MENU

具体例でみる熱力学5/仕事を取り出す他の方法

モーター

前回から読む
最初から読む

前回は、蒸気圧を使った水と溶液との混合で仕事を取り出す方法を考えて、その最大値を計算しました。
そして、その結果が半透膜を使った場合の仕事の最大値と同じ結果になることを示しました。

今回はさらに他の方法を考えてみます。

溶液を凍らせる方法と化学反応を使った方法です。

目次

溶液を凍らせる方法

仕事を取り出す方法を見つけるには、逆の変化、つまり溶液から水を分離する方法を探せばいいのでした。
前回は水が水蒸気になる変化を使ったので、次は水が氷になる変化を使ってみましょう。

凍らせる方法の概要

溶液の温度を下げていくと、そのうち凍り始めます。
ある程度氷ができた時点で氷と溶液を分離して、温度を上げていきます。
すると氷が解けて、水と水溶液が分離するという方法を使うのです。

図1 凍らせて溶液から水を分離する方法

とは言いながら、可逆的に温度を変化させるのはかなり面倒なのです(温度が微妙に異なる無限の熱源を用意するとか……)。

今回は少し荒技を使ってみます。

ヒートポンプを使う

冷却にヒートポンプを使うことにします。
冷蔵庫やエアコンが、ヒーポンプなので、普段冷蔵庫やエアコンを使っているイメージで捉えてください。

重要なのことは2つです。

1.ヒートポンプを動かすには動力(仕事)が必要
2.低い温度から熱を奪うほどエネルギー(仕事)を消費する

熱エンジン

次に熱エンジンというものを持ち出します。
熱エンジンは、高い温度の熱を低い温度に移動させるときに仕事を取り出すもので、ヒートポンプを逆に動かせば熱エンジンになります。
特徴もヒートポンプの裏返しです。

1.熱エンジンを動かすと仕事が得られる
2.低い温度に熱を放出するほど多くの仕事が得られる

ヒートポンプを使って溶液を凍らせ、元の温度に戻すときには熱エンジンを使って仕事を回収すればいいのです。
ここで、ヒートポンプも熱エンジンも全くロスがない理想的なものとすれば、可逆的に操作することができます。

温度変化するときの仕事は無視

溶液を冷却していくと温度が下がっていきます。
このとき、当然仕事を消費します。
でも、この仕事は無視することにします。

なぜなら、後から加熱するときに得られる仕事とキャンセルされて、ほぼプラスマイナスゼロになるからです。

溶液を凍らせる

冷却して温度が溶液の凝固点に達すると、氷ができ始めます。
そのとき凝固熱として周囲に熱を放出するので、その熱を奪ってやらなければなりません。

このときに必要な仕事だけを考えればいいでしょう。

氷と解かす

次に熱エンジンを使って周囲から熱を奪い、氷と溶液に熱を与えて温めていくと、氷が解け始めます。
氷が解けるときには融解熱として熱を奪うので、その分の熱を補充するときに仕事が得られます。

得られる仕事はこの分だけを考えます。

トータルすると

この2ステップをトータルすると、溶液中の水が凍るときの凝固熱分仕事が必要で、氷が水になるときの融解熱分の仕事が回収できるということになります。

凝固熱と融解熱の熱量は同じですが、そのときの温度が違います。
溶液の場合、凝固点降下によって水を凍らせるときより、低い温度でなければ凍りません。

温度が低いほど、熱を奪うのに必要な仕事が多くなり、熱を与えるときに得られる仕事も多くなるのでした。

仕事が必要な凝固の方が低い温度で、仕事が得られる融解の方が高い温度で起こるので、差し引き分仕事が必要なのです。

逆にしてみる

水と溶液が分離している状態から、ヒートポンプで水を凍らせると0℃で凝固します。

全て凍った後、溶液の凝固点までさらに温度を下げます。
そして同じく凝固点まで温度を下げた溶液を接触させて、熱エンジンで熱を与えていきます。

すると、その温度で氷が解けていきます。
今度は仕事が必要な凝固の方が温度が高いので、仕事が得られることになります。

水と溶液が混合するときに仕事を得られ、溶液から水を分離するときには仕事が必要というこれまでと同じ結果となりました。

仕事の計算

この場合も計算したいのですが、ヒートポンプや熱エンジンが分かっていなければ計算できません。

とりあえずは天下り式に、周囲の温度をTとして、低温のTlから熱量Qを奪う時に必要な仕事Wが下式になることを認めてください。

$latex W=Q(\frac{T}{T_l}-1)&s=1$

fを水の凝固点、Tf‘を溶液の凝固点、qを水1モルあたりの凝固熱とします。
まず水nモルを凍らせるときに必要な仕事Wは、

$latex W=nq(\frac{T}{T_f}-1)&s=1$

溶液中で氷を解かすときに取り出せる仕事W’は

$latex W’=nq(\frac{T}{T_f’}-1)&s=1$

トータルで得られた仕事をWt とすると、

$latex W_t=W’-W=nq(\frac{T}{T_f’}-\frac{T}{T_f} )=nq(\frac{T(T_f-T_f’)}{T_fT_f’}) &s=1$

ここで、Tff‘ ≒Tf2とすると、

$latex W_t=W’-W=nq(\frac{T}{T_f’}-\frac{T}{T_f} )=nq(\frac{T(T_f-T_f’)}{T_f^2}) &s=1$

これが、蒸気圧と同じように W’t=nRTχになっているとすれば、

$latex nq(\frac{T(T_f-T_f’)}{T_f^2})=nRT\chi &s=1$
$latex q\frac{(T_f-T_f’)}{T_f^2})=R\chi &s=1$
$latex T_f-T_f’=\frac{RT_f^2\chi}{q} &s=1$

-Tf‘ 、つまり凝固点の降下は、T2 χ /q で表されることになります。

Wikipedia で凝固点降下の式を見てみましょう。

希薄溶液における凝固点降下は熱力学的にはつぎの式に従う。
$latex \Delta T=\frac {MRT_f^2}{\Delta H_f}m=K_fm &s=1$
ΔT 凝固点降下の大きさ
m 溶質粒子の質量モル濃度
M 溶媒の分子量
R 気体定数
Tf  溶媒の凝固点
ΔHf 溶媒の凝固熱(潜熱)Wikipedia

濃度の表し方が違いますが、同じ式になっています。

化学反応を使う方法

次に化学反応を使った方法を考えてみます。
化学反応を可逆的に行うのは大変なことが多いのですが、水の場合はよい方法があります。

水の電気分解を使う方法

水は電気分解によって酸素と水素になります。
これを利用しましょう。

まず溶液に電極を入れて電気分解して、水素と酸素を取り出します。
そして別の場所で酸素と水素を反応させて水にすれば、溶液から水が分離できます。

水素と酸素を反応させる方法

水素と酸素を反応させて水にするとき、下手に反応させてしまうと可逆的になりません。
電気分解の逆のことをすればいいのです。
水素と酸素を使って電力を得る方法、そう燃料電池というやつです。
そうすれば、電力として仕事が回収できます。

仕事はどうなるのか

この場合に得られる仕事はどうなるのでしょうか?
今回は仕事が電力として得られます。

電力と呼ぶのは正確ではありません。
仕事、エネルギーに相当するのは電力量で、電圧×電流×時間で表されます。

溶液を電気分解するときに分解される水の量と、燃料電池で酸素と水素から得られる水の量は同じです。

同じ反応量なので、ファラデーの法則から電気量(電流×時間)は、どちらも同じになります。

計算してみる

水溶液中の水を電気分解するときの陽極と陰極の電極電位差μは、水の電極電位差をμ0とすると、ラウールの法則が成り立つ場合(活量がモル分率に等しいとき)、

$latex \mu = \mu_0 -\frac{RT}{zF}\ln{(1-\chi )}&s=1$
で表されます。

nモル電気分解するときに必要な電気量Q(電流×時間)は、ファラデーの法則より、

$latex Q=nzF&s=1$

水を電気分解するときに必要な仕事W(電力量:電流×電圧×時間)は、

$latex W=nFz\mu_0 &s=1$

燃料電池を使って溶液中で酸素と水素から水を生成するときに得られる仕事W’は

$latex W’=nFz(\mu_0 +\frac{RT}{zF}\ln{(1-\chi)}) &s=1$

得られる仕事Wtは、

$latex W_t=W’-W=-nFz\frac{RT}{zF}\ln{(1-\chi)} =-nRT\ln{(1-\chi)} &s=1$

ということで、蒸気圧の時の結果

$latex W_t=nRT\chi &s=1 $

と同じに……なってないですね。

1-χが1に近いときは、ln(1-χ)≒-χなので、それを使えばラウールの法則からの結果と一致します、と言ってもいいのですが、気が引けます。

実はこれ、蒸気圧を使ったときの計算を楽にしたことが原因です。

きちんと計算すると、蒸気圧を使った場合も

$latex W_t=-nRT\ln{(1-\chi)} &s=1$

となり、こちらの方がより正確な値なのです。
⇒参照:蒸気圧で仕事を取り出す方法の補足

結論

水と溶液を混合するときに得られる仕事の最大値は、半透膜を使う方法、蒸気圧を使う方法、凝固させる方法、化学反応を使う方法、全てで同じ結果となりました。

利用した法則は、実験によって得られたもので、近似的に成り立つものです。
しかし、最大の仕事量がどの方法でも同じになるというのは厳密に成り立っているのです。

実際に解かす溶質の種類や濃度を変えたり、水以外の溶媒を使ったりすれば、簡単に莫大な量の実験ができます。
その莫大なデータに裏付けられているので、得られる仕事には最大値があるという仮定の確からしさがわかるでしょう。

また、同じ理屈を展開すれば溶液以外でも、様々な特性間のむずび付きが見えてきます。

次を読む

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次