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エントロピーは配置と運動量に分けて考えていいのか?

以前に” エントロピー増大の法則は、乱雑になる方向に変化するというものではない“という記事を書きました。

このサイトの中では反響の大きい記事なのですが、これは「エントロピーとは乱雑さを表すものだ」というイメージしかない人が陥りがちな点を感覚的に示したものです。

この記事に対して、wber さんからのコメントに
「エントロピーは熱力学的な現象に対しては明確に定量化できる概念だと思いますが、速度や位置に対してエントロピーを計算できるのでしょうか? それが可能なのでしたらやり方を教えていただきたいです。 

とあるのを見て、焦りました。

記事を読み返すと、そう考えてしまうのも当然だなと思います。
そこで、速度や位置のエントロピーについての補足記事を書いておきます。

目次

位置のエントロピーと速度のエントロピー

「乱雑さ」と言う言葉は、散らかっている部屋のように物体の位置が乱雑になっているイメージを抱きます。

そのイメージのまま「エントロピーは増大する」という法則を考えると大きな間違いをしていまいますよ、という意味を込めて、エントロピーを考えるときは「位置の乱雑さ」だけでなく「速度の乱雑さ」も考慮する必要があることを、前の記事で説明しました。

そのため、エントロピーには「位置の乱雑さ」と「速度の乱雑さ」の2通りがあるかのような印象を与えてしまいました。

単純にイメージするだけなら、便宜的に 「位置の乱雑さ」と「速度の乱雑さ」 に分けて考えてもいいのですが(位置だけ考えることに比べれば大きな前進)、実際はそう単純ではないのです。

位置のエントロピーと速度のエントロピーの分離

エントロピーが乱雑さを表すかどうかは置いておいて、エントロピーを位置のエントロピーと速度のエントロピーに分けることはできるのでしょうか?

熱力学の体系では、種類などありません。
分子の位置や速度などは全く考慮せず(分子自体が想定されていない)、熱に関しての量としてあらわされるものです。

その熱力学を分子の運動と捉えて説明しようとするのが統計力学です。

ですから「統計力学において、位置のエントロピーと速度のエントロピーは分離できるのか?」という問題を考えることになります。

理想気体で考える

単純な例として、理想気体の断熱圧縮を考えてみましょう。
理想気体を断熱状態で圧縮すると、温度が上昇するという現象です。

体積の変化

圧縮によって、体積が半分になったとします。
すると、分子が占めることのできる位置が半分になります。
「2リットルの中のどこにでも行ける」状態から「1リットルの中ならどこにでも行ける」に変化するのです。

乱雑さというイメージではわかりにくいですが、これはエントロピーの減少です。
言ってみれば「位置のエントロピーが減少した」ということです。

温度の変化

温度が上昇するということは、全体のエネルギーが増加したことを示します。
理想気体のエネルギーは分子の運動による、運動エネルギーです。

全エネルギーが増加すると、各分子がとれる運動エネルギーの幅が広がります。
分子の速度(運動量)の選択肢が多くなるのです。

これはエントロピーの増加です。

速度によるエントロピー(運動量によるエントロピー)が増大することに相当します。

位置のエントロピーと速度のエントロピーの二つがあると言えるのか?

ここまでは、前の記事で説明したことの具体例です。

エントロピーを位置によるものと、速度によるものに分けられそうな気がします。

でも、物事はそう単純ではないのです。

二つのエントロピーの相関

気体を断熱圧縮するとき、ゆっくりと圧縮した場合はエントロピーの変化はありません。

位置のエントロピーと速度のエントロピーに分離して考えれば、位置のエントロピー減少と速度のエントロピー増加が一致してプラスマイナスゼロになっているのです。

ちょっと不思議な気がしませんか?

位置のエントロピーと速度のエントロピーは全く別のものに思えます。
そうだとすると、なぜぴったり一致するのでしょうか。

分子が、位置のエントロピー変化を察知して速度を変えるとは考えにくいですね。
「自然はそうなっているんだ」と言われれば、それまでですがちょっと不思議な気がしてきます。

二つのエントロピーなど存在しない

ということで、結論を言います。
二種類のエントロピーというものは存在しません。

「位置のエントロピー」と「速度のエントロピー」を分けて考えることはできないのです。

でも、ここまでの説明を見る限り、ふたつのエントロピーがあるように思えます。

何が間違っているのでしょうか?

量子力学で考える

分子のように小さいものの運動は、量子論的な効果が大きいので、量子力学で考えなければならないのです。

量子論に踏み込んで説明するつもりはありませんが、簡単な説明だけしておきます。

量子力学に「不確定性原理」と呼ばれるものがあります(一応Wikipediaへリンクしておきます)。

例を挙げると「粒子の位置と運動量を同時に正確に決めることはできない」というものです。

位置を正確に決めようとすると運動量がぼやけ、運動量を正確に決めようとすると位置がぼやけるのです。

これは、位置と運動量が互いに混ざり合い、分離できないものだということです。

したがって、エントロピーも位置のエントロピーと速度(運動量のエントロピー)にわけることができないのです。

混然一体となったものなので、ふたつのエントロピーの間の不思議な相関なども考える必要もありません。

なぜ? と聞かないでください。私には説明できません。
「自然はそうなっているんだ」ってことです。

量子力学での取り扱い

位置と運動量が混然一体となっているとすれば、どうやってエントロピーを決めればいいのかわからなくなります。

でも逆に言えば、「位置と運動量を好きなように分離してもいい」とも言えるのです(量子力学で許された範囲で)。

一番簡単なのは「分子の位置を決めない」方法です。分子の位置は「体積の範囲内」とするだけで、それ以上正確な位置を考えません。

量子力学では、一定の体積に閉じ込められた分子が採れるエネルギーは飛び飛びの値になります。
そして、体積を小さくすると、その飛び飛びの間隔が広くなります。

これが、体積を変えたときのエントロピー変化につながるのです。

この取り扱いだと、位置に関するエントロピーなんてものはないということになります。

乱雑さなんてイメージは完全になくなってしまいます。

結局エントロピーってなんだ?

結局エントロピーって何なのでしょう?

統計力学的なエントロピーの定義ははっきりしています。
それを見る限り「不明度」「わからなさ」という解釈が妥当な気がします。

もう少し深堀りすると「熱力学的な状態(マクロな状態)を決めたとき、それだけではわからないことの情報量」といったところでしょうか?

でも「なぜそれが増大するの?」と聞かれると、明確に答えることができません。

大昔の理論だと思われるかもしれませんが、基礎的な部分が未だに研究されているほどなのです。段落

それだから「ものごとは乱雑になる方向に進む」という、何となく納得してしまいそうな説明で誤魔化しているのかもしれません。

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