「エアコンの暖房は他の電気暖房に比べて圧倒的に省エネだ」というと驚く方がいるかもしれません。
エアコンは電力消費量が多くて電気代がかかるというイメージがあるからです。
でも本当のことです。
使い方にもよりますが、エアコンは電気ファンヒーターや電気ストーブより断トツに電力消費が少ない暖房方法なのです。
それは、エアコンの暖房の原理によるものなので、他の電気暖房機には決して真似することができません。
電力の消費について
暖房機器の消費電力を考えるために、まず電力消費の説明から始めます。
話の都合上、別記事『ヒートポンプとは? エコキュートにも使われる省エネ技術の仕組み』とかなり重複しますがご容赦下さい。
まず、電力を消費するというのはどういう意味でしょうか?
エネルギーは保存する
私たちは電気のエネルギーを様々な形で使っています。
エネルギーは保存しますから、使ったからといってなくなるものではありません。
他のエネルギーに姿を変えるだけです。
エネルギー保存の法則ですね。
電気のエネルギーを光のエネルギーに変えたり、洗濯機のドラムを回す運動エネルギーに変えたり、エネルギーを変換しているだけなのです。
使った後のエネルギーはどうなるのか
光のエネルギーや運動エネルギーに変換して利用したあともエネルギーはなくなるわけではありません。
また、他のエネルギーに変わるだけです。
光が物質に吸収されて熱エネルギーになったり、運動エネルギーが摩擦で熱エネルギーになったり……。
そう、使った電力は最終的に熱エネルギーになるのです。
※熱エネルギーという表現は正しくないのですが、ここでは触れません。
省エネ家電とは
エネルギー消費を少なくする工夫を電灯で考えてみましょう。
電気のエネルギーを光のエネルギーに変えるのが電灯です。
そして、その光のエネルギーは最終的に熱のエネルギーに変わってしまいます。
一度光になってから熱になるのは仕方ないのですが、中には電気のエネルギーが光にならず直接熱に変わってしまうことがあります。
この直接熱に変わるエネルギーが無駄なのです。
白熱灯は、熱になる量が多く電力消費も多かったのですが、蛍光灯、LEDと直接熱に変わる量を減らすことでエネルギー消費量が少なくなってきたのです。
洗濯機や扇風機などモーターで回転させるものでも、モーターでの発熱や摩擦による発熱を抑えて、回したいものを回すことだけにエネルギーを使うようにすることで電力消費を抑えているのです。
暖房機器の消費電力
これまでの話を踏まえて、暖房機器の消費電力について考えてみましょう。
電力消費量の多い電気機器は?
電力消費量の多い電気機器と聞くと何を思い浮かべますか?
電気ヒーター、ドライヤー、ホットプレート……
熱を利用する機器が上位を占めるはずです。
それもそのはずです。
灯りをつけたり、テレビを観たり、洗濯したり、扇風機を回した場合でも、使った電力は最終的に熱になっています。
しかし、その熱で部屋の温度が上がることなど、ほとんど感じません。
熱を発生させるためには多くの電力が必要になってくることがわかると思います。
暖房機器の省エネ
電力消費量が多い暖房器具ですが、省エネをうたい文句にした製品はあまりありません。
これまでの説明からその理由がわかるでしょう。
省エネにするということは、直接熱に変わるエネルギーを減らすということでした。
暖房機器は熱を発生させること自体が目的ですから、省エネ対策のしようがないのです。
※温める箇所を限定することで電力を抑えるというものはありますが、ここでは暖房を部屋全体の温度を上げることだと考えて話を進めます。
暖房器具の発熱量は、消費電力とイコールです。
物理の大原則である「エネルギー保存の法則」によるものなので、こればかりはどうしようもありません。
ファンヒーターなどは風を送ることにも電力を使っていますが、風も空気の摩擦によって熱に変わります。
モーターが発熱しても、それも部屋の温度を上げることに寄与します。
消費電力1000ワットの器具なら、発熱も1000ワット、一秒間に1ジュール(249カロリー)の熱を生み出すことしかできないのです。
暖房器具(その他熱を利用する機器)のカタログのほとんどは、消費電力または暖房出力の値どちらか一方だけが記載されていています。それだけで充分だからです。
エアコンの暖房
ではエアコンの暖房はどうでしょう。
あるメーカーのエアコンのカタログを引用してみます。
暖房を見てください。
能力3.6kW(3600ワット)で消費電力が660ワットと書かれています。
消費電力よりも暖房能力の方が、5倍以上も大きくなってます。
他のメーカーも見てみましょう。
こちらも同じです!
エアコンは消費電力よりも暖房能力の方が高い!!
同じ熱を発生するのに、消費電力が他の電気暖房機の20%しかかからない!
エアコンの暖房が省エネだと言った理由はこれです。
でも消費電力=暖房能力になるのはエネルギー保存則によるものだったはず。
エアコンは、エネルギー保存則を破るとでもいうのでしょうか?
エアコンの暖房の仕組み
私たちがエアコン(エアー・コンディショナー)と呼んでいるのは、ヒートポンプという機能を持った装置です。
≫ヒートポンプとは? エコキュートにも使われる省エネ技術の仕組み
低いところから高いところに水をくみ上げるポンプのように、温度の低いとことから高いところに熱をくみ上げるのがヒートポンプです。
冷房するときは、室内の熱を奪い、室外機から屋外に熱を放出しています。
冷房で温度が低くなっている室内から温度の高い室外に熱をくみ上げているのです。
暖房するときは、その逆です。
温度が低い室外から温度が高い室内に熱をくみ上げて暖房しているのです。
エネルギー保存則は?
エアコンの暖房では、室外の熱エネルギーを室内の熱エネルギーにしています。
ですからエアコンで暖房するときには、室外の熱エネルギーの分だけ電力消費より多くの熱を供給することができるのです。
エアコンを動かすには電気エネルギーが必要ですが、その電気エネルギーも最終的には熱になり暖房に寄与します。
室外機から屋外の熱エネルギーを汲み上げて使っているので、エネルギー保存則を守ったまま多くの熱を室内に満ちこむことができるのです。
暖房機器を使い分けよう
ここまでは、部屋の温度を上げること、温度が高いまま維持することを暖房と考えてエアコンが省エネだという話をしました。
でもホットカーペットを使っている人は部屋の温度を上げようとしている訳ではないでしょう。
足元だけ暖かければいいという使い方をしているはずです。
それなら部屋全体を温めるより消費電力は低くできます。
短時間で自分の周りだけ温めたいのなら、エアコンより電気ファンヒーターを使う方がいいでしょう。
エアコンは、窓に面した壁の屋上付近に固定されているエアコンは、そういう意味では使い勝手が悪いとも言えます。
部屋全体の温度を上げる必要はなく、特定の場所だけ温めるのなら他の暖房機器の方が電力消費を抑えられますので、目的に応じて暖房機器を選択することをお勧めします。