永久機関には、第一種永久機関と第二種永久機関の2種類があることを知っていますか?
「永久機関はエネルギー保存則に反するので存在しない」
そう思っている人が多いと思いますが、第二種永久機関はエネルギー保存則には反していない永久機関です。
今回は、この第二種永久機関について説明してみたいと思います。
第一種永久機関とは何か
まずは、第一種永久機関から説明しておきましょう。
第一種永久機関は、何もないところからエネルギーを生み出すものです。
これは、エネルギー保存則に反しているので実現が不可能です。
永久機関と聞いて普通に想像するのは、この第一種永久機関ではないでしょうか?
第二種永久機関とは何か
第二種永久機関は次のように表すことができます。
「ひとつの熱源から熱を奪って仕事に変える機関」
簡単に言うと、熱を(熱以外の)エネルギーに変える装置です。
熱エネルギーを他のエネルギーに転換するだけなので、エネルギー保存則を破っていません。
どこが永久機関なのか?
これがなぜ永久機関になるのでしょうか?
第二種永久機関を搭載した自動車を考えてみましょう。
この自動車は周囲の熱を奪って、そのエネルギーで走ります。
周囲の空間は熱を奪われるので、温度が下がるでしょう。
でも自動車はどんどん動いていって、その時点での周りの空気から熱を奪うことで走り続けることができます。
エネルギーを補充することなく、いくらでも走ることができるのです。
本当に永久機関なのか?
でも、それを永久と言ってもいいのか、疑問を持つ人もいるかもしれません。
この装置を動かすと、地球上の温度がどんどん下がっていき、もし絶対零度まで下がるとそれ以上走ることはできないように思えるからです。
膨大なエネルギーには違いありませんが、永久とは言えない気がします。
自動車にエネルギー補充が必要な訳
自動車が走行するにはエネルギーが必要ですが、どうしてエネルギーが必要になるのでしょう。
動いているものは動き続けるという性質(慣性の法則)があります。
少なくとも直線なら、最初にエネルギーを使って動かせば、その後はエネルギーは必要ないはずです。
それでもエネルギーを補充し続けなければならない理由は摩擦です。
タイヤと地面の摩擦、車体と空気の摩擦、自動車内部の駆動部の摩擦、それによって失われるエネルギーを補充しないと走り続けることはできません。
ブレーキを踏んだとき減速するのも、ブレーキバットをつかって摩擦を起こすからです。
自動車の運動エネルギーが摩擦によって失われた分だけエネルギーの補充が必要なのです。
自動車もシステムに組み込んでみる
もう大体わかってきたのではないでしょうか?
摩擦が起きると摩擦熱が発生します。
摩擦によって自動車が減速するのは、運動エネルギーが熱エネルギーに変わったからです。
第二種永久機関を組み込んだ自動車は、熱を吸収して運動エネルギーにします。
運動エネルギーが熱エネルギーになって失われる分を、そのエネルギーで補うのです。
熱を吸収した場所では温度が下がります。
摩擦が起きた部分では温度が上がります。
でも、何の心配もありません。
熱は温度の高いところから低いところに勝手に移動してくれます。
地球上の温度が下がることなんて、心配する必要は全くないのです。
利用した熱も全て元通りになって何の消費もない状態で、自動車は目的地までちゃんと到達できます。
まさに永久機関です。
エネルギー保存則を考えてみる
エネルギー保存則は、第一種永久機関を禁止するだけのものではありません。
逆に「いくら使ってもエネルギー自体はなくならない」ということも表した法則です。
エネルギーを消費しても、エネルギー自体はなくなることはないのです。
消費した分が他のエネルギーに変化するだけのことです。
もし、それを回収して使うことができれば永久に利用し続けることができるのです。
エネルギーを利用すると最終的には熱になります。
ですから、熱を回収して再利用できれば、永久機関になるのです。
熱からエネルギーを取り出す方法
熱はどんなことをしても他のエネルギーにできないという訳ではありません。
ガソリンや天然ガスや石炭を燃やして、その熱を使ってエネルギーを生み出すことができます。
実は熱を他のエネルギーに変えるには、温度の高い部分と低い部分が必要です。
何かを燃やすことで温度の高いところを作り出して、それと周囲の低温部を使ってエネルギーを取り出しているのです。
熱の移動
高温部と低温部を使ってエネルギーを取り出すとき、必ず温度の高い部分から、温度の低い部分に熱が移動します。
ですから、エネルギーを取り出していくと、温度の高い部分では温度が下がっていき、温度の低い部分では温度が上がっていきます。
同じ温度になってしまうとエネルギーを取り出せなくなるので、何かを燃やし続けて高温を維持しないといけないのです。
最初に示した第二種永久機関の定義「ひとつの熱源から熱を奪って仕事に変える機関」の「ひとつの熱源」は、高温と定温のふたつの熱源がある場合はその限りではないという意味でつけられた注釈だったのです。
第二種永久機関はできないのか
第二種永久機関は、エネルギー保存則を破っていません。
それなら、作れる可能性がないものでしょうか?
どうやら、できないみたいです。
第二種永久機関が作れないという法則は、熱力学第二法則と呼ばれています。
この熱力学第二法則は、エネルギー保存則(熱力学第一法則)と同じくらい正しいとされている法則です。
どのくらい信用されている法則なのか、いくつか例を挙げてみましょう。
スタンレーの言葉
『理系と文系の比較「二つの文化と科学革命」でC.P.スノーが語ったこと』という記事でも引用したイギリスの天文学者 ”サー・アーサー・スタンレー・エディントン” の言葉です。
あなたの理論がマクスウェルの方程式に反するとしても、その理論がマクスウェルの方程式以下であることにはならない。もしあなたの理論が実験結果と矛盾していても、実験の方が間違っていることがある。しかし、もしあなたの理論が熱力学第二法則に違反するのであれば、あなたに望みはない。
マクスウェルの方程式が間違っていることがあっても、熱力学第二法則が間違っていることはあり得ないという発言です。
特許法
特許法29条では、特許法における「発明」に該当しないものとして
「自然法則に反するもの」
を挙げています。
ここでいう自然法則とは何でしょう。
現在、物理の法則として知られているものが間違っている可能性はあります。
もし従来の物理の法則が間違っていて、その法則に反するものを発明したとしたら大発明です。
これを特許にしないというのは、不自然でしょう。
ですから、ここでいう「自然法則」は物理の法則全てではなく、間違いないと思われているものだけです。
その唯一の例として挙げられているのが「永久機関」です。
なぜそれほど信用されているのか?
熱力学がここまで信用されているのは、熱力学の正しさを示す検証結果が、莫大なことです。
わたしたちが普段目にする現象全てが、その証拠と言えるくらいです。
だからこそ、マクスウェルの悪魔や、ブラックホールなど、一見熱力学第二法則に反するようなものは、それを解消するための研究が続けられたのです。
そして、それらの問題も解決され、熱力学第二法則を脅かすものはなくなりました。
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