「活性酸素は体に悪い」
「活性酸素は老化を促進する」
「活性酸素を除去しよう」
このような表現をよく見かけますが、そもそも活性酸素とはどんなものか知っていますか?
この記事では、知っておきたい活性酸素のメカニズムについて、簡単に説明してみます。
広い意味での活性酸素とは?
私たちが生きていくうえで欠かせない空気中にある酸素。
酸素は、反応性が高く、色々な物質と反応することが知られています。
その酸素がさらに反応しやすく(活性化)なったものを、広い意味で活性酸素と呼びます。
活性酸素は物質の名前ではなく、酸素を主体とした色々な物質の総称になります。
酸化反応
酸素が他の物質と反応することを「酸化反応」と呼びます。
金属が錆びるのも酸化反応ですし、木材などが燃えるのも酸化反応です。
ですから、酸化反応を比喩的に「錆びる」「燃焼する」という言葉で表現することがあります。
身体が錆びるとか、体内で燃焼すると言った表現です。
錆びると言えば身体に悪いことのように感じ、
燃焼すると言えば身体にいいことのように感じますが、実際は全く同じものです。
広告などでは、酸化を悪者にしたいときに「錆びる」、よいものにしたいときに「燃焼する」とイメージ操作のために表現を変えてますね。
室温での酸化反応
酸素は反応性が高いとはいっても、室温ではあまり酸化しないものもあります。
でも、ただの酸素ではなく、もっと反応性が高い状態になった酸素なら、そういうものも酸化します。
これが活性酸素の働きです。
活性酸素は、悪役のイメージですが、実は色々な場所で利用されています。
ウィルスや細菌を酸化分解してくれたり、匂いや汚れを酸化分解してくれたり、除菌剤や漂白剤などで生活にも役立っているのです。
このブログで紹介したものの中では、光触媒の抗菌作用や汚れ除去、オゾンの抗菌効果や消臭効果、漂白効果などが、活性酸素によるものです。
≫≫光触媒とは何か?効果や原理をわかりやすく説明してみた
≫≫オゾンとは何か? 紫外線吸収の仕組みと生成法と危険性
その他、空気清浄機などで、抗菌や脱臭効果をうたっている商品(マイナスイオンとか、なんとかクラスターとか)の多くは、活性酸素による効果だと説明されています(本当かどうかは別にして)。
このような用途では、「活性酸素」という言葉は使われていません。
「活性酸素を部屋中にまき散らします!」
といったら、誰も買わなくなりそうですね。
※活性酸素の中でも最も強い「ヒドロキシラジカル」と言われるものが作用しています。
OHラジカルは、パナソニック、ダイキン、シャープなど数社が各種空気清浄機などにおいて有害物質除去に働いていると主張している。
Wikipedia
狭い意味での活性酸素
活性酸素には色々な物質が含まれると言いましたが、その中でも次の4つの物質が狭い意味で「活性酸素」と呼ばれています。
- スーパーオキシドアニオンラジカル(スーパーオキシド)
- 過酸化水素
- ヒドロキシルラジカル
- 一重項酸素
これらの物質は身体の中で発生します。
広い意味での活性酸素の中で、体の中で発生するものを狭義の活性酸素と呼んでいるのです。
実際に私たちが息をして取り込んだ酸素の一部は、必ず活性酸素になることが知られています。
活性酸素の必要性と害
活性酸素は室温で酸化反応を起こすものですから、栄養分を燃焼させてエネルギーを取り出すときにも使われます(ミトコンドリア内で)。
その他にも、抗菌作用があるので免疫系にも欠かせません。
生きていく上で、なくてはならないものなのです。
しかし、活性酸素は反応性が高すぎて、細胞内の物質と反応して損傷させてしまうことがあります。
これが、癌や生活習慣病の原因になったり、老化を促進させる原因だとされています。
生体反応による活性酸素の発生
活性酸素のうち、生体反応で直接つくられるのは「スーパーオキシド」です。
そのスーパーオキシドをスーパーオキシドディスムターゼ (SOD)という酵素が「過酸化水素」に変換します。
過酸化水素は、カタラーゼなどの酵素によって、水と酸素に変換されて完全に無害化されるという仕組みになっています。
活性酸素のうち「スーパーオキシド」と「過酸化水素」は、このような仕組みで作られます。
また、過酸化水素は、そのまま放置しておくと「ヒドロキシルラジカル」になります。
このヒドロキシラジカルが、一番が活性が強い親玉です。
過酸化水素の無害化が遅れると、親玉が発生して暴れだすことになります。
活性酸素の弊害はのほとんどは、この親玉「ヒドロキシルラジカル」の影響と言われています。
狭い意味での活性酸素の中で、過酸化水素のことは知っている人は多いと思います。
過酸化水素を水で薄めたものが、オキシドール、オキシフルと呼ばれるもので消毒などに使われます。
オキシドールを傷口に塗ると泡が発生します。
この泡は、過酸化水素が血中のカタラーゼという酵素で分解されるときに発生した酸素です。
オキシドールの殺菌は、過酸化水素が分解してできたヒドロキシラジカルによるものですが、そのヒドロキシラジカルが身体まで攻撃しないように守っているのです。
紫外線による活性酸素の発生
活性酸素は紫外線によっても発生することがあります。
この時に発生するのが、親玉「ヒドロキシラジカル」と、「一重項酸素」です。
≫≫フリーラジカルとは何か? 一重項と三重項、酸素の不思議にも迫ってみる
屋外に放置したプラスチックがボロボロに劣化することがありますが、あれも紫外線によって発生した活性酸素による分解です。
活性酸素の除去
活性酸素を除去する物質にはどんなものがあるのでしょうか?
単に活性酸素を除去するだけなら、多くの物質が相当します。
活性酸素、特にヒドロキシラジカルと素早く反応する物質は、山ほどあるのです。
重要なのは活性酸素と反応したあと安定な化合物になること。
反応して活性酸素が除去されても、かわりに活性な化合物ができたのではあまり意味がありません。
それ以外にも
- 身体に必要な活性酸素は除去しない
- 活性酸素が発生する場所にきちんと届く
- 効果が表れる濃度を維持する
- 反応前後とも毒性が少ない
など多くの条件を満たさないといけません。
どんなものが良いのか
ビタミンCを始めとするビタミン類や、ポリフェノールなどの、抗酸化物質は、活性酸素の除去に効果があると言われています。
ただ、何を摂取すれば活性酸素を効率的に除去できるのか、簡単にはわからないのも事実です。
「○○は活性酸素を除去する効果が確認された。だから老化防止に○○を摂取しよう」
という単純なものではありませんので、安易に信用しない方がいいかもしれません。
活性酸素による酸化を防ぐことの難しさを個人的に痛感しています。
プラスチックなどが劣化するのも、同じく活性酸素による酸化なので、それを抑えるために抗酸化物質を配合します。
このとき、何をどのくらい添加すればいいのか、予想がつかず試行錯誤になってしまうのです。
プラスチックという1種類の物質で、実験もできて、切り取って分析もできて、そのデータが沢山あるにも関わらずです。
多種類の物質で構成されている人体で、人体実験するわけにもいかないのですから、簡単にはわからないはずです。
最後に
お分かりかもしれませんが、この記事の裏テーマは、言葉の使いわけによる「印象操作」です。
「錆びる」「燃える」の使い分け、「活性酸素」という言葉の使い方などを、ちょっと皮肉ってみました。
ついでなので、もうひとつ。
食品が酸化されると、風味が落ちたり変色したりします。
それを防ぐために、食品添加物として「酸化防止剤」が添加されていることがあります。
「食品添加物」「酸化防止剤」イメージ悪いですよね。
でも、活性酸素による酸化を防止するものなので、言い換えれば「抗酸化物質」です。
すると一気にイメージが良くなります。
実際に、添加剤に「酸化防止剤」と書かれているのをよく見てみると、成分は「ビタミンC」だということもありますよ。
※L-アスコルビン酸と書いてあれば、ビタミンCです。
参考文献:藤田直、”活性酸素,過酸化脂質,フリーラジカルの生成と消去機構並びにそれらの生物学的作用”YAKUGAKU ZASSHI., 2002年 122巻 3号 p.203-218(リンク)