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具体例でみる熱力学7/温度という厄介なもの

温度計

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ここまでで、自然に起きる変化の方向と、取り出せることができる仕事の関係をみてきました。
AからBへの変化と逆のBからAの変化のうち、どちらかは仕事を取り出すことができます。
その仕事を取り出せる方向へは自然に変化するということです。

しかし、少し棚上げにしてきた問題があります。
温度です。

今回は温度を考慮に入れた場合について考えていきます。

目次

取り出せる仕事の最大値

ここまで、溶液と水の混合を例に、取り出せる仕事には最大値があると仮定した上で話を進めてきました。
そこに温度変化を加えてみます。

溶液と水の混合で、水より溶液の方が圧倒的に多く、混合しても濃度変化が無視できる場合、水のモル数をn、溶質のモル分率をχ、絶対温度をT、気体定数をRとすれば、取り出せる仕事の最大値Wは、

W=nRTχ

と表されました。

よくみると、式の中に温度Tが入っています。
取り出せる仕事の最大値は、温度に比例するのです。
これは、温度が高ければ高いほど取り出せる仕事が多くなるということで、ここまで考えてきた限界値は、温度一定の場合に限ったものだったのです。

温度を変えて変化させてみる

まず高い温度Thで、水と溶液を混合させて仕事を取り出します。
そのときに取り出せる最大の仕事Wは下式で表されます。

W=nRTh χ

そして、その後温度をTlまで下げてから、溶液から水を分離します。
そのとき必要な最小の仕事W’は下の式になります。

W’=nRTl χ

トータルで取り出した仕事Wt

t =W-W’=nR(Th-Tl )χ

” Th>lなので、仕事を取り出せることになります。

これを何度も繰り返せば、いくらでも仕事を取り出せることになってしまうのです。

最初に仮定した「取り出せる仕事に限界がある」という前提が崩れてしまいます。
ここまでやってきたことが、全て無駄になるのでしょうか?

ヒートポンプと熱エンジン

これまでの説明の中で、一度だけ温度の変化を扱ったことがあります。
溶液の混合によって仕事を取り出す手段の一つとして、温度を下げて凍らせる方法を示したときです。

そのとき、ヒートポンプと熱エンジンを使いました。
あらためて説明すると、
「ヒートポンプとは、仕事を使って低い温度から高い温度に熱を移動させるもの」
「熱エンジンとは、高い温度から低い温度に熱を移動させるときに仕事をとりだせるもの」

です。

温度の高いところから低いところへは、自然に熱が移動します。
自然に起きる現象は上手くやれば仕事を取り出せる、自然に起こらない現象を引き起こすためには仕事が必要、ヒートポンプや熱エンジンもこれまで考えてきたことと一致します。

熱移動を考慮する

温度を変えて混合と分離を行ったとき、熱エンジンやヒートポンプになっているとは考えられないでしょか?

もし、仕事を取り出す方が吸熱で、仕事が必要な方が発熱だとすれば、そうなりそうです。

高い温度で仕事を取り出したときに吸熱し、低い温度で仕事を与えたときに発熱するのなら、高い温度から低いに熱が移動したことになります。
それなら、仕事を取り出せたとしても不思議はありません。

溶液と水自体は元通り戻っていても、温度の高いところから温度の低いところに熱が移動するという変化が残ったままです。

この時に取り出した仕事は、高温から低温に熱が移動する変化を利用して得たものだと考えることができます。

発熱と吸熱

仕事を取り出す場合が吸熱で、仕事を与える場合が発熱になっていれば「取り出せる仕事に限界値がある」という仮定も守られそうです。

「それ以外に変化がない場合」と注釈をつけるだけです。
考えてみれば当然です。
他の変化で取り出した仕事まで加えてしまうと限界もなにもありません。

溶液の混合で言えば、水と溶液の混合を可逆的に行う場合は吸熱で、溶液から水を可逆的に分離する場合は発熱するのであれば問題はありません。

逆を考える

逆に仕事を取り出すときに発熱して、仕事を与えるときに吸熱すると考えてみましょう。
断熱材を使って、仕事を取り出すとき熱を放出する場所と、吸熱させる場所が異なるように工夫します。
最初はどちらも同じ温度です。

ここで、仕事を取り出すとき熱が発生するので周囲の温度が少し上がります。
逆に仕事を与える方は吸熱で温度が少し下がります。

これを繰り返せば仕事を取り出す部分の温度が上がり、仕事を与える部分の温度が下がっていきます。
温度差が少ないうちは、取り出した仕事と与えた仕事がほぼ一致しますが、そのうち取り出す仕事の方がどんどん多くなっていくことになります。

一定温度からスタートした場合でも、仕事はいくらでも取り出せることができてしまいます。

移動した熱を元に戻す

こうやって仕事を取り出した後、最後に温度が高くなった場所と温度が低くなった場所を接するようにしてやります。
すると自然に熱が移動して、温度は一定になります。

「他に変化がないように、取り出せる仕事には限界がある」
という仮説まで壊れてしまうのです。

やはり、仕事を取り出す方が吸熱で、仕事を必要とする場合が発熱と考えた方が良さそうです。

取り出せる仕事の最大値を考えているうちに、一定温度で物事が変化する方向や発熱か吸熱かという熱の問題まで関連してきました。

温度の問題は厄介でしたが、逆に熱力学の適用範囲を大きく広げるものでもあるのです。

熱力学第二法則

ここで、熱力学第二法則のよく知られた表現を示しておきます。

クラウジウスの法則
低温の熱源から高温の熱源に正の熱を移す際に、他に何の変化もおこさないようにすることはできない。
トムソンの法則あるいはケルビンの法則
一つの熱源から正の熱を受け取り、これを全て仕事に変える以外に,他に何の変化もおこさないようにするサイクルは存在しない。
オストヴァルトの原理
ただ一つの熱源から正の熱を受け取って働き続ける熱機関(第二種永久機関)は実現不可能であるWikipedia

言葉は堅苦しいですが、ここで言っていることと同じです。

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