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力学的エネルギー保存の法則の威力

ジェットコースター
目次

保存則を使えば簡単になる

力学的エネルギー保存則を使って問題を解く

 力学的エネルギー保存の法則は、物体の運動エネルギーと位置エネルギーの合計は変化しないというものです(以前の記事(エネルギー保存則とは何か?熱力学第一法則を理解するために必要なこと)参照

 ひとつ問題を出しましょう。

「ある速度でボールを投げ上げたとき、5mまで上昇したときのボールの速度はいくらか?」

 運動エネルギーは速度とボールの質量だけで表されます。最初の速度がわかっているので、その時点の運動エネルギーが計算可能です。質量は? まあ適当に決めましょう。

 位置エネルギーは高さとボールの質量だけで計算できます。ですから、ボールが5mまで上昇したときの位置エネルギーも簡単に計算できます。質量は? まあ適当に決めましょう。

 最初のエネルギーと5m上昇したときのエネルギーは等しいので、最初の運動エネルギーから5m上昇したときの位置エネルギーを引けば、5mの高さでのボールの運動エネルギーです。

 その運動エネルギーとボールの質量から5m上空でのボールの速度が計算できます。ボールの質量は? まあ適当です。

 質量を適当としたのは、質量が変わらないとすれば質量がいくらであろうが計算結果が同じになるからです。打ち消し合って、計算式から消えてしまうのです。

 結局、使うのは最初の速度と5mという高さだけ。その間のことは何ら考慮していません。ですから、ボールがそのまま真上に上がろうが、あちこちぶつかって複雑な軌道をとろうが関係なく計算ができるのです。

力学的エネルギー保存の法則を使わない場合

 力学的エネルギー保存の法則を使わずに、ニュートンの運動方程式を素直に適用してみましょう。面倒なので飛ばし読みでみて下さい。

 ボールを投げ上げたときの角度を計算します。その角度から三角関数を使って最初の速度を上下方向と水平方向にベクトル分解します。上下方向に一定の重力加速度が働いているとして、時間で積分して最初の上下方向の速度を初期値に代入すれば、時間と上下方向の速度の関係式が得られます。

 次に時間と上下方向の速度の関係式をもう一度時間で積分します。すると時間とボールの高さの関係式ができます。その式から5mの高さになる時間を計算します。

 そうして得られた5mになる時間を、時間と上下方向の速度の式に代入すればそのときの上下方向の速度が求められます。

 最後に水平方向の速度は変化しないとして、上下方向の速度とベクトル合成すれば5mの時点での速度が得られます。

 あー面倒です(敢て面倒にしている面もありますが)。

もっと複雑な場合

 力学的エネルギー保存則を使えば、最初と知りたい場所だけの情報だけで計算ができるので、その間の軌道がどんなに複雑でも関係ありません。

 しかし、運動方程式から素直に計算すると、最初の状態から刻一刻と変わっていく変化を追っていかなければなりません。ですから軌道が複雑になると計算も恐ろしく難しくなります。

 うねった坂道を転げ落ちるボール、複雑に上下するジェットコースターなどの複雑な軌道の場合、計算自体ができません。数値解析で近似解を求めるのがやっとです。

 でも、エネルギー保存則を使えば、知りたい位置の高ささえわかれば簡単に計算できるのです。

 これが保存則の威力です。何か保存する量が見つかれば、途中段階を追うことなく結果が得られるのです。

保存則の欠点

知らない人には通じない

 あなたが、ジェットコースターの技師だったとしましょう。上司から「この場所でのコースターの速度はどのくらいになるのか?」と訊かれたときどうしますか。指定された場所の高さを測定して、エネルギー保存則を使って計算するでしょう。そして「結果は時速40kmです」と報告します。

 もし、上司がエネルギー保存則を知らなかった場合、その報告に納得するでしょうか? 何か騙された気になって、納得しないことが多いのです。

 仕方ないので、面倒な手順に従って、軌道に沿って速度変化を求めることにします。そして、コースターの図面を見せながら「この急激に下降しているところで、速度がこのくらい上昇し、次の登りでこの程度まで速度が下がり、この地点の速度は40kmくらいになります」と報告します。

 すると上司は何となくわかったつもりになって、納得します。別にわかっていないはずです。順を追っていくと、イメージが湧くのです。

 エネルギー保存則を知らなければ、間の軌道を無視して結果が得られるなんて思えないでしょう。ですから、納得しないのです。

実は愚痴でした

 熱力学も同じです。最初と最後の状態だけを対象とし、その間の過程に関係なく成り立つ理論です。そのため、途中の変化が複雑で追っていくことが不可能な場合でも、ちゃんと結果が出ます。

 ただ、その結果を説明しても熱力学を知らない人は納得してくれません。

 熱力学的に当たり前のことを、社内の上層部やお客さんに説明し納得してもらうために、シミュレーションをしたり、正しさを裏付ける実験をしたり、するという面倒な仕事を何度も行ってきました。馬鹿らしいと思いながら。

 という愚痴をこぼしたくて、こんな記事を書いてしまいました。

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