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あの理論物理学者が実験? アインシュタイン-ドハースの実験とは

アインシュタイン

物理学者には大きく分けて理論物理学者と実験物理学者がいます。

物理学はこの両者が両輪となって進歩してきました。

理論物理学者として一番有名なのは、やはりアルベルト・アインシュタインではないでしょうか?(Wikipediaでも著名な理論物理学者の最初に記載されています)

通常、理論物理学者と実験物理学者は分業体制になっていて理論物理学者が実験を行うことはほとんどありません。「理論物理学者が実験に手を出すと実験装置が壊れる」と言われているほどです。

理論物理学者の代表のようなアインシュタインは、実験は行っていないと思われがちですが実は実験もしています。

そのアインシュタインが行った唯一の実験が「アインシュタイン-ドハースの実験」です。

目次

アインシュタイン-ドハースの実験の概要

アインシュタイン-ドハースの実験の原理は単純です(精密に実験するのは大変ですが)。

鉄の円筒を自由に回転できるようにぶら下げます。そこに磁場をかけると円筒が回転する、これがアインシュタイン-ドハースの実験です。

逆に磁場をかけた状態で静止させて、磁場を除去すると反対方向に回転します。

磁場と物体の回転という大きく違って見える現象同士の不思議が関係を示した実験です。

アインシュタイン-ドハースの実験:なぜ円筒が回転するのか

では、なぜ磁場のON、OFFによって物体が回転するのでしょうか?

それには電子のスピンという性質が関係しています。

電子のスピンと磁石

電子のスピンは、電子が自転しているようなものです(あくまでもイメージとして)。

電子はマイナスの電荷を持っています。このように電荷を持ったものが回転すると磁場を発生します。非常に小さな磁石のようなものです。

通常はスピンの方向が逆の電子が2つが対になって存在しています。N極とS極が反対に向いた磁石を並べたようなものなので磁場は打ち消し合います。

しかし、そうではない金属も存在します。そうなると原子自体が小さな磁石になり、強磁性体といって磁石によく引っ付く特性が現れます。

その強磁性が重要になってくるので、アインシュタイン-ドハースの実験では強磁性体の鉄を使っています。

磁場とスピンの方向

鉄は小さな磁石の集まりですが、通常は磁石はランダムな方向を向いています。

ここに磁場をかけると、磁石は磁場に沿った方向に並びます(これによって磁石に引っ付くようになります)。

この小さな磁石の正体は電子のスピンです。実際に自転しているわけではないのですが、角運動量という回転によって生じる運動量を持っています。

バラバラの方向にスピンしている場合は全体では角運動量が打ち消しあってゼロになるのですが、磁場の中にあるとスピンの方向が揃い(N極とS極が揃う)その方向に角運動量が足し合わされます。

磁場のない場合と、磁場がかかっている場合とでは、電子のスピンの角運動量の合計が変わってくるのです。

角運動量保存則

ここで、角運動量は保存するという性質があります。

電子のスピンの角運動量の合計が変化するのなら、他の部分でそれを打ち消すように角運動量が生じなければなりません。

それが円筒の回転です。

先にも述べましたが、スピンは電子が本当に自転しているわけではありません。量子力学の計算で現れる特性です。

その何だかよくわからないスピンと、円筒の回転という見慣れたマクロな現象との間を取り持つのがアインシュタイン-ドハースの実験なのです。

これによって、スピンという角運動量を伴う物理量の存在が認められるようになりました。

バーネット効果

アインシュタイン-ドハース効果が発見される直前に、バーネット効果と呼ばれる現象が発見されました。

アインシュタイン-ドハース効果とは逆の現象で、鉄などの強磁性体を高速で回転させると磁力が発生するというものです。

バーネット効果とアインシュタイン-ドハース効果を併せて「磁気回転効果」と呼ぶこともあります。

アインシュタイン-ドハースの実験の時代背景と意義

アインシュタイン-ドハースの実験が行われたのは1915年で、まだスピンの概念が誕生する前のことでした。

電荷を持ったものが回転すると磁力が発生することはマクスウェルの電磁気学で知られており、強磁性体の性質は電荷を持った電子の運動によるものとも予想されていました。

電子は原子核の周りを回っている(実際に回っているわけではないのですが)ので、その公転運動が磁力の元になっているのではないかと思われていたようです。

でも、公転運動だとすると、角運動量と磁気モーメントの関係の実験値と異なるのです。

そこで、電子の自転ではないかと予想した人もいましたが、そうだとしても(角運動量と磁気モーメントの関係が)かなり変わったものになるという結果でした。

かなり紆余曲折があったのですが、アインシュタイン-ドハースの実験によってスピンという特性の存在が明らかになったのです。

アインシュタインの唯一の実験は、彼が残した理論物理学への貢献に比べると小さく感じられますが、量子力学の実験として充分大きな功績だったのです。

最近では、アインシュタイン-ドハース効果を利用したナノレベルの非常に小さなモーターの研究なども行われているようです。

出典:電子のスピンを駆動力とするナノモーターを提案 ーアインシュタインが生涯唯一関わった実験で発見された 磁気回転効果を利用ー東京大学物性研究所

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アインシュタイン

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