金属が塩水にさらされると腐食が進んで錆びていきます。
普通の水より塩水の方がよく錆びる理由を知っていますか?
そこには、電池の仕組みが大きくかかわっています。
金属が塩水で錆びていく仕組みと機構を簡単に説明していきましょう。
ボルタの電池
塩水で錆びる原因を考えるには電池の仕組みを知らなければいけません。
そこで、電池の基本となっている「ボルタの電池」を例にとって簡単に説明してみます。
ボルタの電池の構造
ボルタの電池は、硫酸の水溶液に、亜鉛(Zn)と銅(Cu)の電極を入れて電線でつないだものです。
ボルタの電池の反応
ボルタの電池では、亜鉛側では Zn が Zn2+ というイオンになり溶けだす反応が起こります。
そのとき、電子e–をふたつ導線に送りだします。
銅側では、水溶液内の水素イオン(H+)ふたつが、水素分子(H2)になるという反応が起こります。
その時に導線から流れてきた電子をふたつ消費します。
これが、ボルタの電池の反応です。
- 亜鉛側の反応:Zn → Zn2++ 2e–
- 銅側の反応:2H+ + 2e– → H2
亜鉛で発生した電子が導線を伝わって銅側へ移動して、電流が流れるのです。
2種類の金属が必要
ボルタの電池でなくても、電気を通す電解液に2種類の金属をつけて導線で結ぶと電池になります。
2種類の金属のうち、イオンになりやすい方(イオン化傾向が高い方)がイオンになって溶けだし、反対側で電子を消費する反応(金属や溶液の種類で反応は違ってきます)が起きるのです。
ボルタの電池では、亜鉛の方がイオン化傾向が高いので、亜鉛が溶け出しているのです。
※硫酸の替わりにレモンなどを使って電池を作る実験はよくやられてますね。
2種の金属を引っ付けるとどうなるか?
では、亜鉛と銅を引っ付けたものを、硫酸水溶液に浸漬するとどうなるでしょうか?
ボルタの電池を短絡させたのと同じなので、亜鉛が溶け出して銅側で水素が発生するという反応が起こります。
電池と同じことが起きていますが、外部に電流が流れることはないので、内部電池と呼ばれます。
そのため2種類の金属を結合させると、内部電池の仕組みによって、すぐに腐食されてしまいます。
2種類の金属を使った製品では、ほとんどの場合、金属間を絶縁して電流が流れないようにすることで腐食されることを防いでいます。
2種類の金属の腐食速度
このように2種類の金属を結合した内部電池での腐食の速度はなにで決まるのでしょうか?
亜鉛の表面では Zn2+ が発生するのでプラスの電荷を持ち、銅の表面はマイナスの電荷を持ちます。
このように水溶液の中で、電荷の偏りができてしまうと反応が進みません。
その電荷の偏りを解消するために、電荷を持った「イオン」が移動します。
水溶液中にイオンが沢山あれば、それらが少し動くだけで電荷の偏りが解消せれるので、腐食が速く進むのです。
内部電池では、ただの水よりもイオンを持った塩水の方が、はるかに速く腐食が進行します。
亜鉛だけを使った場合はどうなるか?
では、亜鉛だけを水溶液につけてみます。
すると、水素を放出しながら亜鉛が溶けていきます。
Zn+2H+ → Zn2++H2
この反応は水溶液が酸の場合は速く進行しますが、そうでない場合は非常にゆっくりと進みます。
なぜ塩水で錆びるのか
イオン化傾向の違う金属を張り合わせた場合、内部電池の仕組みによって塩水の方が腐食が進むことを説明しました。
でも単一の金属では内部電池にはならないはずです。
それでも塩水の方が速く腐食されるのはなぜでしょうか?
局部電池機構
実は、単一の金属での内部電池の機構が関係しているのです。
単一の金属とはいっても完全に均一なものは存在しません。
不純物があったり、結晶構造が乱れたりしている場所が必ず存在します。
そのような部分は、イオン化傾向が違ってくるのです。
また、不純物がなくても、形状によって(角の部分がイオン化しやすいなど)イオン化傾向が僅かに異なります。
そして、そのイオン化傾向が異なる部分で内部電池を形成して腐食が進むのです。
ミクロ過ぎて、どこが正極でどこか負極かわからないような、局所的な内部電池です。
これを局部電池と呼びます。
腐食は局部電池によるもの
亜鉛が水素を放出して溶ける反応は、下式でした。
Zn+2H+ → Zn2++H2
でも実際には、局部電池機構によって、下の2種類の反応が少し離れた場所で起きているのです。
Zn → Zn2++ 2e–
2H+ + 2e– → H2
結局は内部電池ですから、水より塩水の方が腐食が速くなるのです。
このようにしてイオンになった金属が酸素と反応することで錆びになります。
塩水で錆びるのは、ミクロな電池ができているからなのです。