”具体例でみる熱力学4/蒸気圧で仕事を取り出す方法”という記事で、溶液から水を蒸発させ、その水蒸気を水にする過程を可逆的に行う計算をしました。
そのとき、後の説明の都合と、積分を使うと読まれないのではないかと思ったので、少し乱暴な近似計算をしました。
確認したい人もいるかもしれないので、もう少し正確に計算する方法を書き残しておきます。
前提の確認
計算の前提は下記の2点です。
- 溶液から水蒸気が揮発したときの濃度変化は無視する
- 溶液の蒸気圧はラウールの法則に従う
ラウールの法則は、水の蒸気圧をPw、溶質のモル濃度をχ とすれば、溶液の蒸気圧Psは以下の式に従うというものです。
Ps=Pw(1-χ)
ということで早速計算に移りましょう。
計算
まず溶液中の水を水蒸気に変える場合の仕事Wを計算しましょう。
仕事は取り出す方をプラスになるように表記します。
気化した水蒸気の体積をVとすると、
W=PsV
次に溶液と水蒸気の間に仕切りを入れて押していきます。
このとき、Ps<Pwなので、水蒸気の圧力がPwに なるまで、水蒸気は凝縮しません。
水蒸気が凝縮し始めるときの体積をV’とすると、
PsV=Pw=nRT
nは水蒸気のモル数、Rは気体定数、Tは絶対温度です。
水蒸気の体積をVからV’に圧縮するときに必要な仕事は、圧力PをVからV’まで積分してやれば求まります。
Pv=nRT から、
P=nRT/v
なのでこの時の仕事W’は、
W’=nRTln(V’/V)
となります。
最後に水の蒸気圧 Psに逆らってV’→0にするときの仕事W”は
W”=-PwV’
ここで、水蒸気のモル数nは同じなので、
PsV=PwV’
より、
W+W”=PsV-PwV’=0
になるので、W’のみを考えればいいことになります。
W’=nRTln(V’/V)
この式に
V’=nRT/Pw
V=nRT/Ps
を代入すれば、
W’=nRTln(Ps/Pw)
ラウールの法則から、Ps=Pw(1-χ)なので、
W’=nRTln(1-χ)
取り出した仕事は ” nRTln(1-χ)”で表されます。
(1-χ)<1 なので、取り出した仕事はマイナスになります。
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