の変化も起こさないのですから、毒にも薬にもならないのです。

フロンの発明者 ”トーマス・ミジリー” は、それを証明するため、フロンを吸い込んで、ろうそくの火を吹き消すというパフォーマンスをしたくらいです。

安全性が高いので、可燃性や毒性のある液体や気体が使われていた部分は、どんどんフロンに置き換えられていったのです。

フロンの主な用途は冷蔵庫

ミジリーは、冷蔵庫、冷凍庫の冷媒としてフロンを開発しました。

当時の冷蔵庫には、アンモニアや塩化メチル、二酸化硫黄などの毒性が強い物質が使用されていたため、漏洩による事故が絶えませんでした。

それを解決するために安全な冷媒として開発したのがフロンです。当然、当時の人々に大歓迎された大発明だったのです。

実は、あのアインシュタインも安全な冷蔵庫を開発していたのですが、ミジリーのフロンを使ったものには勝てませんでした。

≫≫世界で一番地球環境を破壊した男? トマス・ミジリーの功と罪

夢の物質の転落

成層圏

フロンが普及し始めたのは1930年代のことです。

40年後の1970年代半ばに、成層圏で活性化した(結合が切れた)塩素がオゾンを破壊することが指摘されます。

フロンは化学反応を起こさないため、そのままの状態で上空に到達します。

オゾン層に達すると、オゾンで防御されていた強烈な紫外線にさらされます。

そうなると、さすがのフロンも分解されてしまい、分解してできた塩素がオゾンを破壊するのです。

その10年後、実際にオゾン層の破壊が進んでいることが観測されました。

そして1987年のモントリオール議定書によって、フロンの製造や使用が制限され始めました。

その制限は、時を経るごとにどんどん厳しくなっています。

化学反応を起こさず安全だという長所が、化学反応を起こさないままオゾン層に到達するという短所になってしまったのです。

代替フロンとは

塩素がオゾン層を破壊するのなら、塩素を使わなければいいと考えるのが普通でしょう。

広義のフロンは、炭素、水素、フッ素、塩素、臭素でできている物質です。

塩素が必須なわけではありません。

そこで塩素を含まない代替フロンと呼ばれる物質も開発されました。

しかし現在ではこれらの代替フロンも規制の対象になっています。

オゾン層は破壊しませんが、温室効果が高く地球温暖化を促進するからです。

その温室効果は、CO2の100倍~1万倍にも及びます。

≫≫温室効果ガスとは? 二酸化炭素以外にも地球温暖化の原因になる気体が

トマス・ミジリー

フロンの発明者 ”トマス・ミジリー” は、アメリカの化学者で、数多くの発明をして大きな賞賛をあびた人物でした。

その中で特に大きな業績とされていたのが、夢の物質フロンの発明と、ノッキングを起こしにくいハイオクガソリンの発明でした。

ミジリーが発明したハイオクガソリンは、鉛を使った有鉛ガソリンと呼ばれるものです。

有毒で大気汚染の原因になるため、現在は規制の対象(日本では自動車用には使用禁止)になっています。

生前に絶賛されたフロンとハイオクガソリンが、両方とも環境破壊の要因になったことで、今ではミジリーは悪役扱いされています。

生前評価されず、後の時代に評価された偉人は沢山いますが、逆のパターンは珍しいのではないでしょうか?

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フロン廃材

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