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民主主義の原則”多数決”に矛盾が?投票の不可能性定理とは?

投票箱

「多数の人の意見は多数決で決めるのが公正」

常識ですよね。民主主義も基本的には多数決の原理に従っています。

でも、実は「多数決は完全に公正なシステムではない」ことを知ってました?

完全に公正な選挙システムを作ることができないことは、証明されているのです。この投票の矛盾について簡単に説明してみます。

※数学的な説明は全くしていません。

目次

投票の逆理

投票の逆理と呼ばれるものがあります。単純な例を示してみましょう。

Aさん、Bさん、Cさんの3人で食事に行くとき、何を食るに行くのか決める場合を考えます。候補は、お寿司、焼き肉、天ぷらの3つです。

食べたい順番

Aさんが一番食べたいのがお寿司で、次が焼き肉、一番食べたくないのが天ぷらだったとします。

Aさん お寿司>焼き肉>天ぷら

こんな風にあらわしてみましょう。

同じようにBさん、Cさんの気持ちを表すと、

Bさん 焼き肉>天ぷら>お寿司
Cさん 天ぷら>お寿司>焼き肉

だったとします。

投票で決めると

一番食べたいものを投票すると、全部が1票ずつで決定することができません。

そこで、どれか2つ(例えば天ぷらと焼き肉)を選んで、そのどちらがいいか投票します。

選択枝が2つにすれば、3人で投票すれば必ずどちらかが多く票を獲得できます。

そして勝った方ともうひとつの選択肢(お寿司)で投票すれば、これも必ず結果が出ます。

じゃあ「その方法でいこう」と言いたいところですが、この方法では最初の選択肢を何と何にするかで、最終結果が変わるのです。

ちょっと確かめてください。

確かめてみよう

■最初にお寿司と焼き肉で投票する場合

1回目:Aさん「お寿司」Bさん「焼き肉」Cさん「お寿司」で「お寿司」と残った「天ぷら」で決戦投票
2回目:Aさん「お寿司」Bさん「天ぷら」Cさん「天ぷら」で天ぷらに決定

■最初にお寿司と天ぷらで投票する場合

1回目:Aさん「お寿司」Bさん「天ぷら」Cさん「天ぷら」で「天ぷら」と残った「焼き肉」で決戦投票
2回目:Aさん「焼き肉」Bさん「焼き肉」Cさん「天ぷら」で焼き肉に決定

■最初に焼き肉と天ぷらで投票する場合

1回目:Aさん「焼き肉」Bさん「焼き肉」Cさん「天ぷら」で「焼き肉」と残った「お寿司」で決戦投票
2回目:Aさん「お寿司」Bさん「焼き肉」Cさん「お寿司」でお寿司に決定

投票の順番で結果が変わる

これは投票の順番で結果が変わるということを示しています。

投票の日程や投票方式を操作すれば、多数決の結果を変えることができてしまうことになります。

人数が多くなるとどうなるか

選挙ポスター

人数が多くなると、もっとおかしなことが起こります。

一番食べたいものが一番食べたくないもの?

4人の場合で考えてみましょう。
それぞれが食べたいものは、次の順番になっているとします。

Aさん お寿司>焼き肉>天ぷら
Bさん 焼き肉>天ぷら>お寿司
Cさん 天ぷら>焼き肉>お寿司
Dさん お寿司>天ぷら>焼き肉

1番食べたいものを投票で決めると2票でお寿司、1番食べたくないものを投票で決めると、これも2票でお寿司です。

投票で決まったお寿司を食べに行ったとして、それが4人の総意だと言えるでしょうか?

過半数を超えればいいのか?

4人の例では、お寿司が2票でちょうど半数でした。投票では「過半数を超える」かどうか議論が問題になることがよくあります。

1位の投票結果が、半数を超えていれば、1番嫌なものが半数を超えることはありません。

そこで「投票の結果、過半数を超えなければ上位2つの間で決戦投票をする」という方法がよく使われているのです。

最初の投票で過半数を超えれば何の問題もありません。

しかし、上位2つの決戦投票になると、最初に説明した投票の順番の問題も絡んできて、やはり矛盾することがあり得るのです。

上手い投票システムはない

投票のシステムによって、結果は変わってきます。これはある程度仕方がないことかもしれません。

好き嫌いが激しく熱烈なファンも多ければ敵も多い人と、人から嫌われることはないけれど強く支持されることもない人、どちらを選ぶのが民意を表したことになるのか? と聞かれても答えはでません。

アロウの不可能性定理

この投票の矛盾(パラドックス)からアロウの不可能性定理と呼ばれるものが証明されました。

表現の仕方がいくつかあるので、Wikipediaの表現を引用します。

要約すると、この定理によれば次の3つの「公正さ」の基準を常に同時に満たすような選好順位選挙制度は設計できない。

・全ての投票者が選択肢Xを選択肢Yよりも好むとき、集団全体もまたXをYよりも好む
・ 投票者個々人における選択肢XとYの間の選好順位が変わらないとき、集団全体としてのXとYの間の選好順位も変わらない(投票者各人でその他の選択肢の組み合わせ、例えばXとZの間やYとZ、ZとWなどの間の選好順位が変わったとしてもである)
・独裁者が存在しない。つまり、如何なる個人であれ集団全体の意志を1人で決定することはできない

Wikipedia

簡単に言うと、以下を満たすような選挙制度を作ることはできないという定理です。

  • 全員一致は全体の総意となる
  • XよりYを好むのなら、ZやWが選択枝に入ってもXよりY好む
  • ひとりで決定するような独裁者はいない

全て当たり前のことのように思えますが、その当たり前を満たす選挙制度はできないということです。

数学的に証明されてしまったので、理想の選挙制度を作ろうとしても無駄なのです。

これが投票システムの限界です。

多数決を否定するものではない

これは選挙や多数決を否定するものではありません。

できるだけ公正に全体の総意に沿う主張を選ぶという目的にかなうものは、他にありません。

多数決は、限界はあるけれど一番いい方法だといえるでしょう。

ただ、選挙の方式によって結果が変わることは間違いなく、それを知って自分に有利な選挙方式を選ぶ人たちもいるで、その点は注意しましょう。

投票箱

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