ニュートンは力学を作る際に、物事が起きる舞台としての絶対空間があることを前提としました。
そして、アインシュタインが相対世理論で、その絶対空間を否定したとよく言われます。
実際はどうなのでしょう。
ニュートン力学と特殊相対世理論での絶対空間の立ち位置を考えてみたいと思います。
ニュートンと絶対空間
ニュートン力学と絶対空間
ニュートンは、空間を物事が起きる舞台として捉えて、ニュートン力学を作り上げました。これを絶対空間と呼びます。物質の存在や運動に関係なく存在している空間です。
出来上がったニュートン力学の中で、絶対空間はどのような意味を持つのでしょうか?
ニュートン力学の第一法則、慣性の法則をみてみましょう。
「すべての物体は、外部から力を加えられない限り、静止している物体は静止状態を続け、運動している物体は等速直線運動を続ける」
速度というのは本来相対的なものです。車が時速40kmで走っているというとき、それは地面に対して時速40kmであることを示しています。
地球の外からみると地表自体が自転で動いているので、車の速度も当然それを加味した値になります。
速度というのは、「誰から見て」という視点を決めて初めて意味を持つものです。
では、慣性の法則の「等速直線運動」は、誰からみて「等速」で「直線」なのでしょう。慣性の法則には、視点は全く出てきません。
これは、視点を決めなくても「等速」だとか「直線」だと判断できることを示しています。その判断基準が絶対空間です。
もし、基準を明示するのであれば、慣性の法則は次のようになります。
「すべての物体は、外部から力を加えられない限り、絶対空間に対して静止している物体は静止状態を続け、絶対空間に対して運動している物体は等速直線運動を続ける」
ニュートン力学で絶対空間を決めることができるか
慣性の法則は、絶対空間に対して等速直線運動をする「慣性系」と呼ばれる系が存在することを示した法則です。ですから慣性系が存在することはニュートン力学の原理のひとつです。
では、慣性系の中から絶対空間を決めることはできるでしょうか?
言い換えると、
「すべての物体は、外部から力を加えられない限り、絶対空間に対して静止している物体は静止状態を続け、絶対空間に対して運動している物体は等速直線運動を続ける」
この慣性の法則に記述された、絶対空間に対して静止している物体と絶対空間に対して等速直線運動をしている物体とを区別できるのか、ということです。
答えは「ニュートン力学の範疇では区別できない」です。
以前の記事で書いたガリレイの相対性原理から明らかです。
つまり、ニュートン力学では、慣性系かどうか決めるための絶対空間はあるが、慣性系の中のどれが絶対空間であるかを決定できないという構造になっています。
絶対速度と絶対加速度
少し言葉を変えてみましょう。絶対速度、絶対加速度というものを仮定します。
絶対速度というのは、絶対空間に対する物体の速度のことです。ガリレイの相対性原理は物体の運動では、絶対速度を決めることはできないというものです。
絶対加速度は、絶対空間に対する物体の加速度です。
実は、絶対空間に対する加速度は、絶対空間に対して等速直線運動をしている系からみた加速度と同じになります。慣性系があるのなら、どの慣性系から測定した加速度でも、絶対加速度に一致します。
ニュートン力学は、絶対空間に対する絶対速度は決められないが、絶対空間に対する絶対加速度は決めることができるという形になっています。
特殊相対性理論の場合
特殊相対性原理
特殊相対性原理は、「慣性系の中のどれが絶対空間であるかを決定する方法はない」ということを、物体の運動法則だけでなく他の方法を持ちいても不可能であると広げたものです
「絶対速度はどんなことをしても検出できない」という法則です。
どうやっても見つからないものを「ある」とか「ない」とか議論するのは意味がありません。どちらであろうと確かめることができないのですから。
言ってみれば、特殊相対性原理は「絶対空間があろうがなかろうがそんなことはどうでもいい」という原理なのです。まあ「あるけど絶対に検出できない」という仮定と「ない」という仮定では、後者の方が単純なので、どうでもいいならそっちを採用するか、といったところです。
特殊相対性理論での絶対加速度
特殊相対性原理は、絶対速度を決めることは絶対にできないというものです。では絶対加速度はどうでしょう。特殊相対性理論は慣性系に関する理論なので、慣性系があることが前提です。この点はニュートン力学と何ら変わりありません。
特殊相対性理論でも絶対加速度はあるのです。
絶対空間を否定したと言いながら、絶対加速度を決める何らかの基準があることからは逃れられていない、これが特殊相対性原理の特徴です。
特殊相対性理論は絶対空間を否定したのか
特殊相対性理論は、時間や空間に対する概念を大きく変えました。そして絶対空間という仮定を必要としない理論となっています。
しかし、実際には慣性系を仮定している時点で、絶対空間の亡霊を完全に排除できていません。
絶対速度は決められないだけでなく、絶対加速度も決められない理論になって初めて完全に絶対空間を排除したと言い切れるのです。
それは、特殊相対性理論ではなく、一般相対性理論の問題です。
一般相対性理論によって絶対空間は完全に排除されたのです。
特殊相対性理論が絶対空間を排除したと強調される理由
ガリレイの相対性原理から物体の運動の範疇では、絶対空間を検出することはできません。しかし、他の方法で見つかる可能性はあります。
そして、マクスウェルの電磁気学が完成します。
この物理法則は、絶対空間を必要とするように思える理論でした。
「電磁気現象を使えば、絶対空間が検出できる!」という期待が高まります。
その期待を打ち砕いたのが特殊相対性理論です。実際に実験でも絶対空間を検出できていません。そのため、特殊相対性理論は絶対空間を否定した言われるのです。
「絶対加速度は決められるが、絶対速度は決められない」というニュートン力学の特徴が、電磁気学を含めても「絶対加速度は決められるが、絶対速度は決められない」となっただけです。
実際は単に元に戻っただけと受け取ることもできます。
最後に
ここでは、絶対空間を速度の基準という狭い意味で捉えた解説をしています。どんな場合も均質で無限に続く空間という意味合いで考えると、特殊相対性理論との関連性も変わったものになることを、最後に注釈として付け加えます。