前回、温度変化を考慮すると、高温から低温に熱が移動するという変化を考慮しなければならないことがわかりました。
それには、ヒートポンプと熱エンジンの理解が不可欠です。
今回は、そこに焦点を当ててみます。
熱エンジンでの仕事の取り出し
これまで、自然に起きる現象は上手くやれば仕事を取り出せること、その反対の現象を起こすには仕事が必要なことをみてきました。
その点では、ヒートポンプや熱エンジンも何ら違いはありません。
高温から低温に熱が移動するのは自然に起きるので上手くやれば仕事が取り出せる、これが熱エンジンです。
低温から高温へは自然に熱が移動しないので、そうするためには仕事が必要、これがヒートポンプです。
そう言えば、この発想を逆にすればすっきりするのでした。
「高温から低温への熱移動は仕事を取り出せるので自然に起きる」
「低温から高温への熱移動は仕事が必要なので自然には起きない」
と考えるのです。
熱は高温から低温に移動するという当たり前のことが、他の理由から説明できました。
可逆的な変化
そう考えると、ヒートポンプや熱エンジンも他の変化と同列に扱うことができます。
高温から低温に熱を移動するとき上手くやれば仕事を取り出せて、可逆的に変化させた場合に最大になるのです。
逆に低温から高温に熱を移動するときには仕事が必要で、可逆的に変化させたときに最小になります。
このことから、可逆的に変化させているのなら、どんな方法でも得られる仕事はぴったり一致するはずです。
これまでと同じなのですが、適用範囲はぐっと広がります。
世の中にある発熱や吸熱を伴う変化の全てで同じ値になります。
どんな方法でもいいのですから、電磁気現象、光、重力、核反応、全てがこの法則に縛られるのです。
溶液の混合でみてみる
まずは、これまで使ってきた溶液の混合で、ラフに熱エンジンを組み立ててみましょう。
水溶液とnモルの水を混合するときに得られる仕事の最大値は、nRTχでした。
これを使って、高い温度Thと低い温度Tlの間で熱移動をさせてみます。
水と水溶液が分離した状態1と混合した状態2で比熱に違いがなく、温度は可逆的に変化できることにします。
エネルギー保存則
状態1のThでのエネルギーをE1 h、TlでのエネルギーをE1 lとします。
同様に、状態2のThでのエネルギーをE2 h、TlでのエネルギーをE2 lとします。
まず、温度Thで状態1から状態2に変化させます。
このときの発熱量をq、得られた仕事をwとすれば、
E1 h-E2 h=q+w (1)
と表せました。
ここで、取り出せる仕事を最大のnRTχとして、その時の吸熱量をQ hとすると
E1h-E2h =-Q h+nRThχ (2)
ここまで、こんな書き方をしてきましたが、普通とは違う表記なので、ここらへんでまともな書き方に変えます。
E2h-E1h=Qh-nRThχ (3)
次に温度を Tlまで下げて、状態2から状態1に変化させます。
その時の発熱量をQl、使った仕事をnRTχとすると、
E1l-E2l =-Ql+nRTlχ (4)
トータルで得られた仕事は
nR(T h-Tl )χ
となります。
また、(3)式と(4)式を足すと
( E2 h-E2l )-(E1h-E1l)=Q h-Ql -nRχ(Th-Tl ) (5)
状態1も状態2も比熱が同じとしていますので、温度をTlからThまで上げるのに必要なエネルギーは同じです。
( E2 h-E2l )-(E1h-E1l) =0 (6)
よって、得られた仕事のトータルをWtとすれば、
Q h-Ql =nRχ(Th-Tl )=Wt (7)
Q h-Ql=Wtで、Wtは (Th-Tl )に比例することがわかります。
他の方法で熱移動した場合
可逆的に熱移動させた場合、同じ熱の移動で得られる仕事は 、どんな方法を使っても 同じでした。
Q h+Ql=Wtで、Wtは (Th-Tl )に比例する というのは、どんな方法でも同じだということです。
それだけではありません。
比例定数も、どんな方法でも全く同じにならなければいけないのです。
なんか単純になってきました。
少し突っ走る
ここまできたら、もっと突っ走っていきます。
(3)式に戻りましょう。
E2h-E1h=Qh-nRThχ (3)
同じように、温度Tlでも状態1から2へ変化させてみます。
Ql を吸熱量とすれば(前に出てきたQlは逆変化の発熱量なので結局は一緒です)、
E2l -E1l=Ql-nRTl χ (8)
ここで(6)式から、E2h-E1h=-E2l+E1lです。
もし、E2h-E1h=-E2l+E1l=0なら、めちゃくちゃ簡単になります。
「そんな乱暴な」と思われるかもしれませんが、とりあえずお付き合いください。
Q h=nRThχ (9)
Ql=nRTlχ (10)
Q h/ Ql =Th/Tl (11)
(11)式のシンプルさを見てください。
温度を変えて、状態1から状態2に変化させたときの吸熱量の比は、絶対温度の比に一致するのです。
これは荒唐無稽な仮定ではありません。
ラウールの法則は、E1 =E2のときに成り立つ法則だと考えていいからです。
E1 ≠E2の場合は、その分ラウールの法則からずれてきます。
それは置いておくとしても、色々な溶液を調整して混合によるエネルギー変化が0の場合が見つかったとします。
その場合は、この式が成り立ちます。
そして、この関係式は他の場合でも同じにならなければなりません。
E2h-E1h≠0でも(11)式が成り立つのであれば、(11)式を変形して
Ql= Q hTl /Th (12)
これを(7)式に代入すれば、
Q h-Q hTl /Th =(Q h/Th)・ (Th -Tl )=nRχ(Th-Tl ) (13)
よって、
nRχ=Q h/Th (14)
Wtと (Th-Tl )の比例定数は、Q h/Th= Ql/Tl だということになります。
カルノーサイクル
上の議論はかなりラフで、厳密にするのも大変です。
でも「可逆的に熱移動させた場合、同じ熱の移動で得られる仕事は 、どんな方法を使っても同じ」でした。
ということは、可逆的に変化させる方法をひとつ選んで、その性質を調べれば、いいだけです。
もちろん、単純で分かりやすいものを選びます。
通常は、可逆ヒートポンプとして、理想気体を使ったカルノーサイクルというものを使います。
カルノーサイクルについては、別サイトで説明しています。
≫≫カルノーサイクルとは? 効率最大の熱機関とその意味合い-ちびっつ
カルノーサイクル(英: Carnot cycle)は、温度の異なる2つの熱源の間で動作する可逆熱サイクルの一種である。Wikipedia
カルノーサイクルでの結果
ここではカルノーサイクルについての説明はしません。
熱力学を勉強するときに嫌というほど出てくるので、辟易している人も多いでしょうし。
こちらは、上の議論と違ってきっちりと解析されています。
得られた結論のうちいくつかを紹介します。
Q h+Ql=Wt
Wt∝(Th-Tl )
Q h/ Ql =Th/Tl
上の議論での結果と同じですね。
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