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MRIは原子核を使った検査?原理・仕組みと注意点をわかりやすく説明

MRI検査風景
Shutterstock

MRIは体の内部の状態を詳細に調べることができる検査方法で、現代の医療分野には欠かせないものになっています。

ただ、大がかりな装置を使うこともあって検査に不安を持つ人もいるのが現状です。

人間はわからないものに対して不安を持つ傾向があります。

MRI検査の仕組みや注意点を理解すれば、安全性を自分で判断できるようになり、不安も解消されるはずです。

そこで、MRIとはどんなものか、どんな注意点があるのか説明していきます。

目次

MRIの正式名称は磁気共鳴映像法

MRIは、磁気共鳴映像法Magnetic Resonance Imaging)です。

名前からは、磁気を使っていることくらいは予想できますが、それ以上のことはわかりません。

実は、MRIというのはかなり省略した呼び方で、もう少し原理に即した名前があります。

あまり印象はよくありませんが、MRIの原理を説明するためには避けては通れないので、そこから説明していきます。

MRIは核磁気共鳴映像法ともいう

MRIは「核磁気共鳴映像法」とも呼ばれます(Wikpediaではこちらの名称を使っています)。

先ほどの「磁気共鳴映像法」の前に「核」という言葉がついています。

核というのは原子核のことです。

原子核の磁気共鳴を利用した映像化技術これがMRIなのです。

ですからMRIの利用開始当初は「核磁気共鳴コンピューター断層診断(Nuclear Magnetic Resonance Computer Tomography)」と呼ばれていました。

原子核は怖くない

原子核というと、放射線被ばくなどを連想して怖いイメージがあるかもしれません。

でも、放射能は原子核が他の原子核に変化する核反応の際に発生するもので、核反応さえ起こらなければ原子核と放射能は関係ありません。

もちろんMRIは核反応は全く使っていません。

皆さんの身体を含め全ての物質は原子からできていて、原子の中には原子核があります。

世の中原子核だらけなのです。

MRIは、検査する人の体内にある原子核の状態を知る検査法です。

元々体の中にあるものの状態を調べるだけなので、原子核といっても何も恐れることはありません。

MRIと呼ばれるようになったわけ

MRIは、「核磁気共鳴」から「核」を除いて「磁気共鳴」という言葉を使うようになりました。

その理由は、核という言葉のイメージが悪いことにあります。

患者さんの不安を招かないように、あえて「核」という言葉を使わないようにしたのです。

ちなみにNMRの大きな特徴は「放射線被ばくの危険性なしに体内の状態を知ることができる」ことです。

核という言葉のイメージと真逆なのです。

せっかく、被ばくがないという利点を持っているのに、逆の印象を与えてしまうことを避けるために、核という文字をのぞいたのです。

MRI検査の原理・仕組み

MRI検査装置

MRIは、放射線被ばくの可能性はありませんが、危険性ゼロで何の心配もないというわけではありません。

注意点などを知るために、MRI検査の原理や仕組みについて説明していきましょう。

原子核は自転している?

MRIの原理を説明するためには、原子核のスピンという性質を知らなければなりません。

きちんと説明するためには、量子力学という理論が必要になるのですが、ここではそこまで踏み込みません。

とりあえず「原子核は自転している」と思ってください。

実際には原子の種類によって、原子核が自転しているものとそうでないものがあります。

MRIは、水素の原子核を利用していて、水素は自転している部類に入ります。

原子核のスピン
原子核は、陽子と中性子でできています。

原子核を構成している陽子や中性子がスピンしているのですが、ふたつの粒子は互いに反対方向にスピンして合わせるとスピンゼロになります。

陽子と中性子の数が偶数なら全て打ち消し合ってスピンセロ、奇数ならひとつあまった分全体としてスピンしている状態になるのです。

水素の原子核は陽子ひとつだけでできているので、スピンしている部類に入ります。

スピンしている原子核は小さな磁石

原子核は、プラスの電荷を持った陽子と電荷を持たない中性子からできています。

ですから、全体としてプラスの電荷を持っています。

電荷を持ったものが回転していると磁場が発生します。

スピンしている原子核は小さな磁石になっていると考えることができるのです。

小さな磁石に磁場をかけてみる

スピンしている原子核を強い磁場の中に置いてみます。

すると原子核のN極と磁場のS極、S極と磁場のN極が引き合います。

回転している原子核に、一定方向を向かせるような力が加わるのです。

回転しているものに力が働くと歳差運動する

回転しているものに力が働くと歳差運動という現象が起こります。

回っているコマが首振り運動するのが、歳差運動の典型的な例です(回転しているコマに重力が働くことで起こります)。

地球に自転していて、太陽などからの重力を受けているので地軸の向きが首を振るような歳差運動をしています。

それと同じように磁場内の原子核も歳差運動をします。

原子核の歳差運動

電磁波を当てる

この状態で原子核に電磁波(電波)を放射します。

歳差運動の周期と電波の周波数が一致すると歳差運動が一気に激しくなる共鳴という現象が起きます。

電波の周波数を変えていけば、共鳴を起こす周波数が測定できます。

これを核磁気共鳴と呼びます。

共鳴する周波数は何で決まるのか?

共鳴する周波数は原子の種類によって変わります。

また、同じ原子でも周囲の環境が違えば、わずかに違ってきます。

例えば、酸素原子と結合している水素と炭素原子に結合している水素では、共鳴周波数に違いが出てくるのです。

MRIでは、酸素と結合して水になっている水素原子の共鳴周波数を測定します。

水になっている水素でも環境によって違う

同じ水分子の水素ですから、共鳴周波数はほとんど違いはありません。

でも詳細にみていくと、その水がいる環境によってほんの少し違いが出てきます。

それを観測すると、どんな環境にある水がどこにあるかがわかります。

人間の体の65%は水でできていますので、その水の状態がわかれば体内の様子が手に取るようにわかるのです。

これがMRIの仕組み、原理です。

核磁気共鳴の話
核磁気共鳴は1946年に発見された現象です。

化学物質の分析方法として発展し、化学にたずさわる人にとっては非常に身近なものになりました。

化学分析の世界での呼び名はNMR(核磁気共鳴)、化学の人間にとっては「核」という言葉はごく当たり前のことなので省く必要は全くなかったのです。

MRIの注意点・磁性体の持ち込み厳禁

MRI検査では、まず強い磁場の中に入ることになります。

そう考えると、磁石に反応するようなものがあると不具合が出ることは簡単に予想できるでしょう。

磁性体と呼ばれるものはMRI検査には絶対に持ち込んではいけないのです。

少し具体的な例を挙げてみましょう。

金属の持ち込みは絶対にダメ

磁性体の代表といえば金属です。

金属でできたアクセサリーなどは全部外しましょう。

レントゲンでは金属があるとその部分が黒くなって診断ができない程度ですが、MRIの場合は発熱によってやけどしたり、装置を壊したりする可能性があるので「ちょっとくらい」は通用しません。

心臓にペースメーカーを埋め込んでいる人は取り外すというわけにはいかないので、基本的にMRI検査はできません。

最近では、条件付きでMRI検査可能なペースメーカーもありますので、医師の判断に任せましょう。

その他、外科手術などで金属を埋め込んでいる場合もMRI検査はできません。

化粧品や入れ墨も注意が必要

化粧品の中には磁性体が入っていることがあります。

これはやけどの原因になります。

MRI検査の時は化粧は完全に落としましょう。

また、入れ墨にも磁性体が入っていることがありますので注意が必要です。

磁気記録メディアなど

こんなことをする人はいないと思いますが、磁気記録メディアはMRIでデータが破壊される可能性があります。

プラスチックだから大丈夫と思って、磁気記録タイプのクレジットカードやプリペイドカードを持ち込んでしまうと、使えなくなる可能性が高いと思ってください。

MRIのその他の注意事項

MRI検査風景
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注意事項というほどではありませんが、不安を感じる人がいるかもしれないので、その他の安全性についても説明しておきます。

強い磁場の人体への影響は?

私たちは地球の磁場の中で生活しているので、わずかな磁場は体に影響がないことは確かです。

ただ、MRIの磁場は桁違いに強いものです。

磁場が強いほど、解像度が上がって鮮明に見えるので、MRI装置の磁場はだんだん強くなる方向に進んでいます。

こんなに強い磁場がかかっても身体に悪影響はないのでしょうか?

絶対に影響ないとは言い切れませんが、医療機器なので厳しい臨床検査を受けて人体に影響がないことが確認されてから認可されていますので、あまり気にする必要はないでしょう。

電磁波の影響は?

MRIでは、強い磁場とともに電磁波を放射します。

この電磁波は、FMラジオに使われている電波の周波数と同じくらいです。

電子レンジの仕組みを簡単に説明! 電波を使って加熱する不思議』で説明しましたが、電波は水などを振動させて発熱させます。

なので理論的には体内の温度が上昇する可能性はありますが、実際には発熱量が少なく問題になることはありません。

※参照≫≫Wi-Fiの電波は身体に悪いのか?

電子レンジに使われているマイクロ波よりも、MRIで使われているラジオ波の方が発熱効果は小さいことも付け加えておきます。

MRIとCTスキャンの違い

MRI画像
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最後に、MRIとCTスキャンの違いを簡単に説明しておきます。

CTスキャンのCTは、コンピューター断層診断(Computer Tomography)の略で、コンピューターを使って体内の状態を映像化する手法のことです。

ですから、MRIもCTの一種です。

しかし、一般的にCTと呼ばれるのは、X線を使った断層診断のことを差します。

レントゲンを高度にしたものと考えてもいいかもしれません。

X線は放射線の一種なので浴びすぎると被ばくの可能性があります。

もちろん、医師、検査技師の指示に従えば問題がない程度ですが、何度も続けて検査することは避けなければいけません。

MRIでは、水の状態を検出しているので、X線ではみることができない血管の状態(血管造影剤を使えばCTでも見れる)までわかるなど、より詳しい情報を得ることができます。

ただしMRIは装置が大がかりで費用が高く、検査時間が長い、騒音が大きいなどの問題点があります。

検査中は動いてはいけないので、検査時間が長いのはつらいですよね。

*MRIについてもう少し詳しく知りたい方のために参考文献を載せておきます。

http://www.jsac.or.jp/bunseki/pdf/bunseki2019/201901nyumon.pdf?utm_campaign=piqcy&utm_medium=email&utm_source=Revue%20newsletter

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MRI検査風景

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