理想気体のエントロピーを表すザックール・テトローデ方程式は古典統計力学から求められました。
しかし私たちは分子の挙動を表すには量子力学を使わなければならないことを知っています。
ということで、シュレディンガー方程式から出発してザックール・テトローデ方程式をみちびいてみましょう。
とはいえ最初から計算すると長くなるだけなので井戸型ポテンシャルでの解がわかっている前提で進めます。
エネルギー準位の導出
簡単にするため、一辺$a$の立方体で考えてみます。
箱内の分子のx方向のエネルギー$\epsilon_x$は、井戸型ポテンシャルを想定してシュレディンガー方程式を解くと、
$$\epsilon_x=\frac{{n_x}^2h^2}{8ma^2}$$
$$n_x=1,2,3,\cdots$$
$$h:プランク定数、m:分子の質量$$
y方向、z方向も同等なので、エネルギー準位$\epsilon$は、
$$\epsilon=({n_x}^2+{n_y}^2+{n_z}^2)\frac{h^2}{8ma^2}$$
となります。
分配関数の計算
分子がこのエネルギー準位に分配されるとして、分配関数$q$を求めます。
$$q=\sum_{i}g_ie^{-(\epsilon_i-\epsilon_0)/kT}$$
$g_i$は分子$i$の縮退度、$\epsilon_i$は$i$のエネルギー、$\epsilon_i$は基底状態のエネルギーです。
温度が充分高いとして、縮退を無視、基底状態のエネルギーを0とすれば
$$q=\sum_{i}e^{-\epsilon_i/kT}=\sum_{i,j,k}e^{-({n_x}^2+{n_y}^2+{n_z}^2)h^2/8ma^2kT}$$
$$=\sum_{i}e^{-{n_x}^2h^2/8ma^2kT}\sum_{j}e^{-{n_y}^2h^2/8ma^2kT}\sum_{k}e^{-{n_z}^2h^2/8ma^2kT}$$
$$q_xq_yq_z$$
ここで、和を積分に置き換えると
$$qx=\int_0^{\infty} e^{-{n_x}^2h^2/8ma^2kT}dn_x=\frac{\sqrt{2\pi ma^2kT}}{h}$$
よって
$$q_x=q_y=q_z=\frac{\sqrt{2\pi ma^2kT}}{h}$$
$$q=q_xq_yq_z=\left(\frac{2\pi ma^2kT}{h^2}\right)^{3/2}$$
ここで$a^3$を体積$V$と表せば
$$q=\left(\frac{2\pi mkT}{h^2}\right)^{3/2}V$$
エントロピーの計算
分配関数が求まったのでこの先は古典統計力学での導出と同じようにしてエントロピーを求めることができます。
一例を示しておきます。
分子数を$N$とすると、ヘルムホルツの自由エネルギー$F$は
$$F=-kT\ln\frac{q}{N}=-kT\ln \Bigr\{\left(\frac{2\pi mkT}{h^2}\right)^{3/2}\frac{V}{N}\Bigr\}$$
$F=E-TS$より
$$S=\frac{E}{T}+k\ln \Bigr\{\left(\frac{2\pi mkT}{h^2}\right)^{3/2}\frac{V}{N}\Bigr\}$$
定圧比熱を$\dfrac{5Nk}{2}$とすると、$E=\dfrac{5NkT}{2}$より、
$$S=\frac{5}{2}Nk+k\ln \Bigr\{\left(\frac{2\pi mkT}{h^2}\right)^{3/2}\frac{V}{N}\Bigr\}$$
以上、ザックール・テトローデ方程式が導かれた。