【目からうろこの熱力学】その2
熱力学は、第一法則から第三法則までの三つの法則を基本原理としています。最初の熱力学第一法則は、簡単に言うとエネルギー保存の法則です。
エネルギー保存則と聞くと物理の授業の(嫌な)記憶がよみがえるのではないでしょうか?
でも心配いりません。ややこしい計算など必要ありません。要点だけでいいのです。
熱力学第一法則の説明に入る前に、まずは高校物理で習う「エネルギー保存の法則」を見直して、解釈しなおしてみましょう。
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エネルギー保存の法則
熱力学の構成
熱力学は第一法則から第三法則までの三つの法則(第〇法則を入れて四つとする場合もある)を基本法則としています。
その中のひとつ熱力学第一法則は、簡単に言うとエネルギー保存の法則です。
エネルギー保存則と聞くと物理の授業の(嫌な)記憶がよみがえるのではないでしょうか?
でも心配はいりません。物理のテスト問題のようなややこしい計算など必要ありません。
熱力学の説明に入る前に、少し高校物理の復習をしてみましょう。
力学的エネルギー保存の法則
高校の物理で習うのは、力学的エネルギー保存則と呼ばれているものです。
動いている物体は速さに応じた運動エネルギーを持っていて、高いところにある物体は高さに応じた位置エネルギーを持っている。
そして、その合計は変化しない、これが力学的エネルギー保存の法則です。
位置エネルギーは、地上での地球の重力に対する位置(高さ)のことを示すことが多いのですが、これに限りません。
重力でなくても、保存力と呼ばれる力(普通の力と考えておいて下さい)があれば、その力に対する位置エネルギーがあります。
電磁気力やバネの力にも、位置エネルギーが存在します。
まあ、難しいことは置いておいて、力学的エネルギー保存則をまとめると、
運動エネルギーと位置エネルギーの合計量は変化しない
これだけです。
力学的エネルギーとは何か?
力学的エネルギーとは一体何なのでしょう。そしてなぜ保存するのでしょうか?
物理で習うエネルギーの定義は、
「エネルギーとは仕事をする能力である」
そして仕事とは、
「仕事とは力と、力の方向に動かした距離を掛けたもの」
これが回答です。
1. 力と動かした距離を掛けたもの仕事と呼ぶ
2. 仕事をする能力をエネルギーと呼ぶ
3. そのエネルギーは保存する
こんな感じでエネルギーが定義されています。
正直、分かりにくいです。
「力×距離はいいけど、結局仕事ってなんだよ」
「なんで仕事をする能力が保存するんだよ」
私も色々悩みました。何か釈然としない気がして。
力学の法則とエネルギー保存則
力学的エネルギー保存則はニュートン力学から導くことができます。
力が働いているところで物体が運動する場合に、力学的エネルギーは保存します。
物体はエネルギーが保存するように運動するということです。
「何故エネルギーは保存するんだろう?」
なんて悩む必要はありませんでした。
「物体が運動するときに保存する量をエネルギーと名付けた」
が本当です。
「エネルギーとは保存する量」だということが先にあるのです。
では、仕事とは何を意味するのでしょうか?
ひとつの物体だけなら「エネルギーが保存するように運動する」でいのですが、実際は他の物体とぶつかったりすることもあります。
そうすると、エネルギーの受け渡しが起こります。
Aが持っていたエネルギーが、Bのエネルギーに変わるのです。もちろんAとBのエネルギーの合計は変わりません。
これを頭に置いて仕事について考えてみます。
物体を持ち上げるという仕事をすると、その物体の位置エネルギーが大きくなります。
物体を押すという仕事をすると、その物体が動きだし運動エネルギーが大きくなります。
エネルギーは保存するので、物体のエネルギーが大きくなった分、仕事をした側のエネルギーが小さくなるはずです。
こう考えると、Aという物体からBという物体にエネルギーが移動した場合に、AがBに仕事をしたと呼ぶのです。
「力×動かした距離」というのは、物体間を移動したエネルギーの量を求める式に過ぎないのです。
まとめると、エネルギーや仕事の定義は、次のように表されるということです。
1. エネルギーという保存する量がある。
2. ある物体から他の物体にエネルギーが移動することもできる。
3. そのエネルギーの移動量を仕事と呼ぶ。
本来はこうあるべきなのです。高校物理参考書では「仕事とは何か?」「どんな場合に仕事と呼ぶのか?」といったところを、かなりのページ数で説明しています。仕事というのは、それくらい理解しにくい概念です。
しかし、この定義だと簡単だと思いませんか?
では、何故力学的エネルギー保存則は、あんなややこしい定義を使っているのでしょう。
そうせざるを得ない事情があるのです。
ここで説明した定義は、あくまでも「エネルギーが完全に保存する場合」に使えるものでしかありません。
力学的エネルギー保存則は、完全に成り立つものではないので仕方なく面倒な定義を使っているのです。
熱力学第一法則へ
力学的エネルギー保存則の限界
力学的エネルギー保存の法則は、摩擦がない理想的な状態で成り立つ法則です(物体の衝突が弾性衝突に限るなど他の因子もありますが)。
これが面倒の原因です。
せっかく物体を押すという仕事しても、その物体が摩擦で止まったら運動エネルギーは増えません。
押した方はエネルギーが減りますが、押された方の運動エネルギーは変わりません。こういうことがあるから、仕事はエネルギーの移動だと言うことができないのです。
エネルギーが完全に保存するものであれば「エネルギーが移動することを仕事と呼ぶ」と簡単に表現できるのですが、残念です。
熱力学第一法則
ここで、熱力学第一法則の登場です。熱力学第一法則は、エネルギー保存則をどんな場合でも成り立つように拡張したものです。
ですからエネルギーが完全に保存します。
仕事とはエネルギーが移動する現象のことだと言えるのです。
力学的エネルギー保存の法則より簡単です。
「力×動かした距離」というのは、エネルギーの移動量を計算する式に過ぎません。私たちは、他にもエネルギーを移動させる方法を知っています。電気や光を使ってもいいのです。
それらも含めて、エネルギー移動量を仕事と呼んではどうでしょうか。「力×動かした距離」というのは、色々ある仕事の中のひとつを計算するための式に格下げです。
これから、熱力学の話に入りますが「エネルギーとは仕事をする能力」という力学的エネルギー保存則での定義はすっぱり忘れましょう。
「ところでエネルギーって何?省エネ時代の必須知識「熱力学」を知ろう!」で説明したように「エネルギーの消費とは、質が良くて使いやすいエネルギーが、質が悪くて使えないエネルギーになる」ことです。
劣化して「仕事をする能力を失ったエネルギー」もあり得るのです。「エネルギーとは仕事をする能力」と思っていたら混乱します。
とりあえず、予備知識はこれくらいでいいでしょう。
次回は、いよいよ熱力学第一法則の説明に入ります。どうやってエネルギー保存則を拡張しするのか、見ていきましょう。
*この記事の内容だけを、熱力学から切り離して再編集した記事を別サイトで公開しています。
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目からうろこの熱力学
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