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液晶ポリマーとは何か?いま注目されている理由とその用途

スマートフォン通信

「液晶ポリマー」ちょっと不思議な名前の材料です。

プラスチックの一種で、もともと優れた性質が注目されてはいたのですが、ついに表舞台に立つ時が来たようです。

時代の流れに乗って、今後用途が広がっていくことが予想されています。

この液晶ポリマーの性質と注目されている理由について、出来るだけわかりやすく、簡単に説明したいと思います。

目次

液晶とは何か?

液晶ポリマーの説明に入る前に、まず「液晶」について説明します。

液晶といえばディスプレイ?

液晶と言えば、テレビ、パソコン、スマホなどのディスプレイを思い浮かべることが多いでしょう。

液晶が発見されたのは、1980年代後半ですが、それから長い月日を経てディスプレイとして花開きました。

液晶発見時の科学者たちには思いもよらない応用でしょう。

液晶という言葉の意味

液晶の「液」は液体の液で「晶」は結晶の晶です。

英語では “Liquid Crystal”、液体結晶とそのままのネーミングです。

その名の通り、液体と結晶の性質を併せ持つ不思議な物質です。

液晶の不思議な性質

液体は分子が自由に動ける状態で、結晶は分子が規則正しく整列した状態です。

液晶は、分子は液体のように動けるのですが、一定の規則に従って配列した構造を示すのです。

液晶ディスプレイでは電圧によって液晶の配列状態が変化することを利用して、光を通したり遮断したりコントロールして、画面を表示されています。

液晶ポリマーの種類

液晶ディスプレイ

液晶ポリマーのポリマーは、分子が長く連なった高分子のことです。

プラスチックやゴムが高分子の代表例で、液晶ポリマーはプラスチックの一種です。

液晶ポリマーは大きく2つの種類があります。

サーモトロピック型液晶ポリマー

通常のプラスチックは温度を上げると融けます。

それを利用して成形するのですが、その融けた状態が液晶性を示すものをサーモトロピック型液晶ポリマーと呼びます。

単に液晶ポリマーと呼ぶときは、このサーモトロピック型のことを指します。

リオトロピック型液晶ポリマー

高分子を溶剤に溶かしたとき、その溶液が液晶性を示すものがあります。

それをリオトロピック型液晶ポリマーと呼びます。

リオトロピック型の液晶ポリマーも興味深い特性ですが、今回の主題から外れるので、通常のサーモトロピック型液晶ポリマーに絞って説明します。

液晶ポリマーの構造

高分子が溶融状態を示すためには、次の2つの特性が必要です。

  1. 分子が硬くて直線状であること
  2. 分子同士に適切な分子間力が働くこと

それぞれについて、簡単に説明します。

硬くて直線状であること

長く連なった分子がくねくねと曲がりくねっていると、規則正しく整列するどころではありません。

このように曲がりくねった高分子では、温度を下げても液晶どころか結晶にもならないものがあるほどです。

ですから、溶融状態で液晶性を示すためには、棒や板のような硬い分子構造で、曲がりにくいものでなければなりません。

適切な分子間力が働くこと

分子が規則正しく並ぶには、隣の分子と引き合う力が働いていなければなりません。

でも引き合う力が強すぎると、結晶が安定になって熱をかけても溶融しにくくなります。

溶融するために温度をかけ過ぎると、分解が始まってしまい、液晶状態にはなれません。

液晶状態を保つためには、強すぎず、弱すぎない適切な分子間力が必要なのです。

液晶ポリマーの特徴

プラスチック

液晶ポリマーの一般的な特徴を説明しましょう。

プラスチック材料としての特徴

液晶ポリマーは、硬くて直線的な分子構造を持っています。

それに直結して、液晶ポリマーの成形品自体も硬いものになり、寸法安定性も高くなります。

また、熱をかけても簡単に変形しないので、耐熱性にも優れています。

溶融状態での特徴

溶融すると液晶性を示すのですから、溶融状態でも変わった特徴があります。

溶融状態での粘度が異常に低いのです。

溶融して型に入れて成型するのですから、粘度が低いと成形しやすいという大きな利点になります。

普通のプラスチックは溶融する温度付近では粘度が高過ぎて成型できず、粘度を下げるためにさらに高温にしなければなりません。

でも液晶ポリマーなら溶融温度より少し高い温度で成型できます。

同じくらいの耐熱性のプラスチックでは成型困難、成型不能(分解が始まる)でも液晶ポリマーなら成型加工できるのです。

また、粘度が低いとガラス繊維などの強化材を沢山入れても成型できるというメリットもあります。

液晶ポリマーの特性の総括

液晶ポリマーの特性をまとめると「溶融成形できる高耐熱プラスチック」といった感じでしょうか。

また、非常に硬いため変形しにくいというのも大きな特徴です。

液晶ポリマーの分子構造と歴史

液晶ポリマーには多くの種類がありますが、実用化されているのは、ポリエステル系の材料です。

化学繊維に使われているポリエステルの仲間です(PETボトルのPETもポリエステルです)。

ポリエステルは、エステル基という構造を持った高分子のことですが、このエステル基が程よい分子間力を示すので液晶状態になりやすいのです。

ポリエステル系の液晶ポリマーは、最初はポリエステルの耐熱性を上げるために使われました。

耐熱性を改良したら、それが液晶性を示したというのが実状のようです。

その後、液晶ポリマーの特性を意図して活かすように開発したのが、住友化学です。

住友化学スーパーLCPの特徴(住友化学ホームページ)

実用化は1979年なので、40年以上の歴史があります。

現在では、多くのメーカーが種々の液晶ポリマーを製造していますが、代表的な液晶ポリマーの構造を示しておきます。

液晶ポリマーの構造

なぜ今、液晶ポリマーなのか?

ここまでの説明で「昔からある材料で、特性も優れているのだから、すでに沢山使われているのが当たり前では?」と思った方がいるのではないでしょうか?

でも、今まで身の回りで液晶ポリマーが使われることはなく、特殊用途に限られていました。

その大きな理由は価格です。

高価なのでそれに見合った用途が少なかったのです。

それ以外に、物性に異方性がある(方向によって強度や硬さが違う)、脆いなど成形品として使うには不利な特性もありました。

液晶ポリマーの注目用途は回路基板

フレキシブルプリント基板

液晶ポリマーが注目されている用途は、フレキシブル配線基板です。

電子材料に使われる回路基板の一種で、フィルムの上に銅の配線を形成したものです。

配線基板と言えば緑色のボードを思い浮かべるかも知れませんが、それをフィルムで作ったものです。

フィルムにすることで、小さなスペースに収めることができるので、現在のIT技術には欠かせないものになっています。

このフィルムの材料として液晶ポリマーが使われています。

フレキシブル配線基板に必要な特性

フレキシブル配線基板用のフィルムには、色々な特性が上げられます。

  • 絶縁性
  • 強度
  • 銅との密着性
  • 耐熱性(半田付け温度に耐える)
  • 寸法安定性(配線の位置ずれが小さい)

液晶ポリマーは、これらの特性を高いレベルで兼ね備えています。

そのため、この用途への進出が期待されていましたが、なかなか広まることができませんでした。

配線基板用のフィルムには強敵がいたのです。

フレキシブル配線基板材料の強敵ポリイミド

その強敵は、ポリイミドという材料です。

液晶ポリマーよりも耐熱性が高く、溶融しないタイプのフィルムです。

液晶ポリマーも、フレキシブル配線基板材料に要求される特性を兼ね備えていますが、ポリイミドの方はそれ以上に互いレベルの特性を持っていたのです。

そして価格もポリイミドの方が安いので、液晶ポリマーの利用は一部の用途に限られていました。

フレキシブルプリント基板材料

ここでは、フレキシブルプリント基板の基材フィルムとして、ポリイミドと液晶ポリマーだけを紹介していますが、もちろん他のフィルムも使われています。
フレキシブル基板のイメージとして探してきた写真を載せましたが、この写真のフィルムも見た目で判断する限り、液晶ポリマーでもポリイミドでもなさそうです。
PEN(ポリエチレンナフタレート)かな?

液晶ポリマーの武器は誘電特性

実はフレキシブル配線基板材料に要求される特性には、先ほどの一覧に載せてないものがあります。

一覧に言葉だけ載せても意味がわかりにくく説明が必要だと思ったからです。

そのひとつが誘電特性です。

誘電率とか誘電正接という電気的な性質が、電子材料に使うためには大事になってきます。

誘電率も大切なのですが、特に誘電正接という特性が重要です。

誘電正接とは何か?

配線に電流が流れるとき、電場が発生します。

その電場によって、基板の中の分子が動きます。

もし交流のように電場が変化すると、それに応じて分子が動き熱が発生してしまいます。

せっかく送った電気信号が、熱になって損失してしまうのです。

この熱になって損失する割合が誘電正接だと思ってください。

この値が大きいと電気信号が失われる電装損失が大きくなって、回路基板としては使えません。

ポリイミドの誘電正接

ポリイミドの誘電正接も充分小さく、これまで実用上問題になることはありませんでした。

ただ、誘電正接は周波数によって違います。

ポリイミドは、周波数が高くなると誘電正接が高くなるという特徴があります。

それに比べて、液晶ポリマーは高周波数でも誘電正接が小さいままです。

誘電正接に影響するもの

誘電正接は、材料の化学構造や結晶性、不純物などに影響されます。

その中でも、液晶ポリマーとポリイミドの大きな違いは吸水性です。

ポリイミドは、吸水性があるので大気中の水蒸気を少し吸収します。

水の分子が高周波数で、電場のエネルギーを熱に変えてしまうのです。

電子レンジはこれを利用して食品を温めています。

≫≫電子レンジの仕組みを簡単に説明! 電波を使って加熱する不思議

液晶ポリマーは水をほとんど吸いわないので、高周波数でも発熱が少ないのです。

時代は高周波数へ

高速通信

液晶ポリマーの背中を押すように、高周波の時代がやってきました。

これからは、液晶ポリマーが身近なところで使われるようになることが予想されます。

無線通信分野

無線通信システムとして、5Gが実用化されました。

5Gで使われる電波として、4Gよりも周波数が高いサブ6と呼ばれる周波数帯と、ミリ波帯と呼ばれるさらに高周波帯が使われます。

一般に周波数が高いほど、大量の情報を短時間で送ることができるのです。

5Gのミリ波帯、そして今後の6G、さらにその先……

無線通信は高周波数へどんどんシフトしていきます。

そうなると液晶ポリマーの出番も増えていくでしょう。

ミリ波レーダー

レーダーは電波を使って物体を検知するものですが、目的に応じて色々な周波数を使い分けています。

周波数が低いと遠くのものまで感知できますが、小さな物体は捉えることができません。

ですから、小さい物体を確実に捉えるには、周波数を高くする必要があります。

身近な話から、いきなりレーダーの話になって戸惑っているかもしれません。

でも、身近な話なのです。

最近の自動車には自動ブレーキシステムが搭載されています。

人などを感知するために、高周波領域のレーダーが使われています。

これから自動運転などが広がると、車はレーダーだらけになるかもしれません。

小型で高性能なミリ波レーダーにも液晶ポリマーは欠かせない材料になりそうです。

液晶ポリマーに追い風が吹いていることは確かですね。

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