「粉塵爆発」小麦粉など、危険とも思えない物質でも爆発を起こす現象です。映画などで眼にした方も多いのではないでしょうか?
粉塵爆発とは、一体どういう原理で発生するのかご存じでしょうか?
家庭でも起こりうる危険な現象なので、その仕組みを知っておいた方が良いかもしれません。
そこで、粉塵爆発について簡単に説明してみます。
燃焼と爆発の違い
粉塵爆発に入る前に、「爆発」について、どんな現象なのかついて説明しておきます。粉塵爆発も爆発の一種なので、まずはそこからスタートした方がわかりやすいと思いますので。
さて問題です。「爆発」と「燃焼」何が違うのでしょうか?
燃えるのは連鎖的な現象
別記事『引火点、着火点とは? ものが燃える仕組みを簡単に』でも説明しましたが、燃焼は酸化反応が続いて起こるものです。
酸化反応とは、何らかの物質が空気中の酸素と反応する現象で、大きなエネルギーが発生することで知られています。私たちが活動するときのエネルギーも、この酸化反応によるものです。
燃焼は、酸化反応が連鎖的に継続して起きるもので、次のようなサイクルを繰り返します。
- 何かの拍子に酸化反応が起こる
- 酸化反応のエネルギーによって発熱して温度が上がる
- 温度が上昇したことで周囲の酸化反応を誘発する
一旦(十分な量の)酸化反応が起きると、それによって次々に反応を引き起こすのです。
燃焼とは?
燃焼は、酸化反応が連鎖的に起きていますが、その広がり方に制限があります。
酸化反応は酸素との反応ですから、周囲の酸素が反応に使われてしまうとそれ以上反応できません。
また、物質の内部ではなく空気に触れている表面でのみ反応します。
これによって、連鎖の速度に制限がかかります。
使われた酸素の代わりに空気中から新しく酸素が補充され、燃え尽きた表面が剥がれて新しい表面が剥き出しにならないと次の反応が起こりません。
この酸素の補給速度で燃焼の広がり方が制限されます。
風が強いと火の勢いが強くなるのは、風によって酸素の補充が速くなるためです。
爆発とは?
『引火点、着火点とは? ものが燃える仕組みを簡単に』でも説明したガソリンの爆発を例にしてみましょう。
液体のガソリンの表面で燃えているときは、その部分の酸素がなくなれば酸素の補給が必要です。
でも、ガソリンが気化して気体の状態で空気と混合されている場合は別です。
全ての(ガス化した)ガソリン分子の周辺に酸素が沢山あります。酸素の補充も何もありません。補充しなくても一気に反応するだけの酸素があるのです。
反応の速度を制限するものがないのですから、一か所で反応が始まるとそれをきっかけに酸化反応が一瞬で広がっていきます。
これが爆発です。
ちなみに火薬や爆薬は、分子内に酸素を持っています。そのため、空気中の酸素がなくても反応できるので爆発するのです。
粉塵爆発とは?
酸素の補充(酸素が充分なら燃えるものの補充)に制限されず、一気に酸化反応が進むのが爆発です。また、固体の場合は酸素煮に触れている表面だけが反応するという制限があります。
ですから、酸素の補充がない状態で表面だけで十分な酸化反応が起きる状態なら爆発するということです。
粉塵爆発は、小さな粉末が空気中に舞っていて、酸素の補給がなくても一気に反応が進むものです。
次の3つの条件が揃ってしまうと、粉塵爆発が起きてしまうのです。
粉末が小さいこと
まず、細かくて小さい粉末であることです。
小さいと空気に触れている表面積が大きくなります。表面だけでも十分な反応が起きてしまうのです。
大きな塊では火をつけてもすぐに消えるような物質でも、微粉末にするだけで燃えるようになるものもあります。固体の燃焼、爆発では、表面積が非常に重要になってくるのです。
空気中に適当な濃度で舞っていること
微粉末が空気中に舞っている状態で点火されると、酸化反応が一気に広がっていきます。これが粉塵爆発です。
微粉末の周りには十分な酸素があり補充の必要がなく、表面だけでも一気に広がるだけ反応エネルギーが発生する場合に爆発が起こります。
もし、粉末の量が少ないと、粉末間の距離が大きくなります。
すると、ある粉末が酸化して高温になっても、その温度が周囲の粉末に伝わらず連鎖的に反応が進みません。
逆に粉末だらけで空気が少ないと酸素の補充が間に合わず連鎖反応が進みません。
空気と粉末の割合が適度な時に粉塵爆発が起こります。
これ以上粉末の量が少ないと反応が伝播しない濃度を爆発下限濃度と呼び、これ以上粉末が多くなると酸素の補充が必要となる濃度を爆発上限濃度と呼びます。
ちなみに小麦粉の爆発下限濃度は、1立法メートルあたり約40gなのでこれ以上の濃度で小麦粉が舞っている状態で着火すると爆発します。
爆発上限はよく分かりませんが、空気中に舞うような状態は全て爆発上限以下で、粉塵爆発の危険性があります。
着火源があること
爆発限界内の粉塵が舞っているだけでは粉塵爆発は起きません。
連鎖的な反応をひこ起こすきっかけが必要になります。
粉塵が舞っている状態で、火をつけたり、火花を飛ばしたりすると、それをきっかけにして粉塵爆発が起こってしまいます。
粉末が大量に舞っているような場所では、火をつけないようにしましょう。
粉塵爆発を起こす物質
粉塵爆発を起こす可能性があるものとして、小麦粉が良く知られています。
小麦粉は、そんなに燃えそうに思えません。燃えにくいものは、酸化反応が起きて温度が上がっても、酸素の補給の間に温度が下がってしまい、反応が継続できないものです。
しかし、粉塵爆発では酸素の補給の時間はありません。
普通なら火をつけても消えてしまうようなものでも粉塵爆発を起こす危険があるのです。
小麦粉で粉塵爆発が起きるのはこのような原因からです。
また、過去には炭鉱での粉塵爆発で多くの犠牲者が出ましたが、普通は石炭も火を近づけたくらいで簡単に燃えるものではありません。
でも石炭の粉塵が舞っている場合は、僅かなきっかけで爆発を起こしてしまいます。
小麦粉に限らず、ほとんどの微粉末は粉塵爆発の可能性があると考えていた方がいいかもしれません。
小麦粉以外で粉塵爆発を起こすもの
家庭にある空気に舞うような微粉末のほとんどは粉塵爆発の危険性があると考えていた方がいいでしょう。
実際に粉塵爆発を起こした事例があるものとして、片栗粉、砂糖粉、コーンスターチなどがあります。
爆発事故は、食品工場のように大量に使う場所で発生することが多いのですが、家庭でも充分気を付けた方がいいでしょう。
金属粉での粉塵爆発
粉塵爆発の事故でよくあるのは金属粉による粉塵爆発です。
鉄やアルミといった、よくある金属の粉末が粉塵爆発を起こしてしまうのです。
鉄やアルミは燃えません。
酸化反応は起こしますが、熱伝導性が高いためすぐに温度が下がるので、反応が連鎖する燃焼には至らないのです。
しかし、金属には微粉になると酸化されやすくなるという性質がありますし、かたまりの時ほど熱が逃げません。
それもあって、金属粉が粉塵爆発を起こしてしまうのです。
鉄粉やアルミニウム粉は、危険物(可燃性固体:着火しやすい固体や低温で引火しやすい固体)に指定されているくらいです。
鉄やアルミが「可燃性固体」と言われてもピンときませんが、普通は燃えないと思っているものでも粉塵爆発の危険性があるのです。
ちなみに金属の酸化反応を言い換えると「錆びる」ですが、錆びる時に熱が発生するイメージはないかも知れません。
通常の錆は、時間をかけてゆっくりと進行するので発熱を感じないのです。
微粉末にして反応が早く進むように工夫すれば金属の酸化による熱を感じることができます。
鉄の酸化反応の熱を利用したものが身近にあります。使い捨てカイロです。
爆発まで行かないように制御すれば、便利に使うことができる現象です。