amazonの電子書籍リーダー ”Kindle” には、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイとは全く違う「電子ペーパー」と呼ばれる表示方式が使われています。
電子ペーパーは、ディスプレイの一種なのですが、液晶デや有機ELとは全く違う仕組みで文字を表示させるものです。
そもそもの仕組みが違うので、液晶などに比べて、目に優しい、省電力、という大きな特徴があります。
今回は電子ペーパーとはどんなものか、わかりやすく説明します。
電子ペーパーとはどんなものか
最初に電子ペーパーとはどんなものか、液晶や有機ELとどこが違うのか、簡単に説明してみます。
電子ペーパーは反射式のディスプレイ
電子ペーパーが液晶や有機ELなどと大きく違うのは、反射式のディスプレイだということです。
液晶や有機ディスプレイからは光が放出されていて、その光を目で見ています。
でも電子ペーパーは、ディスプレイからは光を出していません。
太陽光や照明などの光が電子ペーパーに当たって、反射した光を見ているのです。
ですから反射式のディスプレイと呼ばれています。
私たちが紙に印刷された文字や画像を見るときは、反射光を見ています(紙から光が出ているわけではないので)。
反射式のディスプレイは、紙の印刷物を見ているのと同じ原理なので、電子ペーパーと呼ばれます。
ですから、暗いところでは電子ペーパーの表示を見ることはできません。
電源を切っても表示が消えない
電子ペーパーのもうひとつの特徴は、電源を切っても表示が消えないことです。
静止画なら一度表示させてしまえば、後は電力を消費せずに表示し続けることができます。
これも液晶などと大きく違う点です。
これも印刷物に似ていますね。
電子ペーパーがKindleに使われている理由
Kindleが液晶ではなく、電子ペーパーを使っているのは、大きなメリットがあるからです。
電子ペーパーの利点ですが、大きくふたつあります。
- 目に優しい
- 消費電力が少ない
それぞれについて簡単に説明してみます。
電子ペーパーは目に優しい
液晶などのディスプレイを長時間見ていると目が疲れます。
でも電子ペーパーは紙の印刷物を見ているのと同じなので、目の疲れかたが全然違います。
もちろん、ブルーライトもありません。
Kindleでは、読みやすくするためにLEDライトを内蔵していていますが、表示面を照らすフロントライトとして使っています。
フロントライトから出た光は室内の照明や太陽光と同じように、ディスプレイに反射して、その反射光を私たちが見ているのです。
紙に印刷された文字を読むときに明るくするためにライトで照らすのと同じことです。
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイでは、デイスプレイの裏側から直接光が出ています(液晶ディスプレイではバックライトと呼ばれています)。
その光が直接、目に入ってくるので疲れやすいのです。
電子ペーパーは消費電力が少ない
電子ペーパーは消費電力が少ないことも大きな特徴です。
それには大きくふたつの理由があります。
光を発しないので省電力
液晶や有機ELは光を発していて、私たちはその光を見ています。
液晶ディスプレイでは液晶の裏からバックライトで光を発生していますし、有機ELディスプレイなら有機EL自体が発光します。
光を発生させるためには、当然エネルギーが必要です。
それに比べ電子ペーパーは、発光のエネルギーが必要ないため電力消費が少なくなります。
フロントライトを使っていても、その光は弱いので電力消費を抑えることができます。
電源を切っても表示されるので省電力
電子ペーパーは、電源を切っても表示されたままです。
同じものを表示させ続けるのであれば、電力が必要ないということになります。
電力を使うのは、表示を切り替えるときだけ。
動画など激しく表示が移り変わるものでは効果は小さいですが、電子書籍などページを変えるときだけ表示が替わるような用途では、大きな節電になります。
電子ペーパーを使っている amazon の Kindle は、一回の充電で数週間(使い方にもよりますが)使えるとうたっています。
電子ペーパーの雄”E ink”
電子ペーパーと言えば真っ先に名前が挙がるのが E ink というアメリカの会社です。
私たちが目にする電子ペーパーはほぼ E ink のものだと言っても過言ではないくらいで、電子ペーパーの代名詞にもなっています。
E ink電子ペーパーの仕組み
E ink は、マサチューセッツ工科大学メディアラボが開発した電気泳動式という技術を使った電子ペーパーを製造、販売してます。
電気泳動式の電子ペーパーの仕組みを簡単に解説してみます。
表示部は、白色と黒色の顔料粒子とオイルが入っている非常に小さなマイクロカプセルの中が並んだ構造をしています。
ここで白色の顔料は正に帯電、黒色の顔料は負に帯電しているのが技術のミソです。
1.表面層、2.透明電極(ITO)、3.マイクロカプセル、4.正に帯電した白色顔料、5.負に帯電した黒色顔料、6.透明分散媒、7.下部電極、8.支持層、9.外光、10.白色、11.黒色
画像はWikipediaより
表示面のガラスは、透明で電気を通すITOを使っていて電極の役割を果たします。
≫インジウムの用途~テクノロジーを支える透明電極原料ITOとは?
ここでマイクロカプセルの下にある電極と、表面にある透明電極の間に電圧をかけることで、電気的な力で顔料が移動(電気泳動)させて表示するという仕組みです。
油に粘性があるので、電圧をかけなければ顔料は最初の位置に留まったままになり、電源を切っても表示され続けます。
図の真ん中のカプセルのように、ひとつのカプセル内でも電圧のかけ方を変えれば場所によって色を変えることができるので、高解像度にしやすいという特徴もあります。
電子ペーパーの歴史と今後の発展
E inkの電子ペーパーは、2000年代前半から注目されていました。
大型ディスプレイがブラウン管から液晶に変わりつつある時代、iPhoneも誕生していない時代と言えば、どれだけ歴史があるのかわかるでしょう。
例えば、2004年に発売されたSONYの電子ブックリーダー ”LIBRIe” にも E ink の電子ペーパーが使われていました。
電子ブックリーダーに適していることは、そのころから知られていたのです。
他にも色々な応用が期待されていたのですが、当時は採用分野があまり広がりませんでした。
日本では電子書籍が広まるのが遅れたこともあり、電子ブックリーダー自体も多く出回ることはありませんでした。
amazonの電子ブックリーダー ”Kindle” の発売は2009年ですが、日本では2012年に日本版 Kindle とKindleストアが開設されてから、やっと広まり始めました。
電子ペーパーの進化/書き換え速度の向上
電子ペーパーの大きな欠点は、書き換えのスピードが遅いことでした。
電子ブックのページをめくって次のページを表示する動作すらもっさりしていたほどです。
しかし、最近の書き換え速度の向上は目覚ましく、PCやスマホのディスプレイとしても(動画を見るのはさすがに苦しいですが)使えるレベルになっています。
電子ペーパー上をペンで文字を書いても表示に遅延がなくなったので、電子メモ帳としての用途も広がっています。
電子ペーパーの進化/カラー化
Kindleなどに搭載されている通常の電子ペーパーは、モノクロでグレー表示(通常16段階)しかできません。
当然ですが、カラー化の試みもされています。
鮮やかな色調を表現できるものほど表示の切り替えが遅くなるのですが、少しくすんだ色であればスマホやPCのカラーディスプレイに使えるレベルに近づいています。
また、高画質のカラー電子ペーパーも書き換えの速度が上がってきています。
カラーの電子ペーパーのポスターが街頭に設置されるようにもなるなど、今後電子ペーパーを目にする機会が増えていくかもしれません。
Kindleを買ってみた
実際に、現在の量産電子ペーパーの実力を見るため、Kindleを買ってみました(本当は欲しかっただけです)。
本当に紙に印刷されたものを見ているようで、よく読書をする人には読みやすいと思います。
よく読書をする人と書いたのは、液晶ディスプレイに慣れていると、書籍の方が読みにくいという人もいると思ったからです。
表示の切り替えは少し遅延があるので、さすがにサクサク切り替えという訳にはいきません。
もちろん、本のページをめくることに比べたら格段に速くて楽です。
じっくりと読書することに特化したデバイスですね。
読書好きにはたまりません。