UL規格を知っていますか?
2020年10月に東洋紡、2021年1月に京セラが、UL認定を不正取得していたことが相次いで判明しました。
そのニュースで、初めてULを知った人もいるかもしれません。
ULは、アメリカの一企業に過ぎないのですが、実は世界中の電気製品の安全を担っているといっても過言ではないくらいの影響力を持っているのです。
JISのように国が制定した規格でもないのに、なぜこんなに大きな影響力を持っているのでしょうか?
その背景について説明したいと思います。
*ちなみに私は材料メーカーでUL認証の仕事もしたことがあるので、主にその立場で説明します。
UL規格とは一体どんなものなのか?
UL規格というのは、アメリカの ”Underwriters Laboratories Limited Liability Company(UL LLC)” という会社が決めている規格です。
主に電気製品の安全性を評価、認証する規格
ULは、主に電気製品の安全性に関する規格です。
電気製品と言っても、電子機器や大型家電から電気コードまで多岐にわたっています。
これは、自分のパソコンの裏を写したものですが、赤い枠で囲った部分がUL認証のマークです。
こんな風に身の回りにUL認証されたものが沢山あります。
最近では、電気製品に留まらず産業機器や自動車部品まで、UL規格が広がっています。
ULが認証するのは製品だけではない
ULは製品の安全性を評価するだけではありません。
電気製品に使われる部品や材料まで全てを対象にしています。
東洋紡や京セラで不正取得されたものも、電気製品に使われる原材料に対する認証です。
材料まで評価する理由
電気製品は、漏電やショートなどによって、感電したり火災の原因になるなどの危険性があります。
安全を守るためには、きちんと絶縁する材料や、ショートしても火災にならない燃えない材料を使う必要があります。
ですから、使う材料から安全性を担保しないといけません。
特に、電気製品に使う材料は、燃えにくいものを使う必要があります。
同じプラスチックでも、電気製品に使うものには難燃性が求められ、材料メーカーにとってはULで難燃性の認証を得ることが重要になっています。
*東洋紡や京セラで不正取得されたのも、多くは難燃性の認証です。
ULはどのようにして認証しているのか?
ULの認証はどのような方法で行われているのでしょうか?
それを知れば、不正取得が起きた背景も理解できるでしょう。
ULはサンプルを試験する
認証用の試験は、基本的にUL LLC自体が行います(ULが認定した試験機関が代理で行うこともあります)。
製品のサンプルをULに提出して、試験をしてもらい、それに合格すれば認証されるという仕組みです。
これだけではわかりにくいので、他の規格と比べてみましょう。
JISなどの規格はどうなっているのか?
一番よく知られている規格は、JIS(日本産業規格)でしょう。
日本の国家規格ともいえるものですが、JIS規格では各種の規格を定め、試験方法などを細かく決めたものです。
メーカーはその規格に則って製品を作り、試験をします(試験機関に依頼することもあります)。
JISで定められているのは規格で、実際に試験を行うのはメーカーなのです。
製品にはばらつきがありますが、JIS規格に従って試験を行い、合格したものだけを商品にする品質の保証にも使われています。
そのため、試験データを改ざんしたり、試験をしていないのにデータをねつ造したりする品質偽装が行われることがあります。
ULは品質保証ではない
UL規格は、品質の保証に使われることはありません。
何しろ試験はULが行うのですから、全製品をテストするわけにはいかないのです。
製品ひとつをサンプルとして提出して、それが合格したという認証をもらえるだけです。
ばらつきがあるので、全製品が同じテストに合格するかどうかまではわからないのです。
ただ、同じように製造しているのなら、ULで認証されたサンプルと同等の特性を持っているだろうという参考にはなります。
UL不正取得はなぜ起こるのか
ULでは、試験はULが行うのですから、データの改ざんやねつ造はできません。
不正取得は、実際の製品と違うものをサンプルとしてULに提出するという方法で行われます。
ですから「同じように製造しているのなら、ULで認証されたサンプルと同等の特性を持っているだろう」という前提が崩れてしまいます。
ULに認証されるものを製造することはできても、それではコストが高かったり、他の特性が劣っていたりする場合、テストサンプルには認証されるものを提出し、実際には違うものを「同一だ」と言って販売するのです。
ULは一回認証されれば終わりというものではなく、本当に同じものを作り続けているか確認するために抜き打ち検査が行われます。
そのたびに、実際の製品とは違う「UL認証用サンプル」を作成して提出するという行為を繰り返すというのが、UL不正認証の特徴です。
不正認証は、プラスチックなどの難燃性の規格で行われることが多いようです。
プラスチックを燃えにくくさせる「難燃剤」というものがあって、通常はその難燃剤を混ぜ込んで製品にしています。
難燃剤を沢山入れれば、より難燃性の高い認証が得られますが、コストがかかりますし、他の物性にも悪影響を与えます。
メーカーとしては、できるだけ難燃剤を少なくしたいのです。
これが、難燃性で不正取得が多い要因かもしれません。
なぜULの影響力が大きいのか
最初に説明したようにULは、アメリカの一企業です。
その企業が、世界中の電気製品に対して安全性を認証し、UL認証がなければ製品が販売できないような力を持っています(UL認証がないものを販売しても法的には問題ないにもかかわらず)。
なぜ、これほどの影響力を持っているのでしょうか?
ULの歴史
ULの歴史は、エジソンの時代までさかのぼります。
電球などの発明によって、電力網が整備されはじめ、各種の電気製品が使われるようになりました。
そうなると問題になるのが、安全性です。
その電気製品の安全性を評価する試験方法を考え、実施したのが、ULの始まりです。
電化時代の到来とともに設立されたアメリカ最古の安全規格開発機関なのです。
そして、アメリカの自治体は、電気製品の安全性を守るために、ULを公的な認証として指定することになります。
そこから、アメリカに輸出する製品にULが広がり(公的なものではなく任意取得ですが)、そこから世界中に広がっていったのです。
ULは最近まで非営利団体だった
UL LLCが設立されたのは2012年と最近のことです。
それまでは、Underwriters Laboratories Inc.という非営利機関でした。
「アメリカの一企業」と何度も言ってきましたが、そうなったのはつい最近なのです。
その背景には、ULを扱う国や製品が膨大になってきたことが挙げられます。
1894年に始まったUL規格が、100年以上経った現在でも拡大を続けているというのは、驚くべきことではないでしょうか?