現在、私たちは一分一秒どころか、マイクロ秒単位で正確な時間を知ることができます。
しかし、日常ではそれほど正確な時間は必要ないのかも知れません。待ち合わせの時間を細かく決めたりできるのは、誰もが正確な時間を知ることができるからです。
正確な時計がなかった時代は、数分くらいずれても問題なく、それで充分だったはずです。
正確な時計が必要とされたのは、大航海時代が始まってからです。航海のために正確で頑丈な時計を船に搭載する必要がでてきたのです。
なぜ航海に、正確な時間が必要だったのでしょう?
船の現在位置の測定
安全に航海するためには、船の現在位置を知る必要があります。
もちろんGPSなどない時代です。何もない海上では、太陽や星の位置だけが頼りです。
どのようにして現在位置を知ったのでしょう?
緯度の測定
地球上での位置は、緯度と経度によってあらわされます。
南北の位置を示す緯度は、天体観測によって簡単に知ることができます。
北半球では、真北の方向に北極星が見えます。
北極星が水平線からどの位の角度で見えるのかを測定してみましょう。
丸いのが地球で、上が北だとします。
北極点では、北極星が真上に見えます。
そして、赤道付近では水平線の方向に見え、その間は北極星と水平線の角度から緯度を計算できるのです。
経度の測定
同じように経度を測ってみましょう。
こんどは地球を真北から眺めた図です。
同じように、目印になる星を見つけて、その角度を測ります。
このとき、緯度にはなかった大きな問題があります。地球の自転です。
地球が自転しているため、時間によって星の見える角度が変わってくるのです。
「この時間に、星がこの角度なら今はこのあたりにいる」
ということはわかります。
ただ、時間がずれていると計算した位置と実際の位置と大きくずれてしまうのです。
天体の観測から、船の位置を計算するためには正確な時間を知らなければいけなかったのです。
クロノメーターの誕生〜大航海時代
航海による遭難事故が相次いだので、1714年にイギリスの議会が高精度で経度を測定できる方法に懸賞金を出すという法律を制定します。
前で説明したように、時間を正確に知ることができれば、経度を測定できるのですが、その方法がありませんでした。
当時、一番精度が高かった時計は振り子時計ですが、波で揺れる船の上では使いものになりません。
揺れる船の上で使えて、海水を浴びても大丈夫で、激しい環境下で何か月も、正確に時を刻み続ける時計が必要だったのです。
そして ”ジョン・ハリソン” というイギリスの職人が、それを満足する時計を作り上げあげました。1759年に発表したH-4という時計は、ポーツマスからジャマイカまでの81日間の航行で5秒しか狂わなかったという実績を残します。
それと同じ2号機を作成して、こちらも航海で求める精度が出ることが確認されてから、賞金が支払われました。
この高精度の時計はクロノメーターと呼ばれることになります。
時計の仕組みは、現在の機械式腕時計に近いものです(大きいですが)。
クロノメーターの発展
クロノメーターは、より安く、より正確になるように、改良が続けられます。
そして、精度を競うコンクールが開かれるようになりました。
そこで精度を認められた時計が「クロノメーター級」と呼ばれるようになり、最終的には国際的な規格が作られ、それに合格した時計だけが「クロノメーター」を名乗ることを許されるようになりました。
これは現在でも続いていて「クロノメーター」は、国際的に精度を認められた時計だけに認められた称号なのです。
今でもクロノメーター級の機械式腕時計を作るには、高い技術が必要です。腕時計より大きいとはいえ、現在でも難しい精度の機械式時計を300年も昔に作っていたことは驚きです。
※精度が高くても検定を受けていない時計も沢山ありますが「クロノメーター」と表示することはできません。
クォーツ時計のクロノメーター
その後、クォーツ時計が開発され一般に普及していきます。
実は、クォーツ時計にもクロノメーターの規格がちゃんとあり、合格すれば「クロノメーター」と名乗ることができます。
しかし、クォーツ時計では、この規格があまり重要視されてないようで、検定を受けることがほとんどない状態です。
クロノメーターは、現在では機械式時計のステータスのようなものなのかもしれません。