「毒物」「劇物」という言葉はほとんどの方が聞いたことがあるでしょう。
これらは、毒物および劇物取締法(毒劇法)と呼ばれる法律で決められた危険性の高い物質で、その取扱いや販売が厳しく規制されているものです。
簡単に人を殺せるような薬品を安易に流通させないようにして、私たちの身の安全を守ってくれている大事な法律です。
今回は、毒物・劇物について解説してみたいと思います。
毒物および劇物取締法(毒劇法)とは
毒劇法は、昭和25年12月28日に制定された法律です。
その趣旨を厚生労働省のホームページから引用してみます。
毒物及び劇物取締法は、日常流通する有用な化学物質のうち、主として
急性毒性による健康被害が発生するおそれが高い物質を毒物又は劇物に
指定し、保健衛生上の見地から必要な規制を行うことを目的としています。
具体的には、毒物劇物営業者の登録制度、容器等への表示、販売(譲渡)
の際の手続、盗難・紛失・漏洩等防止の対策、運搬・廃棄時の基準等
を定めており、毒物劇物の不適切な流通や漏洩等が起きないよう規制を
行っています。
厚生労働省 医薬・生活衛生局化学物質安全対策室
簡単に言えば、
- 急性毒性による健康被害が発生するおそれが高い物質を指定して、
- 不適切な流通や漏洩等が起きないよう規制を行っている
法律です。
毒物とは?
毒物とは、大まかに言えば致死量が2g程度以下のいわゆる猛毒です。
ヒ素とか水銀などが毒物に当たります。
よく知られているものでは、ニコチンも毒物に該当します。
その他毒物の一覧が厚生労働省のホームぺージに記載されていますので、必要な方は参考にして下さい。(毒物一覧)
劇物とは?
劇物は致死量が2~20g程度以下の毒です。
毒物よりも10倍多い量で致死量に達するものが劇物として指定されています。
アンモニア、過酸化水素、クレゾール、クロロホルム、水酸化ナトリウム、メタノールなど、よく知られた化合物も劇物です。
※薄めると劇物ではなくなるものもあります。
毒物と同様に、厚生労働省のホームぺージに、劇物一覧が記載されています。
特定毒物
毒物の中でも特に危険なものは特定毒物として規制されています。
特定毒物一覧表にリンクを貼っておきますが、一般の人が実際に目にすることはほとんどありません。
それ以外の毒は
致死量が20g以下のものは、毒物、劇物に指定されていますが、致死量が20gより多いものは毒劇法の対象外です。
致死量が30gなら毒物でも劇物でもありません。
致死量に達する量が多いとはいっても、毒性があるものを放置したら危ないと思われるかもしれません。
さすがに致死量がキログラム単位なら摂取すること自体が不可能ですが、劇物の10倍、200gくらいまでは規制すべきと思う人もいるかもしれません。
でも、致死量が多いものまで管理の対象にすると大変なことになります。
世の中にあるほとんどの物質は、沢山摂取すると死に至ります。
毒性ゼロというものはほとんどありません。
致死量200gといえば、食塩がちょうどそのあたりです。
生きていく上で必要不可欠な物質まで、毒性があるとして規制すると、世の中には何も流通できなくなってしまうのです。
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毒物・劇物は致死量だけで決まるものではない
最初の説明で、毒物・劇物の基準を致死量で分けましたが、それはあくまでも簡易的なものに過ぎません。
それ以外のことも、考慮されて決められています。
社会的な影響を考慮
シンナーの成分であるトルエン、キシレンは劇物に指定されていますが、毒性自体は劇物の基準以下です。
シンナーが出回ることの社会的な影響の大きさを考慮して劇物指定されているのです。
逆に猛毒でも、世の中に出回ることのない物質は対象とされていません。
あの「サリン」も、通常出回ることがないので毒物指定されていません。
自然界にあるものは除外
猛毒で有名な「トリカブト」は、自然物なので毒劇法の対象外です。
「ニコチン」も化学合成されたもの(化学薬品など原料になる)は、毒物ですが、自然界にある植物の「たばこ」は対象外です。
自然にあるものは、人間が管理することができません。
ですから毒劇法の対象にはならないのです。
毒劇法は急性毒性だけ
毒劇法は「急性毒性」だけを考慮した法律です。
どれくらい摂取したら死に至るのか? それだけを見ています。
長期に摂取し続けると健康被害が起きる、発がん性がある、胎児に影響がある、環境汚染になる、そのようなことは一切考慮していません。
もちろん、そのような物質を放置しているわけではありません。
それらの物質は、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)、労働安全衛生法(安衛法)など、他の法律で規制されているのです。
危険な薬品から私たちの生活を守るために色々な法律が張り巡らされているのです。