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ラウールの法則からファントホッフの式の導出

メインサイトの記事「浸透圧とは何か? わかりやすく説明してみた」の中で水と溶液の蒸気圧と浸透圧の関係についてふれました。

ここではその関係を式を用いて説明します。

目次

ことの発端

Q&Aサイトで「浸透圧と飽和蒸気圧の関係について質問です。」という質問を見つけました。

U字管の中に溶液と水が入っていて半透膜で仕切られている状態では(水のみが通ることができる)、浸透圧によって当然液面差が生じます。それをラウールの法則による飽和蒸気圧の差に着目して説明しようとしたのですがよくわからなくなってきました。 <略>

溶液の浸透圧と蒸気圧に関係があるのか? という質問です。

回答の全てが「蒸気圧と浸透圧は全く別の特性なので関係ない」というもので、質問者もその回答に納得しています。

でも声を大にして言いたいのです。

蒸気圧と浸透圧に関係がないわけがない

そこで、おそらくこの質問者が求めているであろう回答を示したいと思います。

ラウールの法則とファントホッフの式

まずは溶液の蒸気圧降下を表すラウールの法則と浸透圧を表すファントホッフの式をみてみましょう。

ラウールの法則
$$Ps=Pw\chi   (1)$$
$$\chi=\frac{nw}{nw+ns} (2)$$

$Ps$:溶液の水蒸気圧、$Pw$:水の水蒸気圧、$\chi$:溶液中の水のモル分率、$n_w$:溶液中の水のモル数、$n_s$:溶液中の溶質のモル数_

ファントホッフの式
$$\pi V=n_sRT   (3)$$

$\pi$:浸透圧、$V$:溶液の体積、$n_s$:溶質のモル数、$R$:気体定数、$T$:温度

ラウールの法則からファントホッフの式を導けば目標達成です。ともに希薄溶液で成り立つ近似式に過ぎませんから、近似的に一致することを示せばいいでしょう。

濃度の表し方が違うのでそこが面倒です。

考え方

図のようなO字官の中に半透膜をはさんで水と溶液を入れます。

充分時間が経つと平衡状態になるはずです。このとき液は当然流動などせず静止しているはずです。そうでなければ永久機関ですから。

溶液より水の方が蒸気圧が高いですが、水から蒸発した水蒸気が溶液に吸収されるようなことは起こりません。そうすると液が流動します。

もしそうなら平衡状態では水と溶液の蒸気圧差は液面差でキャンセルされているはずです。

液面に接する気相の水蒸気圧は高さによって変わります。水の方が溶液より液面が低いので、その分液面に接している部分の水蒸気が高くなっているはずです。

これが水と溶液の蒸気圧差と一致する液面差を計算し、その液面差が生じる浸透圧を導いてそれがファントホッフの式に一致することを示せばよいでしょう。

別にO字管にしなくても周囲の水蒸気量(湿度)と水面が平衡になった状態を考えればいいのですが、イメージしやすいと思いO字管を使いました。

蒸気圧差がキャンセルされる液面差の計算

・水と溶液の蒸気圧差の計算
水と溶液の蒸気圧差を$\Delta P$とすると、(1)式より
$$\Delta P=Pw-Ps=Pw-Pw\chi=Pw(1-\chi)   (4)$$

・液面差による水蒸気の圧力差
液面差を$\Delta h$、圧力差を$\Delta P$とすると
$$\Delta P=\rho g \Delta h $$
$\rho$:水蒸気の密度、$g$:重力定数
$$\Delta h=\frac{\Delta P}{\rho g}$$
(4)式を代入して
$$ \Delta h=\frac{Pw(1-\chi)}{\rho g}  (5)$$
水蒸気の密度$\rho$は、水蒸気の体積$V’$ 体積$V’$の水蒸気の質量を$M$
$$ \rho=\frac{M}{V’}$$
水の分子量を$m$、体積$V’$の水蒸気のモル数$n’$とすると$M=mn’$より
理想気体の状態方程式$PV=nRT$より、
$$\frac{n’}{V’}= \frac{P’}{RT}$$
$$\rho=\frac{mn’}{V’}=\frac{mP’}{RT}$$
ここで、水蒸気の圧力$P’$は、高さによって異なるが、その差は小さいため、水の蒸気圧$Pw$と等しいとおくと、
$$\rho=\frac{mP’}{RT}=\frac{mPw}{RT}$$
(5)式に代入すると
$$\Delta h=\frac{Pw(1-\chi)}{\rho g}=\frac{RT(1-\chi)}{mg}   (6)$$

液面差$\Delta h$が求まりました。

求めた液面差を生じさせる浸透圧の計算

液面差$\Delta h$によって生じる圧力差を$\pi$とすると

$$\pi =\rho g \Delta h $$

$\Delta h$に(6)式を代入すると
$$\pi =\rho g \frac{RT(1-\chi)}{mg}=\rho \frac{RT(1-\chi)}{m}  (7)$$
ここで、溶液の濃度が充分低く、溶液の密度は水の密度に等しいとし、溶液の体積を$V$、体積$V$の水のモル数を$n_w$、水の分子量を$m$とすると
$$\rho=\frac{mn_w}{V}$$
(7)式に代入して
$$\pi =\frac{mn_wRT(1-\chi)}{mV} =\frac{n_wRT(1-\chi)}{V}$$
$$\chi=\frac{n_w}{n_w+n_s}$$より、
$$1-\chi=\frac{n_s}{n_w+ns}$$
よって、
$$\pi =\frac{nwRTns}{V(n_w+n_s)}$$
溶液の濃度が薄い場合、
$$\frac{nw}{(n_w+n_s)}\simeq 1 $$
よって、
$$\pi =\frac{RTn_s}{V}$$
$$\pi V=n_sRT $$

ファントホッフの式が導出されました。本当に濃度の表し方の部分が面倒でしたね。

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