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理想気体のエントロピー変化を計算してみる

熱力学授業

熱力学を学ぼうとしても、エントロピーって一体何なんだ? とよくわからないという人も多いと思います。

そんなとき、エントロピーってこういうものだよと説明するより、とりあえず計算してみるというのも一つの手かもしれません。

そこで、簡単な例として断熱状態で壁で仕切られた2つの部屋に理想気体が入っているとして、壁の状況を変えたときのエントロピー変化を計算してみたいと思います。

※スマホの表示では数式が途切れていることがありますが、左右にスライドすることで全体を見ることができます。

目次

理想気体のエントロピー変化

状態方程式${\small PV=nRT}$を満たすものを理想気体とします。

($P$:圧力、$V$:体積、$n$:モル数、$R$:ボルツマン定数、$T$:温度)

${\small P、V、n、T}$の4変数ありますが、状態方程式によって自由度は3つになります。

ここで、$n$を一定として(自由度2つ)、エントロピー$S$を$T$と$V$の関数で表します。

$${\small dS=\frac{1}{T}\frac{\partial S}{\partial T}dT+\frac{1}{T}\frac{\partial S}{\partial V}dV}$$

$${\small=\frac{nc_v}{T}dT+\frac{P}{T}dV}$$

$${\small=\frac{nc_v}{T}dT+\frac{nR}{V}dV}$$

($c_v$:等積モル比熱)

ここで、$c_v=const$ と仮定して、最初の状態を$V_1$、$T_1$、$S_1$、変化後の状態を$V_2$、$T_2$、$S_2$として積分すると、エントロピー変化は

$${\small \Delta S=S_2-S_1=nc_v\log\frac{T_2}{T_1}+nR\log\frac{V_2}{V_1}}$$

で表されます。

nも変化する場合の理想気体のエントロピーの求め方は、【モル数(分子数)を変数にした理想気体のエントロピーの求め方】で説明しています。

二部屋を仕切る透熱壁が固定されている系

二部屋を仕切る壁を通して熱だけが伝わる状態を考えてみましょう。

透熱壁を通して熱移動が起こり、部屋1の温度が$T_1$から$T’_1$に、2の温度が$T_2$から$T’_2$に変化したところで平衡状態に落ち着いたとします。

ここで添え字1は部屋1を、添え字2は部屋2を、添え字Tは両部屋の合計を表すことにします。

断熱系では系内のエントロピーは増加するので、平衡になったときの温度$T’_1$、$T’_2$でエントロピーが極大になるはずです。

部屋1、部屋2の温度を変数とし、それぞれ$t_1$、$t_2$と置きます。

エネルギー保存則より

$${\small n_1c_vT_1+n_2c_vT_2=n_1c_vt_1+n_2c_vt_2}$$

$${\small t_2=\frac{n_1T_1+n_2T_2-n_1t_1}{n_2}}$$

体積が一定なのでエントロピー変化は

$$ {\small \Delta S=n_1c_v\log\frac{t_1}{T_1}+n_2c_v \log\frac{t_2}{T_2}}$$

$$ {\small =n_1c_v\log\frac{t_1}{T_1}+n_2c_v \log\frac{(n_1T_1-n_1t_1+n_2T_2)}{n_2T_2}}$$

ここで$ {\small \Delta S}$が極大になる$t_1$を求めるために、微分します。

$${\small \frac{d\Delta S}{dt_1}=\frac{n_1c_v}{t_1}-\frac{n_1n_2c_v}{n_1T_1+n_2T_2-n_1t_1}}$$

平衡温度$ {\small T’_1、T’_2}$で、${\small d\Delta S/dt_1}=0$なので

$${\small (n_1T_1-n_1T’_1+n_2T_2)=n_2T’_1}$$

$${\small (n_1+n_2)T’_1=(n_1T_1+n_2T_2)}$$

$${\small T’_1=\frac{n_1T_1+n_2T_2}{n_1+n_2}}$$

と平衡状態の部屋1の温度$T’_1$は、$\frac{n_1T_1+n_2T_2}{n_1+n_2}$ということになります。

平衡状態での部屋2の温度$T’_2$は、

$${\small T’_2=\frac{n_1}{n_2}(T_1-\frac{n_1T_1+n_2T_2}{n_2+n_1})+T_2}$$

$${\small=\frac{n_1n_2T_1-n_1n_2T_2+n_1n_2T_2+n_2^2T_2}{n_2(n_2+n_1)}}$$

$${\small=\frac{n_1T_1+n_2T_2}{n_2+n_1}=T’_1}$$

平衡状態の温度T’は、${\small T’_1=T’_2}$となることが確かめられました。

念のため、${\small T’_1=T’_2=T’}$のとき${\small \Delta S\geq0}$であることを確認しておきましょう。

$${\small \Delta S=n_1c_v\log\frac{T’}{T_1}+n_2c_v \log\frac{T’}{T_2}}$$

$${\small =-n_1c_v\log(\frac{T_1-T’}{T’}+1)-n_2c_v \log(\frac{T_2-T’}{T’}+1)}$$

$ \log(x+1)\leq x$を使うと、

$${\small -n_1c_v\log(\frac{T_1-T’}{T’}+1)\geq -n_1c_v\frac{T_1-T’}{T’}}$$

$${\small -n_2c_v \log(\frac{T_2-T’}{T’}+1)\geq -n_2c_v\frac{T_2-T’}{T’}}$$

ここで、${\small n_1c_v(T_1-T’)=-n_2c_v(T_2-T’)}$なので、両辺を足して

$${\small \Delta S=-n_1c_v\log(\frac{T_1-T’}{T’}+1)-n_2c_v \log(\frac{T_2-T’}{T’}+1)\geq0}$$

両部屋の温度が等しくなるときに、エントロピーが極大になることが確認できました。

二部屋を仕切る透熱壁が可動な系

次に二部屋を仕切る壁が熱を通すだけでなく、移動する場合を考えてみます。

全体のエントロピー変化${\small \Delta S}$は、

$${\small \Delta S=n_1c_v\log\frac{T’_1}{T_1}+n_2c_v \frac{T’_2}{T_2}+n_1k_B\log\frac{V’_1}{V_1}+n_1k_B\log\frac{V’_2}{V_2}}$$

この場合は、熱移動による温度変化と透熱壁移動による体積変化が独立して起きるので、温度の項、体積の項それぞれが極大になる温度と体積で熱平衡になります。

右辺第1、第2項は${\small T’_1=T’_2}$で最大になることは前述の通り(前述の計算では体積一定という仮定も用いてません)です。

そこで透熱壁が移動したとき、右辺第3項と4項の和が最大になる$V_1$を求めます。

部屋1の体積$v_1$を変数として

$${\small \Delta S=n_1k_B\log\frac{v_1}{V1}+n_1k_B\log\frac{V_T-v_1}{V_2}}$$

$${\small \frac{d\Delta S}{dv_1}=\frac{n_1k_B}{v_1}-\frac{n_2k_B}{V_T-v_1}}$$

熱平衡時の部屋1の体積を$V’_1、V’_2$とすると

$${\small V’_1=\frac{n_1V_T}{n_1+n_2}}$$

$${\small V’_2=V_T-V’_1=\frac{n_2V_T}{n_1+n_2}}$$

となります。

${\small \log(x+1)\leq x}$より

$${\small -n_1k_B\log(\frac{n_2V_1-n_1V_2}{n_1V_T}+1)\geq -n_1k_B\frac{n_2V_1-n_1V_2}{n_2V_T}}$$
$${\small -n_2c_v \log(\frac{n_1V_2-n_2V_1}{n_2V_T}+1)\geq -n_2c_v\frac{n_1V_2-n_2V_1}{n_2V_T}}$$

両辺を足すと

$${\small ΔS=-n_1k_B\log(\frac{n_2V_1-n_1V_2}{n_1V_T}+1)-n_2c_v \log(\frac{n_1V_2-n_2V_1}{n_2V_T}+1))\geq0}$$
よって、壁が移動してエントロピーが極大値になるのは、

$${\small V’_1=\frac{n_1V_T}{n_1+n_2}}$$

$${\small V’_2=V_T-V’_1=\frac{n_2V_T}{n_1+n_2}}$$

のときだということがわかりました。

モル数(分子数)に比例するように体積を分割した場合が最大になるという結果ですね。

温度の項と併せると透温壁が可動な場合は、

$${\small T’_1=T’_2=\frac{n_1T_1+n_2T_2}{n_1+n_2}}$$

$${\small V’_1=\frac{n_1V_T}{n_1+n_2}}$$

$${\small V’_2=\frac{n_2V_T}{n_1+n_2}}$$

でエントロピーが極大になります。

ここで、${\small PV=nRT}$より

$${\small P’_1=\frac{n_1RT_1}{V’_1}=RT’\frac{n_1+n_2}{V_T}}$$

$${\small P’_2=\frac{n_1RT_2}{V’R_1}=k_BT’\frac{n_1+n_2}{V_T}}$$

エントロピーは、両部屋の温度と圧力が等しくなるときに極大になることが確かめられました。

エントロピー増大の法則を使って平衡時の温度と体積を計算すると、両部屋の温度が等しい、両部屋の圧力が等しい、というよく見知った結果になりました。

二部屋を仕切る断熱壁が可動な系

ここまでは、右辺第1,2項の温度の項と第3,4の体積の項が単独で変化できる場合を考えてきました。

断熱壁では自由な熱移動はできません。

でも断熱壁が動くと、断熱膨張、断熱圧縮によって温度が変化します。

そこで、体積を変数にとって温度の項と体積の項の和が極大になる場合を探してみます。

ただ、問題があります。

温度を体積の関数で表したいのですが、それが決まりません。

ということで、まずは準静的に変化させる場合を扱ってみましょう。

準静的に変化させた場合

断熱状態での理想気体の体積変化では、ポアソンの法則${\small PV^\gamma=const}$が成り立ちます($\gamma$は比熱比:$c_p/c_v$)。

また、ポアソンの法則は${\small PV=nRT}$を代入して、${\small TV^{\gamma-1}=const}$とも表されます。

$$ {\small \Delta S=n_1c_v\log\frac{T’_1}{T_1}+n_2c_v \frac{T’_2}{T_2}+n_1R\log\frac{V’_1}{V_1}+n_1R\log\frac{V’_2}{V_2}}$$

$R=c_p-c_v$より

$$ {\small \Delta S=n_1c_v\log\frac{T’_1}{T_1}+n_2c_v \frac{T’_2}{T_2}+n_1c_v(\gamma-1)(\log\frac{V’_1}{V_1}+n_2c_v(\gamma-1)\log\frac{V’_2}{V_2}}$$
$$ {\small =n_1c_v\log\frac{T’_1{V’_1}^{\gamma-1}}{T_1{V_1}^{\gamma-1}}+n_2c_v \frac{T’_2{V’_2}^{\gamma-1}}{T_2{V_2}^{\gamma-1}}}$$
第1項が部屋1のエントロピー変化、第2項が部屋2のエントロピー変化です。

ここで、ポアソンの法則によって${\small TV^{\gamma-1}=const}$なので、1項、2項ともにゼロになります。

準静的な変化では部屋1、2ともにエントロピー変化はありません。

断熱系での準静的な変化なので、エントロピーの定義から当然の結果です。

エネルギーが保存する場合

準静的に変化させる場合、断熱壁に外部から力を(圧力差に釣り合うように)与えて変化させるので、外部と仕事のやりとりがあります。

第1の例、第2の例では、準静的ではなく自然に変化する場合を考えてきたので、今回も同じ条件で計算してみます。

この場合は外部との仕事のやりとりはなく系内でエネルギー保存則が成り立ちます。

$$ {\small \Delta S=n_1c_v\log\frac{t_1}{T_1}+n_2c_v \log\frac{n_1T_1+n_2T_2-n_1t_1}{n_2T_2}}$$
$${\small +n_1R\log\frac{v_1}{V_1}+n_2R\log\frac{V_T-v_1}{V_T-V_1}}$$

これまでと同じように、${\small \Delta S}$を体積$v_1$で微分してみます。

$t_1$は$v_1$の関数なので、$t_1(v_1)$と表し、$t′_1(v_1)$を$v_1$での微分とすると

$${\small \frac{d\Delta S}{dv_1}=(\frac{n_1c_v}{t_1(v_1)}-\frac{n_1n_2c_v}{n_1T_1+n_2T_2-n_1t_1(v_1)})t′(v_1)}$$
$${\small +\frac{n_1k_B}{v_1}-\frac{n_2k_B}{V_T-v_1}}$$

となります。

平衡時の体積${\small V’_1}$やエントロピー変化${\small \Delta S}$を計算するためには、関数$t_1(v_1)$が必要になるので、ここでは当然導かれるべき結果だけをみてみましょう。

平衡時の部屋1,2の体積を$V’_1,V’_2$、温度を$T’_1,T’_2$とすると

$${\small \frac{d\Delta S}{dv_1}=(\frac{n_1c_v}{T’_1}-\frac{n_1c_v}{T’_2})t′(V’_1)+\frac{n_1R}{V’_1}-\frac{n_2R}{V’_2}}=0$$

ここで、$t′_1(V’_1)$の値を考えてみましょう。

今は、${\small \frac{d\Delta S}{dv_1}=0}$となる$v_1$を探しています。

そういえば、体積を変えてもエントロピーが変化しない場合の温度と体積の関係はすでに出ています。

ポアソンの法則${\small TV^{\gamma-1}=const}$です。

関数$t_1(v_1)$は体積によってエントロピーが変化しますが、平衡になったときの体積$V’_1$では極値なので微少体積変化でエントロピーは一定です。

体積をdv変化させたときの温度変化をdtとすると

$${\small T’_1{V’_1}^{\gamma-1}=(T’_1+dt)(V’_1+dv)^{\gamma-1}}$$

が成り立っていると考えられます。

よって、平衡時の体積$V’_1$の場合は

$${\small t′(V’_1)=-\frac{(\gamma-1)T’_1}{V’_1}}$$

が成り立ちます。

これを代入すると

$${\small -(\frac{n_1c_v}{T’_1}-\frac{n_1c_v}{T’_2})\frac{(\gamma-1)T’_1}{V’_1}+\frac{n_1R}{V’_1}-\frac{n_2R}{V’_2}=0}$$

$${\small (\frac{1}{T’_2}-\frac{1}{T’_1})\frac{RT’_1}{V’_1}+\frac{n_1k_B}{V’_1}-\frac{n_2k_B}{V’_2}=0}$$

平衡時の部屋1、2の圧力を$P’_1,P’_2$とすると

$${\small (\frac{1}{T’_2}-\frac{1}{T’_1})P’_1+\frac{P’_1}{T’_1}-\frac{P’_2}{T’_2}=0}$$

よって、

$${\small P’_1=P’_2}$$

両方の部屋の圧力が等しいときにエントロピーが最大になります。

答えが決まらないのはなぜ?

$t_1$と$v_1$の関係が決まらないことが不思議な方もいるかもしれません。

そこで、ちょっと力学的に考えてみます。

力学的には「部屋1と2の圧力差によって断熱壁が動く」現象です。

そして、部屋1と部屋2の圧力は、ポアソンの法則で決まります。

摩擦がないとすれば、この条件での力学的な挙動は計算できます。

断熱壁が停止しているのが初期条件です。

そこから圧力差によって、圧力が低い方から高い方へ加速されます。

圧力差がなくなる場所で断熱壁の速度が最大になり、その後は速度が落ちてそのうち停止します。

そして今度は逆方向に動き始めます。

「圧力差のある状態からスタートすると断熱壁が左右に振動し続ける」

これが力学的な結果です。

このとき、系内では断熱壁の運動エネルギーを加えた全エネルギーが保存します。

でも実際には、断熱壁の運動エネルギーは熱に変換して停止します。

変換された熱量は、エネルギー保存則で計算できます。

でも、その熱が部屋1と部屋2にどのように配分されるのか、それがわからないのです。

理想気体のエントロピー変化まとめ

とりあえず、二つの部屋に入った理想気体の変化をエントロピーで計算してみました。

「エントロピーが大きくなるように変化する」という前提から

  • 温度が同じになるように変化する
  • 圧力が同じになるように変化する

という結果が得られました。

当たり前だと言われるかもしれませんが、単純な系では当然の結果しか得られないのは仕方ありません。

というより他の結果が出てくるはずがないのです。

でも当たり前の結果だからこそ、実験値と比較しなくても計算結果が正しいことがわかるという利点はありますね。

≫モル数(分子数)を変数にした理想気体のエントロピーの求め方へ

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