コペルニクスの地動説はコペルニクス的転回だったのか? という記事で、コペルニクスの地動説を説明しました。
そこで地動説はコペルニクス的転回の第一歩に過ぎないという考えを示しました。
今回は、続きとして、その後に起きた本当のコペルニクス的転回、パラダイムシフトの経過を辿ってみたいと思います。
コペルニクスの地動説の復習
とりあえず、前記事の復習です。
地動説は、古代ギリシャの時代からありましたが、
- 地球が動いているのなら地球上のものが取り残されるはず
- 地動説が本当なら観測されるはずの年周視差が観測されないこと
- プトレマイオスの天動説で惑星の運行が計算できるようになったこと
という理由で廃れていきました。
それを復活させたのが、”ニコラウス・コペルニクス” で、地動説では1年の長さが自然に説明できることが、主な理由でした。
そして、プトレマイオスの天動説と同じように惑星の運行を計算できるモデルを作りあげました。
地動説が廃れた原因のひとつ「プトレマイオスの天動説で惑星の運行が計算できるようになったこと」については、これで解消されました。
しかし、本当に地球が動いていると思う人は、ほとんどいませんでした。
3種類の宇宙
ここから、ガリレオやケプラーが登場します。
その前に当時考えられていた3つの宇宙モデルを説明しておきます。
プトレマイオスの宇宙
”クラウディオス・プトレマイオス” は、ギリシャの天文学者で、地球が宇宙の中心にあって太陽やその他の惑星が地球の周りを回るという天動説を唱えました。
恒星は天球と呼ばれる場所にあって、天球が地球の周りで回転しているとされてます。
火星や金星などの惑星は、行ったり来たりするような複雑な動きをしますが、それを説明するために周転円というものを導入しました。
惑星は、地球の周りを回るだけでなく、自らも円運動しているというものです。
簡単な図で示してみます。
中心の青い円が地球、赤い外周が天球でここに星々があり、太陽と惑星が地球の周りを回っています。
コペルニクスの宇宙
”ニコラウス・コペルニクス” の宇宙は中心に太陽を配置して、地球を含む惑星が太陽の周りを回るというものです。
恒星は天球にあって、中心が地球から太陽に変わっただけで、現在考えられている宇宙とはかなり違ったものです。
これによって惑星の逆行は説明できるようになりましたが、観測データと合わすために周転円の考えは残っていました。
ティコ・ブラーエの宇宙
コペルニクスの宇宙の発表から約50年後に”ティコ・ブラーエ” が新しい宇宙を提案しました。
ティコは天体観測に長けていて、正確な観測データを沢山残したことで知られています。
※彼の観測データは通常の5倍も精度が高いと言われたほどです。
宇宙の中心は地球で、地球の周りを太陽と月が回っているのは従来の天動説を同じですが、惑星は太陽を中心として回っているというものです。
これは地球を中心にした天動説ですが、コペルニクスの地動説とも似ているものです。
3種類の宇宙の比較
ここに、三種類の宇宙が出てきました。
どの宇宙でも惑星の運行を説明でき、これからの動きを予測することもできます。
実験で惑星の運行を観察しても、どれが正しいのかわかりません。
また、3つの宇宙には、天球があること、円運動が基本であること、という共通点があります。
パラダイムシフトの経過
ここから、パラダイムシフトへのカウントダウンが始まります。
そこには、ふたりの偉大な天文学者、物理学者がかかわってきます
ガリレオ・ガリレイの登場
ここで出てくるのが「それでも地球は動いている」で知られる”ガリレオ・ガリレイ” です。
ガリレオは、コペルニクスの宇宙が正しいと考えていました。
ガリレオは、実験という手段を物理に持ち込んだ人です。
その実験結果から「動いているものは動いている状態を維持する」という慣性の法則の提唱しました。
それによって「地球が動いているなら、その反動で飛ばされるのではないか」という地動説への反論を覆したのです。
そして、自ら望遠鏡を発明して天体を観測し、金星が月のように満ち欠けすることを発見しました。
これはプトレマイオスの宇宙では説明できませんが、コペルニクスの宇宙とティコの宇宙なら自然に説明できます。
このように、地動説を支持する基盤を固めていったのです。
ちなみに、ガリレオは潮の満ち引きが地球の運動によるものと信じていて(この考えは間違いでしたが)、それが地動説を支持する大きな理由だったようです。
ヨハネス・ケプラーの登場
”ヨハネス・ケプラー” は「ケプラーの法則」で知られる天文学者、物理学者です。
ケプラーは、ティコ・ブラーエの助手兼共同研究者として働き、ティコが亡くなった後、その観測データを受け継ぎます。
ケプラーは、観測データを重要視する(その他の固定概念を払拭する)という態度で研究をします。
そして、惑星の軌道を円ではなく楕円とすること、惑星が動く速度は一定でないことを仮定することで説明できることを発見しました。
現在「ケプラーの法則」として知られているものです。
プトレマイオスの宇宙、コペルニクスの宇宙、ティコの宇宙の3つは、精度については大差がありませんでした。
しかしケプラーの法則を使うことで、従来説の30倍と格段に精度が上がったのです。
ケプラーの宇宙は受け入れられたのか?
ケプラーの法則は、3つの法則を仮定するだけで、従来説より格段に精度よく惑星の運行を説明できました。
でも、すぐに受け入れられた訳ではありません。
あの、ガリレオですら惑星の軌道が楕円だということを最後まで認めませんでした。
物体は円運動するのが自然だという固定概念に縛られていたのです。
ガリレオは「動いているものは動いている状態を維持する」という慣性の法則の提唱者ですが、その基本も円運動だと考えていたようです。
地表の物体は、地球の自転によって円運動しているので、何もしなければその円運動を維持するという考えです。
円運動ではなく、直線運動を続けるというのは ”ルネ・デカルト” が最初に提唱したと言われています。
ケプラーの宇宙は、惑星の運行を計算する手段として優れていることは認められたものの、実際に惑星が楕円軌道を描いているという考えが広まることはありませんでした。
アイザック・ニュートンの登場
ここで、登場するのが、”アイザックニュートン” です。
ニュートンは、物体の自然な運動は円運動ではなく直線運動だとし、万有引力という力が働いていると仮定することで、完璧にケプラーの法則を説明しました。
物体の自然な運動は、円ではなく直線だったのです。
そして、これによって大きなパラダイムシフトが起きます。
円運動には中心があります。
直線運動には中心はありません。
別記事で、天動説は地球中心説、地動説は太陽中心説の訳語だということを説明しました。
≫≫地動説は正しく天動説が間違いというのは本当? 視点を変えて考えてみる
円運動が基本なら必ず中心があり、それが地球か太陽かで天動説と地動説が議論されていたのです。
直線運動が基本なら、中心はありません。
ニュートンが示したのは「宇宙に中心はない」という、それまでの議論を全てひっくり返すものだったのです。
まさに、コペルニクス的転回、パラダイムシフトです。
ちなみに、太陽系で惑星が太陽の周りを回っているのは、太陽が特別な存在だからではなく、惑星よりはるかに質量が大きいからに過ぎないのです。