一般にニュートン力学は時間反転に対して対称だと言われています。ニュートン力学的に許される運動があれば、それを時間反転させた運動もニュートン力学を満たすという意味です。
ある現象が起こるのであれば、それを逆再生した現象も起こるということです。
ある意味、常識化しているようですが、果たして素直に受け入れてよいものでしょうか?
ニュートン力学の時間反転対称性の説明
よくある時間反転対称性の説明を辿ってみましょう。
ニュートンの運動方程式は、力を$F$、質量を$m$、加速度を$a$として、
$$F=ma$$
であらわされます。
ここで加速度$a$は、位置を$x$、時間を$t$とすると、
$$a=\frac{d^2x}{dt^2}$$
と位置を時間で2回微分したものとあらわされます。
時間tの代わりに反転した時間-tを入れると2回の微分で-が消える(マイナス割るマイナスでプラス)ので、$F=ma$に従うのです。
$$a=\frac{d^2x}{d(-t)^2}=\frac{d^2x}{dt^2}$$
$F=ma$が成り立っているのであれば、時間反転させた場合も$F=ma$が成り立つということです。
ニュートン力学は、ここで述べた運動の法則(ニュートンの第二法則)以外に、慣性の法則(第一法則)と作用反作用の法則(第三法則)から成り立ちます。
慣性の法則と作用反作用の法則に関しては、時間反転対称性であることが自明なのでここでは省きます。
力$F$について考える
ここで「ちょっと待て」と思われた方もいるかもしれません。
「加速度$a$はわかった。でも力$F$の時間反転性はどうなんだ?」
通常、力$F$は位置$x$だけの関数で時間に依存しないとされています。それであれば$t$でも$-t$でも関係ありません。時間$t$とは無関係なのですから。
よって、ニュートン力学は時間反転対称であると結論付けられそうですが、本当にそれでいいのでしょうか?
力は位置だけの関数なのか?
先ほど「通常、力$F$は位置$x$の関数で時間に依存しないとされています」と書きました。あくまでも「通常」です。
実はニュートン力学の中に「力$F$は位置$x$だけの関数である」「時間$t$の関数ではない」とする根拠はありません。
ちなみに力$F$が位置$x$だけの関数である場合、その力は保存力と呼ばれます。
言ってみれば「力$F$が保存力の場合は時間反転対称性が成り立つ」ということです。
それ以外の場合があれば、時間反転に対して対称ではなくなってしまいます。
力は保存力だけなのか?
ニュートン力学の範疇では力は保存力だけだとする根拠はありません。
では実際はどうなのでしょうか?
少なくともマクロな運動では保存力以外の力(非保存力)も存在します。摩擦、粘性などで、これらは物体の速度に依存する力です。
速度$v$は、
$$v=\frac{dx}{dt}$$
で位置の一回微分です。時間$t$に$-t$を入れれば、
$$\frac{dx}{d(-t)}=-\frac{dx}{dt}$$
となり符号が変わり、時間反転の対称性が崩れてしまいます。
運動している物体が摩擦によって停止することはあっても、その逆は起こらないという私たちがよく目にする現象ですね。
ニュートン力学の範囲では力が保存力とは限らない
このようにニュートン力学の範囲では力は保存力だけであるとは限りません。
ただ、力を保存力だけだという仮定を付け加えると、見通しが良くなり、美しい関係式が現れます。そのためこの仮定を付け加えるが多いのです。
例えば、力を保存力とすることで、エネルギー保存則が導かれます。
しかし、これはニュートン力学だけから導かれるものではなく、力は保存力だけであるという仮定を付け加えて初めて導出されるのです。
少なくとも私たちが目にするマクロな運動では、非保存力が働く場合が多くあります。
ではミクロな運動も考慮するとどうなるのでしょうか?
そこは量子力学の問題でニュートン力学の範疇を超えてしまいますので深入りしないことにします。
参考:http://symm.k.u-tokyo.ac.jp/lecture/ssp/timereversal.html