「明日は放射冷却によって冷え込むでしょう」
このように、天気予報で放射冷却という言葉を聞くことも多いでしょう。
でも、放射冷却というのは一体どんなものでしょう。
気温が大きく下がるということはわかっていても、その理由は意外と知らないのではないでしょうか。
そこで、寒がりの人の大敵、放射冷却について、簡単に説明してみます。
物理用語での放射冷却とは
放射冷却という言葉は、物理用語と気象用語で違う使われ方をしています。
まず最初に物理用語での放射冷却から説明していきましょう。
熱の伝わり方
熱が移動する方法として、「伝導」「対流」「放射」の3種類があります。
熱伝導
暖房でいえば、ヒーターで周囲の空気が温めれれ、その熱が徐々に周囲に伝わっていくのが「伝導」です。
スト―ブは主に伝導によって熱が伝わります。
熱対流
「対流」は温められた空気で自体が動いて離れたところを温めるものです。
ファンヒーターは、強制的に対流させて速く熱を使えるようになっています。
強制的に風を送らなくても、温められた空気が上に昇ることで空気の流れができるので、ストーブでも「対流」は起こっています。
熱放射
熱放射は、空気を温めることなく、直接対象物を温めます。
赤外線ヒーターなどが、放射を利用した暖房器具です。
赤外線や光などの電磁波で、熱が直接移動する仕組みを「放射」と呼ぶのです。
物質は、温度に応じた電磁波(光)を放射しています。
エネルギーを放出するのですから、当然温度が下がり、これを放射冷却と呼んでいるのです。
放射冷却とはどんな現象
熱は温度の高いところから低いところへ移動します。
放射でも同じです。
上の例は温める例でしたが、温度が高い方から見れば放射によって熱が奪われて温度が下がります。
これを「放射冷却」と呼ぶのです。
地表での放射と吸収
気象用語の放射冷却を知るために、この放射を地表にあてはめて考えてみましょう。
太陽が出ているとき
昼間は、地面に太陽の光が当たっています。ですから地面は太陽からの光を吸収して温度が上がっていきます。
温度の高い太陽から温度の低い地面に輻射で熱が伝わっているのです。
また、熱くなった地表から周囲の空気に伝導や対流で熱が伝わり、気温も上がっていきます。
輻射熱で温度が上がり、周囲の空気へ熱を与えて温度が下がる、そのバランスで地表の温度が変わっていきます。
また、風があると対流が起こるので、地表は冷却されやすくなります。
太陽が出ていないとき
夜間は太陽からの光はありません。
まずは、地表からの赤外線の放出と、周囲の空気との熱のやり取りだけを考えてみましょう。
地表から放出された赤外線の多くは、宇宙空間へ逃げていきます。
温度の高い地表から、温度の低い宇宙空間へ熱が移動しているのです。
(この現象は昼間も起こっているのですが、太陽からの熱移動の方がはるかに大きいのでそれに隠れてしまっています)
これによって、地表の温度が下がっていきます。
地表と空気の熱移動
夜でも、地表と空気との間で、伝導や対流で熱移動が起こります。
その熱移動は、地表と空気の温度によって変わってきます。
地表より空気の温度が低いときには地表から空気へ、空気の温度が高いときには空気から地表に熱が移動します。
そして、風が吹くとその熱移動が促進されます。
雲を考える
雲を考えると、状況が大きく変わります。
地表から放出された赤外線は宇宙空間に逃げていくのですが、雲があるとそれを一部遮ってしまうのです。
そして雲も温度を持っているので、赤外線を放出します。
その雲から放出された赤外線を吸収することで、地面の温度低下が鈍るのです。
空気も考慮する
空気も温度を持っているので、輻射によって電磁波を吸収したり放出したりするはずです。
それは考慮しなくていいのでしょうか。
空気の主成分である窒素や酸素は、ほとんど赤外線を吸収、放出することがないので、無視することができます。
でも無視できないものもあります。
水蒸気です。
水蒸気は、気体の中では赤外線を吸収、放出しやすい性質を持っています。
ですから、空気中の水蒸気量が多い(絶対湿度が高い)と、雲の場合のように温度が低下しにくくなります。
水蒸気以外にも、赤外線を吸収したり放出したりする期待があります。それらの気体が空気中で増えると冷却を妨げるので気温が上昇します。
これが地球温暖化の要因となっている「温室効果」で、それを引き起こす気体を「温室効果ガス」と呼んでいます。二酸化炭素が有名ですね。
気象用語の放射冷却とは
ここまでの説明で、気象用語での放射冷却を説明するのに必要な現象は出つくしました。
夜間は、地表は赤外線を放出して温度が下がっていきます。
でも、これまでの説明で次のことがわかるでしょう。
- 雲があると温度が下がりにくくなる
- 水蒸気が多いと温度が下がりにくくなる
逆に、雲ひとつない晴天で、空気が乾燥していると、温度が下がりやすいということです。
特に風がない場合は、地表の温度が下がり続けて、周囲の空気よりも地表の方が温度が低くなってしまいます。
空気が乾燥している冬に、雲一つない晴天で、風がない場合が、地表付近の温度が一番下がるのです。
この条件がそろったとき、夜間(特に明け方)の温度が極端に下がり、それを放射冷却と呼んでいるのです。
放射冷却で起きる現象
通常、気温は地表付近が一番高く、上空に行くほど温度が下がっていきます。
しかし、放射冷却が起きた場合、地表付近の温度が上空よりも低くなる逆転現象が起きます。
これが霜柱が発生する原因にもなっています。
それ以外にも放射冷却によって起きる現象も色々あります。
霜柱
霜柱は、地表の温度が低下したときに起こります。
放射冷却が起きると、地面が一番冷たくなります。
そのため、気温が氷点下になっていなくても、地面は氷点下になり、霜柱ができることがあります。
放射冷却が強い時には、気温が氷点下になっていなくても、道路の凍結などに注意しましょう。
霧の発生
温度が下がると、水蒸気が気体でいられなくなり、小さな水の粒になります。
通常は、温度の低い上空で雲として観察されるものです。
しかし、地表付近の温度が低いと、地表で水滴が発生します。
放射冷却が強いとき(水蒸気量とのバランスもありますが)、深い霧が発生しやすいのです。
温度が低い地表に近い部分だけに深い霧が発生するので、山の上などから見ると「雲海」になります。
音の伝達
放射冷却が強いときには、遠くの音がよく聞こえることがあります。
これは、温度の低い地表より上空の方が音速が速くなることが原因です(音は温度が高いほど、早く伝わる性質があります)。
音は波で、波は速度が違うと曲がって伝わるという性質があります。
放射冷却で地表の方が温度が低いと、音は上空から曲がって伝わることができるので障害物を避けて遠くまで音が聞こえるのです。
上空にいくほど気温が低いことがほとんどなので、たまに温度の逆転現象が起きると普段見られない現象が起こるのです。