2010年、マンチェスター大学のアンドレ・ガイム(Andre Geim)とコンスタンチン・ノボセロフ(Konstantin Novoselov)の2名が、「グラフェン」という物質の革新的な実験によってノーベル物理学賞を受賞しました。
グラフェンは、理論的にも興味深いもので、特性を研究することで物理学の進歩に大きく貢献することが期待されています。
実は、グラフェン自体は昔から身近にありふれたもので、その特性も理論的には研究が進んでいたものです。
でも、科学者たちの懸命な努力にも関わらず、取り出すことができない状態が続いていました。
それに成功したことがノーベル賞につながったのですが、グラフェンとはどんなもので、どこに存在していて、どうやって取り出したのでしょう?
あまりにも身近すぎて、驚くかもしれません。
グラフェンとはどんな物質なのか?
グラフェンとはどんな物質なのでしょうか? まずはそこから紹介していきましょう。
グラフェンは炭素だけで構成された物質
グラフェンを構成しているのは、炭素だけです。
炭素が亀の甲のように六角形に並んでいるのが、グラフェンです。
どこかで見たことはありませんか?
グラフェンはグラファイトの構成単位
グラファイトシートとは?モバイルを支える放熱シートの実力という記事で紹介した「グラファイト」は、炭素が六角形に並んだシートが層状に積み重なったものです。
言い換えると「グラフェンが層状に積み重なったもの」がグラファイトです。
グラファイトと言えば鉛筆に使われている「黒鉛」のこと。めちゃくちゃ身近なところにありました。
黒鉛の層を剥がして、1層だけにすればグラフェンの出来上がりです。
グラフェンを取り出す努力
グラフェンは興味深い特性を示すことが理論的にも知られていました。
そのため、グラファイトを剥がしてグラフェンを取り出す実験も色々行われてきました。
分子レベルの制御が可能になってからは、層の隙間に分子サイズのくさびを打ち込むという超微細な操作まで試されたのですが、それでも上手くいかなかったのです。
グラフェンの作成法
アンドレ・ガイムとコンスタンチン・ノボセロフはどのようにして、グラフェンを取り出したのでしょうか?
これもまた、身近なものを使った方法でした。
スコッチテープ法
グラファイトはグラフェンが層状に積み重なっています。それを引き剥がすのに、セロハンテープを使ったのです。
グラファイトの上下にセロハンテープを粘着して引き剥がす、これを繰り返していけば最終的に1層だけのグラフェンになるという方法です。
2004年に報告された初めてのグラフェン製造法で、これがノーベル賞につながりました。
鉛筆とセロハンテープを使うという親しみやすいノーベル賞ですね。
実際は、鉛筆の芯をセロハンテープで剥がすだけといった簡単なものではありません。
高配向グラファイトを使い、テープでへき開してはがし取り、酸化膜付きシリコン基板にい転写させ、その中からグラフェンになっているものを選別するという作業が必要です。
グラフェンの厚みは炭素原子ひとつ分しかないので、このような方法で引きはがせるだけの強度があったというのも驚きです。
炭化ケイ素エピタキシャル法
スコッチテープ法では、大きな面積のグラフェンを作ることができません。
そこで、大面積グラフェンの製造法が研究され、そのひとつが炭化ケイ素エピタキシャル法です。
エピタキシャルというのは、基板となる結晶の表面で結晶を成長させる方法のことです。
炭化ケイ素の結晶を加熱することで表面にグラフェンを成長させる方法で、原子レベルで平滑な炭化ケイ素を必要としますが、大面積のグラフェンを作ることが可能です。
グラフェンは電子材料への応用が期待されていますが、この方法は現在のシリコンウェハーを使った電子基板技術にそのまま応用できることから、大きな期待を集めています。
その他のグラフェン製造法
その他の方法として、炭素を持った化合物を気体にして蒸着する化学蒸着法(CVD法)や、化学的にグラファイトを剥離させる化学剥離法などがあります。
また、よく使われている方法として、グラファイトを酸素と反応させた酸化グラファイトが簡単に剥離できることを利用した酸化グラフェン法が挙げられます。
グラファイトを酸化グラファイトにしてへき開させて酸化グラフェンを作り、その酸化グラフェンをグラフェンに戻す(還元反応)という方法です。
不純物などが混入しやすく、純粋なグラフェンを作ることは難しいですが、比較的安く作ることができる方法です。
グラフェンの何が凄いのか?
ノーベル賞を受賞するくらいですから、グラフェンは凄い物質だろうということは想像できるでしょう。
でも、一体何が凄いのでしょうか?
強度が強くて硬い
グラフェンは平面状の物質ですが、平面方向の強度は他のどんな物質よりも強いという特徴があります。
また、平面方向に限れば、同じ炭素でできているダイヤモンドよりも硬いと言われています。
グラフェンを丸めると「カーボンナノチューブ」という繊維状物質になるのですが、このカーボンナノチューブは世界最強の繊維状物質です。
≫カーボンナノチューブとは何か? 世界を変えるかもしれない究極素材
電気伝導度と熱伝導度が高い
グラフェンは電気伝導度が非常に高いことが知られています。
また熱伝導度は、これまでに知られているどんな物質よりも高く熱を伝えやすいという性質もあります。
別記事で、グラフェンが積層したグラファイトシートが、熱を伝えやすくて放熱シートとして使われていることを説明しましたが、それはこのグラフェンの特性によるものです。
単に、電気や熱を伝えやすいというだけでなく、平面の二次元での伝導だというのも大きな特徴です。
電子物性
グラフェンの最も大きな特徴は、他の物質とは全く違う電子物性を持っているということです。
既存の金属や半導体には見られない特性が色々見つかっています。
私たちが今まで見たこともない、想像すらできないようなものに応用される可能性も高いでしょう(いつになるかはわかりませんが)。
参考文献:グラフェン総論(PDF)