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フラーレンとは? 無限の可能性を秘めた炭素物質

サッカーボール型フラーレン

サッカーボール型の炭素 ”フラーレン”

発見者が1996年にノーベル化学賞を受賞したことでも知られる物質です。

凄い可能性を秘めた物質ですから、これまでにもフラーレンを話題にした記事に何度か挑戦していました。

でも、なかなか言葉にできずにいました。

「言葉にできないものはできなくていい」

半分、開き直ってフラーレンの記事を書いてみました。

目次

フラーレンとは?

フラーレンは、炭素原子だけでできたサッカーボール型の分子です。

サッカーボールそのものの形をしたフラーレン60、ラグビーボールのように楕円体になっているフラーレン70などが知られています。

ここで、60とか70という数字は炭素原子の数で、フラーレン60は炭素原子60個で構成されているということを表しています。

サッカーボールの頂点に炭素をひとつずつ置いていくと60個になるのです。

フラーレンの発見

フラーレンの発見は偶然でした。

実は、研究が開始された当初の目的は宇宙だったのです。

星間物質

電波望遠鏡での観察によって、宇宙空間には炭素がいくつかつながった物質が存在することが知られていました。

そのような炭素が宇宙空間で、どのようにして生成したのか興味を持ったのが、当時(1984年頃)イギリスのサセックス大学にいたハロルド・クロトーという人物でした。

クロトーは、知り合いのロバート・カールがいるアメリカのライス大学を訪問し、リチャード・スモーリーを紹介されます。

クロトーとカールは電波(マイクロ波)分光学が専門ですが、スモーリーはクラスターを専門とする科学者です。

クラスターというのは、原子が複数個集まったもののことです。

炭素がつらなった物質も一種のクラスターなので、クロトーの興味を解決するヒントが得られるかもしれないと思ったのです。

炭素クラスターの研究

ハロルド・クロトー、リチャード・スモーリー、ロバート・カールの3人は、スモーリーの実験室にあった装置(レーザー蒸発クラスター分子線質量分析装置)を使って炭素クラスターの実験を始めました。

その装置によって、炭素がいくつか集まったクラスターと呼ばれるものができるのですが、その中で炭素が60個集まったものが特に多く生成することが判明したのです。

これがフラーレン60です。

なぜ炭素が60個なのか?

炭素が60個集まったものが特に沢山生成するということは、炭素が60個集まると安定な構造を採ることを意味しています。

その安定な構造とはどんなものなのか、それが大きな課題でした。

スモーリーらは、色々考えた結果、炭素がサッカーボールの形に配列した構造ではないかと結論つけたのです。

これが1985年のことです。

本当にサッカーボール型なのか?

炭素が60個集まった安定な構造があることは間違いなかったのですが、それが本当にサッカーボール型なのかは不明のままでした。

スモーリーらの方法では、生成する量が少なすぎて構造まで特定することができなかったのです。

多量の合成法が見つかり、構造が本当にサッカーボール型だと確認されたのは1990年のことでした。

そして1996年、クロトー、スモーリー、カールの3人がフラーレンの発見の功績でノーベル賞を受賞したのです。

フラーレンの何が凄いのか?

フラーレンの発見は、なぜノーベル賞に値するような大発見なのでしょうか。

実は、この部分を上手く説明することができなくて、今までフラーレンの記事を書けなかったのです。

なので、意味のわからないことを書くことをお許し下さい。

簡単に言うとフラーレンは何が凄いのかわからないくらい凄いのです。

フラーレンを巡る興奮と熱狂

上手く説明はできませんが、フラーレンの発見は世界中の化学者を熱狂させるものだったのは確かです。

自分自身のことをいうと、フラーレン発見の1985年は大学で化学を学んでいて、1990年の大量合成と構造特定の時は化学会社で研究員を始めていました。

一応化学者の端くれでした。

その端くれでも、フラーレンの構造を見た瞬間、興奮して声もでませんでした。

化学に携わる人には説明はいりません。

構造を見ただけで、色々な可能性が頭をよぎり、とんでもないことが起きそうな予感を抱かせる、そんな物質なのです。

フラーレンの用途とは

サッカーボール

現在では、フラーレンは安価に大量生産することができます。

でも用途は広がっていません。

とんでもないことが起きる」などといっておきながら、30年経ってもほとんど応用されていないのです。

同じ炭素でできた物質でも、後から見つかったカーボンナノチューブの方が応用が進んでいるほどです。

≫≫カーボンナノチューブとは何か? 世界を変えるかもしれない究極素材

フラーレンには、これまでより軽くて丈夫な材料、高性能な半導体、容量の大きい電池材料といった現在の材料の上位互換ではなく、今まで無かった全く新しいものを産み出すような期待がかかっています。

それを裏付けるように、興味深い性質も沢山見つかっています。

ただ、全く新しいものの誕生には、時間がかかることは仕方ないかもしれません。

化粧品への応用

Wikipediaのフラーレンの応用の項目を見ても、実際に利用されているのはほぼ化粧品分野だけのようです(2019年8月現在)。

正直な話をすると、化粧品に使うメリットがどのくらいあるのか自分にはわかりません。

ウェブサイトを見ると、フラーレンには活性酸素を分解する抗酸化力があることを謳っていますが、それを肌に塗ることによってどのような効果を発揮するのかは全くわからないのです。

≫≫活性酸素とは? 知っておきたい原理原則をわかりやすく説明してみる

少なくとも、フラーレンに期待しているのは美容効果ではありませんし、優れた美容効果があるからノーベル賞を取ったわけではありません。

ノーベル賞を取ったほど凄い物質が入っているから効果がある

なんてことはないですよね。

使ってみて効果があれば使えばいい、個人的にはそう思います。

エレクトロデバイスへの応用

フラーレンは、有機薄膜太陽電池、有機EL素子、有機薄膜トランジスタなどへの応用も研究されています。

フラーレンは半導体の性質を持っているので、これらの用途に応用できることは間違いありません。

しかし、現在のところ既存の材料に比べて特に優位な点がないようです。

ただ、フラーレンはこれまでに知られている半導体とは、かなり特性が違うので、何らかの工夫で一気に効率が上がることもあり得るという期待はあります。

宇宙にも存在するフラーレン

Spitzer宇宙望遠鏡

NASAが2003年に打ち上げたSpitzer宇宙望遠鏡は、地球の大気に邪魔されないよう宇宙から天体の赤外線を観測できる衛星です。

このSpitzer宇宙望遠鏡で惑星状星雲Tc1の赤外線スペクトルを観測したデータを解析したところ、Tc1星雲に存在する赤外線に活性な物質の主成分がフラーレン(C60、C70)だということがわかりました。

前に述べたように、宇宙空間には炭素がいくつかつながった物質が存在することは知られていました。

でも、それは直線状の物質で、フラーレンとは全く違うものです。

しかし、Spitzer宇宙望遠鏡によってフラーレンが観測され、宇宙でも条件が揃えば大量のフラーレンが存在することがわかったのです。

星間炭素物質の研究から始まって、それとは全く異なるフラーレンが発見され、そのフラーレンもまた宇宙に存在することがわかった、奇妙な巡り合わせですね。


サッカーボール型フラーレン

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