ブラックホールと言えば、光すら吸い込む宇宙の穴のようなものです。
一方エントロピーは「熱」に関するもので、熱力学という分野で使われています。
ブラックホールと熱、全く接点がなさそうな両者ですが、そこには深い関係があることがわかってきました。
今回は「ブラックホールのエントロピー」について簡単に説明したいと思います。
ブラックホールのエントロピー問題
”エントロピー増大の法則” という言葉を聞いたことがあるかと思います。
物体には、熱や温度と関連する「エントロピー」という特性があって、そのエントロピーの合計は大きくなっていくという法則です。
ブラックホールは熱や温度とは無関係で、エントロピーという性質は持たないように思えます。
もしブラックホールにエントロピーがないのなら、物質がブラックホールに吸い込まれると、その物質が持っていたエントロピーが消えてしまいます。
これは合計のエントロピーが減少することになるので、ブラックホールはエントロピー増大の法則(熱力学第二法則)に反する存在のように思えます。
熱力学第二法則を破りそうな存在として「マクスウェルの悪魔」が知られていますが、ブラックホールはもうひとつの「マクスウェルの悪魔」といってもいいでしょう。
≫マクスウェルの悪魔とは何か? わかりやすく簡単な説明に挑戦してみる
ブラックホールのエントロピー問題の発展
熱力学第二法則を守るには、ブラックホールにもエントロピーがあると仮定するしかありません。
物体がブラックホールに吸い込まれると、その物体のエントロピーが減るかわりに、ブラックホールのエントロピーがそれ以上に増える、そう仮定するとエントロピー増大の法則は保たれます。
ベッケンシュタイン のアイデア
イスラエルの物理学者 ”ヤコブ・ベッケンシュタイン” は、1972年にブラックホールがエントロピーを持つと提唱しました。
そして、エントロピーはブラックホールの事象の地平面(とりあえずブラックホールの表面とでも思ってください)の表面積に比例するとしました。
その仮説に従うならブラックホールも熱力学第二法則に則っとるということを発表したのです。
ブラックホールへの熱力学の適用
ベッケンシュタインの提唱通りにブラックホールにエントロピーがあるのなら、熱力学の関係式が適用できるはずです。
アインシュタインのE=mc2から、ブラックホールの質量はエネルギーを表します。
エネルギーとエントロピーの関係がわかれば、そこから温度が計算できます。
熱力学の関係式がそのまま成り立つとすれば「ブラックホールに温度がある」という結論になります。
ホーキング輻射の発見
ベッケンシュタインが、ブラックホールのエントロピーを発表した翌年、”スティーヴン・ホーキング” が、ブラックホールがエネルギー(電磁波)を放射する「ホーキング輻射」を発表しました。
≫ブラックホールはブラックではない? ホーキング放射とは何か
物質は温度に応じた電磁波を輻射していますが、ブラックホールも熱輻射と同等の電磁波を放射しているというものです。
言ってみれば「ブラックホールには温度がある」ということが判明したのです。
そして、その温度はほぼベッケンシュタインの提唱通りの結果でした。
この発見で、ブラックホールのエントロピーは現実的なものとして広く受け入れられるようになりました。
ブラックホールの熱力学
ベッケンシュタインは、熱力学と合致するようブラックホールのエントロピーを提唱しました。
熱力学を守るために生み出した苦肉の策のようなものです。
それが、ホーキング輻射の発見によって、エントロピーだけでなく熱力学の体系そのものをブラックホールに適用できることがわかったのです。
「ブラックホールはブラックではない? ホーキング放射とは何か」でも述べましたが、ここから更に理論は発展しています。
マクスウェルの悪魔(「マクスウェルの悪魔とは何か? わかりやすく簡単な説明に挑戦してみる」参照)といい、ブラックホールといい、熱力学に反しているように思えるものも、突き詰めれば熱力学の範疇でした。
一見、物理の基本法則に反するような現象を深く突き詰めていくことで、新たな発見が生まれた例のひとつと言っていいでしょう。
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