『化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律』、略して『化審法』という法律があるのをご存知ですか?
危険な化学品から人や生物を守るために制定されている大事な法律です。
化審法は、単に毒性が強いとかではなく、もっと広い視野で危険性を判断する仕組みになっています。
今回はこの化審法について簡単に説明してみたいと思います。
化審法制定のきっかけ
1968年にカネミ油症事件という悲しい事件が起きました。
カネミ倉庫株式会社製の食用油「カネミライスオイル」で、中毒症状が起こったという事件です。
被害者を訴えた人は、1万4,000人以上、認定患者数は2018年度末時点で2,329人という大きな被害をもたらしました。
工場で使われていたポリ塩化ビフェニル(PCB)が配管から漏れて製品へ混入たことが原因です。
これが化審法制定の大きなきっかけになりました。
PCBによる健康被害の特徴
カネミ油症事件の原因物質はPCB でした。
健康被害をもたらしたのは、PCBとPCBが加熱されてできたダイオキシン類の複合だったようです。
PCBは、PCBを使った製品が世の中に出回り、そこから少しずつ環境に漏れ出し、それによって人や動物が少しずつ蝕まれていくというものです。
摂取したことですぐに症状がでる「毒物」や「劇物」とは違うタイプの健康被害です。
そして、PCBによる汚染の研究が進み、それを元に同様の被害が出ないように制定されたのが「化審法」です。
化審法の判断基準
化審法は環境に放出されて、少しずつ動植物を蝕んでいくような物質を対象としています。
ですから「何グラム摂取したら死亡する」といった、毒物や劇物の基準では判断できません。
そこで、化審法では以下のような性質で危険性を判断します。
分解性
自然界に漏れ出してもすぐに分解するものなら、長期的な被害はあまり気にしなくてもいいでしょう。
逆に分解されず、そのまま残留するようなものは危険性が高いということです。
そのため「分解されにくいものほど危険」という基準があります。
蓄積性
生き物の体内に入ったとしても、すぐに排出されるものなら長期的な健康被害は少ないと考えられます。
逆に言えば、生物の体内に蓄積されるものは毒性が低くても長期的に健康被害をもたらす可能性が高いということです。
また、水中に溶けている化学品を魚が摂取したとき、排出されずに蓄積されていけば魚の体内に化学品が濃縮されることになります。
その魚を食べることで、健康被害が出ることも考えられます。
そのため「生き物の体内に蓄積されやすいものほど危険」という基準もあります。
長期毒性
もし分解もされず蓄積される物質でも無害であれば問題はありません。
もちろん、毒のような急性の害ではなく「長期間その物質にさらされても問題ない」というものです。
その中で特に重要視されるのが「変異原性」です。
変異原性というのは、遺伝子の変化をひき起こす作用のことを言います。
変異原性の高い物質は発がん性を持ちますし、胎児に影響を与えることもあります。
短期的には何も症状が出なくても、遺伝子の変異を引き起こす物質は危険なのです。
化審法の規定
これまでにない新しい化学品を製造、輸入、販売する場合には、安全性評価を行い化審法の届け出をしなければなりません。
ここで危険性が高いと判断されると、製造することはできません。
この評価にはもちろん費用が必要で、何千万円単位の金額になります(製造、輸入する企業が負担します)。
何千万円という費用がかかる評価を行い、許可されたものだけが世の中に出回るっているのです。
もちろん、それで安全が保障される訳ではありません。
本当に危険な化学薬品が出回らないようにする歯止めのひとつに過ぎませんが、私たちの安全を守ってくれる法律なのは間違いありません。