「低気圧が近づくと雨が降る」
それはわかっていても、低気圧とはどんなもので、なぜ雨が降りやすいのか、どんな種類があるのか、そこまでは知らない人も多いと思いのではないでしょうか?
そこで、その低気圧について、わかりやすく説明してみましょう。
低気圧とは?
低気圧というのは、周囲より気圧が低い部分を差します。
気圧というのは、大気の圧力で「ヘクトパスカル」で表されるものです。
あくまでも周囲より気圧が低ければ低気圧なので、周囲の気圧が高いところでは1気圧(1013ヘクトパスカル)よりも気圧が高い低気圧もあり得るのです。
低気圧で雨が降る理由
低気圧で雨が降る理由は『台風の目とは? 中心だけ晴れる仕組みを説明してみた』という記事でも説明しましたが、もう一度簡単におさらいしておきます。
低気圧は周囲より気圧が低くなっています。
空気は気圧が高いところから低いとことに移動するので、低気圧に向かって風が流れ込むことになります。
流れ込んだ空気は行き場を失い、上に向かう上昇気流になります。
上空に行くほど温度が低くなるので、上昇気流も低温になり湿気が結露して雲ができ、雨が降るのです。
低気圧はなぜ安定して存在するのか
ここまでが、よくある一般的な解説です。
でも、この説明はかなり不十分です。
低気圧に向かって空気が流れ込むのは間違いありません。
その後に「行き場をなくして上に向かうため、上昇気流になる」という部分が言葉足らずで不正確なのです。
もう少しだけ深く考えてみましょう。
上昇気流が発生する理由をもう一度説明してみる
低気圧が存在したときに、上昇気流が発生する理由を違う角度から説明してみます。
気体は圧力の高いところから低いところに、圧力が一定になるように移動します。
圧力が一定になったら、それ以上力は働きません。
ただ、流れ込む風の勢いは急に止まれず、そのまま動き続けようとします(慣性力と呼びます)。
その慣性力によって、圧力が周囲と同じになっても風が流れ込み、圧力が上がります。
周囲から慣性力で空気が流れ込んでいるので圧力の逃げ場は上しかありません。
そのため、上昇気流が発生します。
何か変です。
圧力が高くなって上昇気流が発生するのなら、もう低気圧とは呼びませんよね。
低気圧が存在できる理由
気圧の低い場所があったら、そこに空気が流れ込み、上昇気流が発生するのは間違いなさそうです。
問題は、低気圧が存在し続けることができるのはなぜか?
というころです。
低気圧が存在し続けるためには、気圧が低い状態を保つような機構が必要なのです。
そのためには、上昇気流が上に引っ張るような力が働いていないといけません。
空気が集まるからに向かうというより、上から空気を吸い込んでいるという状況が必要です。
上昇気流を作る力
実は上昇気流を作り出す力は、常に働いています。
気温は地上に近いほど高く、上空に行くほど低くなっています。
そして空気は暖かいほど軽くなります。
地上付近の暖かい空気の一団が上空に昇ると、周囲の空気より軽く浮力で上に向かう力が働くのです。
何かのきっかけで、いったん上に向かう上昇気流ができると、この浮力で安定します。
液体を下から熱したときに起きる対流も同じ現象です。
上昇気流を作る力が足りない
でも、それだけでは、低気圧が存在するのには足りません。
上の図のように、直線状の場所に左右から空気が流れ込むのなら温度差での浮力で大丈夫です。
でも、低気圧のように四方八方から空気が流れ込む場合、入ってくる空気が多すぎて、これだけでは低気圧を維持できないのです。
更に上昇気流を強くする要因がなければ、低気圧は安定して存在できません。
低気圧を存在させる仕組みと低気圧の種類
低気圧は、その仕組みによって分類されています。
私たちに関係する低気圧とその仕組みを説明しておきましょう。
温帯低気圧
日本近辺で発生する低気圧は、温帯低気圧と呼ばれるものです。
温帯低気圧は、赤道付近からの暖かい空気と北極付近からの冷たい空気がぶつかることで生じます。
暖かい空気が冷たい空気とぶつかることで、暖かい空気の浮力が強くなります。
これによって、低気圧が維持されつのが「温帯低気圧」です。
ですから温帯低気圧は、暖かい空気と冷たい空気がぶつかる「前線」を伴うことが特徴です。
熱帯低気圧
熱帯低気圧は赤道に近い高温の場所で発生します。
上昇気流ができると、湿気が雲になることを説明しましたが、そのとき潜熱という熱を発生します。
水が蒸発するときには気化熱を奪って冷えますが、水蒸気が水になるときはその逆です。
潜熱が大きければ、上昇気流の温度が上がり、温度が高くなれば軽くなり、浮力が大きくなります。
暖かい海の上は海水が蒸発して湿気が高い状態です。
低気圧には、そのような海上では極端に湿った空気が風として流れこんでくるのです。
それが、一旦上昇気流になると、雲ができるときの潜熱が大きく温度の上昇も高くなり、浮力が大きくなって低気圧が維持できるのです。
熱帯性低気圧は、湿った海上でなければ維持されないので、上陸すると勢力が急激に衰えます。
温帯低気圧は暖気と寒気によって形成されるもの、熱帯低気圧は湿った暖気のみで形成されるもので、低気圧を維持する浮力の機構が違うのです。
台風とは?
台風は、風速が1秒間に17.2メートルを超える熱帯低気圧のことを差します。
熱帯で発生した熱帯低気圧が、暖かい海の上を北上してきて風速17.2メートルを超えると台風と呼ばれるのです。
台風の消滅
台風が台風でなくなるとき、台風が消滅したと呼びます。
台風は「風速が1秒間に17.2メートルを超える熱帯低気圧」でした。
その台風が台風と呼べなくなる機構には2種類あります。
- 風速が17.2メートル以下の熱帯低気圧になったとき
- 熱帯低気圧ではなく、温帯低気圧になったとき
の2つです。
1の場合は、勢力が弱まっていることは確かです。
しかし2の場合は勢力とは関係ありません。
暖気だけで形成されていた低気圧が寒気団とぶつかり、暖気と寒気で形成される低気圧に変わっただけで、風速が低下したかどうかはわかりません。
台風が温帯低気圧に変わるるとき、「台風は温帯低気圧に変わりましたが、引き続き注意が必要です」といった注意情報が流れることが多いのはそのためです。
最後に
ここまで、わかったふうな口ぶりで説明してきました。
でも、空気の流れ、それも潜熱まで加わる場合なんて、実は難し過ぎてよくわかりません(圧縮性流体の挙動だけでも頭が混乱するのに……)
どんなときに低気圧が安定するのか、ちょっと計算してみるという訳にはいかないのです。
結局はかなり単純なモデルでシミュレーションして挙動をみる、それが我々にできる唯一の方法かもしれません。
流体の基礎理論はわかっているのに、気象予報に使われているクラスのスーパーコンピューターでもまだ性能不足なくらいですから。