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具体例でみる熱力学1/熱力学第一法則ってなんだ?

ソーラーパネル

よく熱力学はわかりにくいと言われます。
抽象的な説明が多い、何を目的としているのかわからない、どう応用するのかわからない、「 ふわふわしてつかみどころがない」説明が多いからでしょう。

ということで「具体的な例から出発すればイメージがわきやすいんじゃいない?」と思って挑戦してみることにしました。

文系の人にも伝わるように、わかりやすさを優先するつもりなので、論理的な飛躍や不完全な記述が満載になりそうな予感がします。
まあ「熱力学ってこんな感じなんだ」とイメージを持ってもらうのを目的にしましょう。

今回は、その一回目「熱力学第一法則」です。

目次

熱力学第一法則を一言でいうと

「熱力学第一法則」を一言でいうと「エネルギー保存則」です。
「なぁんだ」と拍子抜けするくらい当たり前のことです。

ただ特に理系の人は、単なるエネルギー保存則と甘くみて、すっとばしてしまいがちです。
ここが熱力学の出発点です。
熱力学的なエネルギー保存則の意味を把握してから次に進まないと、後で道に迷うことになります。

水と水溶液の混合を例にする

熱力学第一法則を具体的な例を使って説明します。
例としては、水と水溶液の混合を採りあげることにしました。
単純すぎる例では話が展開できませんし、複雑な例では説明が難しくなる、そのバランスが採れた例だと考えたからです。

水と水溶液の混合でのエネルギー保存則

図1に示すように、水と水溶液が分離されている場合を状態1、それが混ざり合って均一になっている場合を状態2と呼びましょう。

水と水溶液の混合
図1 水と水溶液の混合

水と水溶液の間の仕切りを外せば、自然に状態1から状態2に変化します。

このとき、発熱したとします。
熱をエネルギーの一種とすれば、エネルギー保存則から発熱量と同じだけエネルギーがどこかで減少しているはずです。

状態1と状態2がそれぞれエネルギーを持っていて、状態2は状態1よりエネルギーが低く、その差が熱として放出されたと考えるしかありません。
物質が内部に持っているエネルギーということで、これを「内部エネルギー」と呼びます。

内部エネルギーと発熱量
図2 内部エネルギーと発熱量

状態1の内部エネルギーをE1、状態2の内部エネルギーをE2、発熱量をqとすれば、
  E1-E2 =q
となっている、これが熱力学流のエネルギー保存則です(体積変化はないものとします)。

半透膜を使って混合する場合

次に、同じことを半透膜を使って行ってみましょう。
図3のように、水と水溶液を隔てている仕切りを半透膜にするだけです。
半透膜はロックを外すと、自由に左右に動けるようになっているとします。

半透膜を使った水と水溶液の混合
図3 半透膜を使った混合

ロックを外すと、浸透圧によって半透膜は左に動き、最終的には左端に到達します。
そして液は均一に混ざってしまいます。

なんてことはありません。
普通に状態1から状態2に変化しただけです。
発熱量も同じです。

  E1-E2 =q

がそのまま成り立ちます。

半透膜に錘をつないだ場合

図4のように、半透膜に錘をつなげてみます。
錘は軽く、浸透圧で引っ張れる程度の重さです。
この場合もロックを外すと、半透膜が左端まで動き、均一な状態になります。
状態1から状態2への変化です。

錘をつけた混合
図4 錘をつないだ場合

この場合、半透膜が動くことによって錘が持ち上げられています。
エネルギーで言えば、錘の位置エネルギーが増加しているのです。

水と水溶液の混合で力学的なエネルギーを取り出せる

水と水溶液の混合という放っておいても勝手に起きてしまうような現象でも、上手くやれば、力学的なエネルギーを取りせるということです。
このように熱以外のエネルギーの移動を仕事と呼びます。

半透膜を使う方法は一例で、おそらく他にも仕事を取り出す方法があるかもしれません。

仕事を加えたエネルギー保存則

半透膜に錘を付けた場合のエネルギー保存則を考えてみましょう。
状態1、状態2は、これまでと全く一緒ですから、E1-E2は同じはずです。
しかし、錘の位置エネルギー増加という、これまでにはなかったエネルギー変化があります。

これを考慮して、エネルギー保存則を適用すると下図のようになります。

熱と仕事を加えたエネルギー保存則
図4 仕事を入れたエネルギー保存則

仕事を取り出さなかった場合(図2)と比べれば「錘のエネルギー増加分だけ、発熱量が減っている」ことがわかります。
エネルギー保存則から考えれば当たり前のことですが、水と水溶液の混合による発熱量は、混合の方法で変わってくるのです。

エネルギー保存則を式にしてみる

仕事を取り出さない場合のエネルギー保存の式は、状態1の内部エネルギーをE1、状態2のエネルギーをE2、発熱量をqとして、

E1-E2=q

で表されるのでした。
仕事を考慮すると、取り出した仕事をwとして、下の式で表されます。

1-E2=q +w

これが、熱力学第一法則を表す式です。
符号の付け方には色々な流儀があります(発熱量をqとするか、吸熱量をqとするかなど)。
ここでの符号の付け方はかなり特殊なので他ではまねしないようにして下さい。

熱力学第一法則で大事なこと

まとめとして、ここまでの説明で重要なことを2つ挙げておきます。

仕事を取り出せることがある

水と水溶液の混合など、自然に起きる現象を上手く使えば、仕事(力学的なエネルギー)を取り出せることがあります。
何もしなければ熱として散逸してしまうエネルギーを、利用できる形で(全てではないですが)回収できるということです。

発熱量は変化のさせ方で異なる

錘を付けた半透膜の例では、錘の質量を変えることで発熱量が変化しました。
これは、混合に限らず一般的なことで、同じ変化でも変化のさせ方で発熱量は変わるものなのです。

溶解熱、気化熱、融解熱、反応熱………、色々な発熱(や吸熱)がありますが、その熱量は変化のさせ方で変わるので、 変化のさせ方を指定しなければ「溶解熱」の熱量は決まりません。

単に○○熱と呼ぶときは、 大抵は「何もしないとき」の発熱量のことを指します。

「何もしない」という言葉は明確ではないので、正確に言う「温度、圧力一定の条件で、仕事はPV仕事だけの場合」と、かなりややこしい表現になってしまいます。

普通はそんな注釈はつけずに○○熱と呼んでいるので、それに慣れてしまうと熱量が変化のさせ方で変わるものだということを忘れがちになります。

大きな問題が残っている

ここまでは、エネルギー保存則を物体が持っているエネルギーや熱に拡張しただけです。
少し意外に感じた人も、説明を見れば納得してもらえたのではないでしょうか。
この当たり前のように思えるエネルギー保存則の式に、まだ大きな問題が残っています。

次回は、その問題点を明らかにして、解決策を探っていきたいと思います。

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