具体的な例でみる理論的でない熱力学の第二回です。
前回の記事では、水と水溶液の混合を例にして熱力学第一法則を説明し、そこに大きな問題が隠れていることを示唆しました。
今回は、その問題点を明らかにしていきましょう。
前回のおさらい
まずは前回のおさらいです。
物質の持つエネルギーと熱を加味したエネルギー保存則が熱力学第一法則です。
そこで重要なことは、
1.自然に変化するものでも上手くやれば仕事を取り出せることがある
2.発熱量は変化のさせ方によって変わる
ということでした。
それを踏まえて、問題を出してみます。
取り出せる仕事の最大はどれだけなのか
浸透膜を使って溶液の混合を行うことを例に、うまくやれば仕事を取り出せることを説明しました。
では、取り出せる仕事の最大値はいくらなのでしょうか?
状態変化のエネルギー変化量ではない
水溶液と水に分離されている状態を状態1、均一に混ざっている場合を状態2として、それぞれのエネルギーをE1、E2として、熱力学の第一法則の式を示しました。
E1-E2=q+w
qは発熱量、wは取り出した仕事です。
このwの最大値はいくらなのか、という問いかけです。
「E1からE2 に変わるときのエネルギー変化が全て仕事になった場合、つまりq=0のとき仕事wが最大になる」
そう答えてしまいそうです。
でも、これは間違いなのです。
吸熱する場合もある
q=0のとき仕事wが最大になるというのはどこが間違っているのでしょうか?
答えはqはマイナスの値を採れるということです。
発熱量がマイナス、言い換えれば吸熱する可能性もあるので、qの最小値はゼロとは限りません。
前回の説明で、最初に状態1から2に変化するとき「発熱するとしましょう」と書きました。
「発熱する」と言い切っていません。
実際に吸熱することもあるからです。
それだけではなく、単に混ぜただけなら発熱するような場合も、仕事を取り出していけば必ず吸熱になるのです。
吸熱を考えれば何でもあり?
吸熱の場合のエネルギー保存を前回示したのと同じような図で表してみます。

これだけに限りません。
吸熱すれば、状態1より状態2の方がエネルギーが高くても、仕事が取り出せる可能性が出てきます。
こんな感じです。

吸熱を考えれば、何でもありになってしまいます。
ここまで理解できれば、熱力学第一法則は卒業です。
では取り出せる仕事の最大値はいくらか
では、取り出せる仕事の最大値はいくらでしょうか。
E1-E2=q+w
この式をいくら眺めても、他の物理法則を使っても、答えはでてこないのです。
qがマイナス無限大なら無限大の仕事が取り出せる、これがエネルギー保存則からの結論です。
冒頭で「取り出せる仕事の最大値はいくらか?」という質問をしましたが、このままでは答えはありません。
熱力学第二法則への入り口
取り出せる仕事に限界がないということは、工夫次第でいくらでも力学的なエネルギーを取り出せるということでしょうか。
希望的な観測で言えば、そうあって欲しいものです。
エネルギー問題は解決しますので。
でも、現実にはありえそうもないですし、そんな現象が確認されたこともありません。
限界があると仮定する
こうなったら仕方ありません。
「取り出せる仕事には限界があると仮定」してしまいましょう。
これは、エネルギー保存則などからは導けない新しい仮説です。
実は、これは不完全ながら熱力学第二法則の一側面なのです。
驚くようなもの仮説ではありません。
いくらでも仕事を取り出せるとは考えにくいという直感にも合致しています。
熱力学第二法則と言っても、内容はそんなものです。
後から他の表現も出てきますが、どれも珍奇なものではありません。
例えば「普通は、熱は温度の高いところから低いところに移動する」という表現もあります。
ただ「普通は」という言葉を、明確に定義するのがちょっと面倒なだけです。
これだけで多くのことがわかる
ここでは「変化の際に取り出せる仕事には限界値がある」と仮定して話を進めていきます。
こう仮定するだけで、驚くほど沢山のことがわかるのです。
次回からは、それによってどんなことが導かれるのか、具体的に見ていくことにします。
それが現実と合っていれば、信ぴょう性が高まるでしょう。
そして、それがそのまま熱力学の応用例になるので、一石二鳥です。
エントロピーが出てこない
「熱力学第二法則と言いながら、エントロピーが出てきていないじゃないか」
そう思った方もいるかもしれません。
焦らないでください。
エントロピーが出てくるのは当分先になります。
コメント