【目からうろこの熱力学】
熱力学を知ってますか? エネルギーを扱う物理論です。
私たちが、普段当たり前に使っている「エネルギー」という概念は、熱力学から生まれたものです。熱力学を知らずに「エネルギー」を語ることはできません。
「エネルギーを消費する」とは?
「エネルギーが保存する」とは?
その答えは熱力学にあるのです。目からうろこの熱力学の世界をのぞいてみませんか?
エネルギーを消費するとはどういうこと?
消費するとはどういうこと?
「エネルギーを消費する」
よく使うフレーズです。でも、その意味は単純なものではありません。
「消費」の意味を辞書で調べると「使ってなくすこと」と書かれています。
では「エネルギーを消費する」とは「エネルギーを使ってなくすこと」としていいのでしょうか?
一見問題ないように思えます。実際にそのようなニュアンスで「エネルギーを消費する」と言っていますし。
でも、それだけだとエネルギーの持つ特性と矛盾します。
何しろエネルギーは保存するのですから。
エネルギー保存の法則
「エネルギー保存の法則」
物理の授業で必ず習うエネルギーに関する法則です。
エネルギーの総量は増えたり減ったりしないという法則です。減ることすらないのですから、なくなることなどあり得ません。
エネルギー保存の法則から考えると「エネルギーは使ったからといって、なくなるものではない」という結論になります。
それでは「エネルギーを消費する」とは、どういう意味なのでしょうか?
エネルギーの消費の意味
◆エネルギー消費という言葉を、使うとなくなるようなニュアンスで使っている。
◆一方、エネルギー保存則によるとエネルギーの量は変化しない。
どう折り合いをつければいいのでしょうか?
エネルギーの量が変化しないのであれば、エネルギーの質に回答を求めるしかありません。
私たちがエネルギーを消費すると、質が良くて使いやすいエネルギーが、質が悪くて使えないエネルギーになると考えるのです。
エネルギーの量は変わってなくても、劣化して使えないエネルギーになってしまうのなら「消費」というイメージにも合致します。
でも疑問が残ります。
「エネルギーの質とは一体何なのか?」
「質が悪くて使えないものをエネルギーと呼んでもいいのか?」
これを説明するのが、熱力学です。
エネルギー消費量を減らすというのは、エネルギーの質を劣化させないという意味です。エネルギーの質のことを知らなければ、省エネについて考えられるはずがありません。
熱力学は、エネルギー時代の必須知識と言っても過言ではないのです。
熱力学の誕生
熱力学が産まれた時代
熱力学は、約二百年前、十九世紀の前半に成立しました。産業革命の真っ只中の時代です。
これは、偶然ではありません。何しろ、産業革命のきっかけは、ワットの蒸気機関の発明です。
それまで人間は、動力として、人力や牛や馬など動物の力に頼っていました。しかし、ワットの蒸気機関の発明で、石炭から大きな動力を得る方法を手に入れたのです。
*ワットの発明以前にも蒸気機関はありましたが、ワットはその効率を実用レベルの効率にまで高めました。いくら石炭から動力を得ても、その分の石炭採掘に必要な動力をまかなえなければ、実用性はありませんから。
言ってみれば、蒸気機関の発明はエネルギー問題の始まりでもあります。熱力学がこの時代に誕生したのは必然といってもいいのでしょう。
当時の科学知識
私たちは、物質が分子や原子からてきていることを知っています。
しかし、熱力学誕生当時は、分子や原子の存在は確かなものではありませんでした。化学反応を説明するには便利な概念でしたが、まだ実在は疑われていたのです。
熱力学は、そんな時代に完成したものなので、分子や原子は出てきません。
分子などという目に見えないものを使わず、温度とか体積とか圧力など私たちの経験に沿った特性を使って理論が構築されました。
しかし、そこから導かれた結果は温度とか体積などに限らず広い範囲で成立するものなのです。
*熱力学を分子や原子の運動として捉える統計力学という分野があります。量子力学を考慮した統計力学で、熱力学はある程度説明できます。
熱力学とはどんなものか
熱力学は地味なのに凄い
熱力学はなぜかあまり知られていません。初めて聞いたという人もいるでしょう。
しかし、熱力学は適用範囲がとても広い重要な理論です。
身の回りの現象から最先端技術まで、物体の運動から化学反応や核反応まで、重力から電磁気まで、光や電気や熱まで、とにかく全ての現象が適用範囲です。
この世の全ての物理現象の根底にある基本法則と言ってもいいくらいです。
ですから、理系では必須科目です。
それなのに、これほど知名度が低いのは何故でしょうか。不思議です。
もし、理由をつけるとすれば「説明するのが大変だから」でしょう。
エネルギーのミッシングリング
ちょっとネットで「エネルギー」を検索してみました。
ヒットしたサイトは、大きく二つに分かれます。
1.エネルギーとは? を解説しているサイト
2.エネルギー問題やダイエットなどエネルギーに関する話題を扱うサイト
です。
しかし、このふたつのタイプのサイトの間に大きなギャップがあります。
「エネルギーとは?」を開設しているサイトでは
「エネルギーとは仕事をする能力のことである」
「仕事とは、力×動かした距離のことである」
「運動エネルギーと位置エネルギーがあり、その総和は変わらない」
このようなことが説明されています。運動エネルギーや位置エネルギーの説明です。
エネルギーの話題を扱うサイトでは、エネルギーの説明はなく、エネルギーを知っていることを前提として扱っています。
そして、その中で「エネルギー」は、
「原油〇〇バーレルに相当するエネルギー」
「地球に到達する太陽光のエネルギー量」
「摂取する食品のエネルギー(カロリー)」
という使われ方をしています。
不思議に思いませんか?
「エネルギーとは何か?」と検索すると運動エネルギーや位置エネルギーの説明がヒットします。
エネルギーの話題を扱うサイトでは、エネルギーを知っていることが前提ですが、その「エネルギー」はどうみても運動エネルギーや位置エネルギーではありません。
「運動エネルギーや位置エネルギー以外のエネルギーとは何か?」
ここが抜けています。ミッシングリングです。
丹念に探せば、このギャップを埋めるサイトもありますが、あまりにも少ないのが現状です。
ミッシングリングを埋めるためには熱力学の説明をする必要があるのですが、まるで避けられているかのようです。
なぜ熱力学が避けられているのか?
熱力学が避けられているのは、説明するのが面倒だからであり、説明しても興味を惹きにくいからでしょう。
理解している人からすれば当たり前のことでも、知らない人に納得できるように説明するのが大変なのです。
でも熱力学は難しい訳ではありません。
難しい数学も必要ありませんし、納得できないような変わった仮説もありません。
私たちが日常的に経験している現象を掘り下げて考えていくだけのものです。
それが退屈で長い作業になります。しかも、相対性理論や量子力学のように興味を惹く変わった現象もない(日常的に経験している現象を掘り下げて考えていくものなので)ので、興味をつなぐのも大変なのです。
熱力学を知ろう
熱力学が必要な理由
しかし、そうは言ってられません。エネルギー問題は一部の専門家が考えればいいという時代ではなくなりました。人類全体の問題です。
省エネに関してはデマも沢山流れています。それに騙されないように最低限の知識が必要です。
熱力学は理解してしまえば簡単なことですし、普段目にしている現象が目からうろこが落ちるように新鮮にみえるインパクトがあります。
ぜひ、皆さんに熱力学的な考え方を身につけてもらいたい、そう思っています。
本サイトでの熱力学の解説
熱力学の考え方を知るために数学の知識は不要です。もちろん「ガソリンエンジンの効率はどこまで上げられるか?」というような具体的な現象を定量的に計算するためには数学が必要です。そこは専門家に任せておけばいいだけです。
数学が必要ないので、文系の人もおそれることはありません。
*もし偏微分の初歩的な知識があれば、更に理解しやすく理論の美しさを堪能できますが。
ただし、普通は退屈で長い道のりを進まなければなりません。
でも「長い」は変えられないかもしれませんが、「退屈」の方は工夫次第で避けることができるはずです。
本サイトでは、出来るだけ退屈しないように、熱力学を説明していきたいと思っています。
熱力学入門次の記事
エネルギー保存則とは何か?熱力学第一法則を理解するために必要なこと。
コメント