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水銀 身近に使われている室温で液体の不思議な金属

Shuuterstock

水銀は非常に不思議な物質です。

金属なのに液体だという他にはない大きな特徴があるからです。

実際に水銀を見たことがある人は金属光沢があって非常に重たい液体に見入ってしまうほどです(危険なのでしっかり防備した状態で観察しましょう)。

この水銀、実は身近なところでもよく使われています。

目次

水銀の身近な用途

まずは私たちの生活に身近で使われている水銀の用途を紹介します。

蛍光灯

蛍光灯の中には水銀の蒸気が封入されています。

この水銀の蒸気に電子線をあてると紫外線が発生するというのが蛍光灯が光る原理です。

そうやって発生した紫外線が蛍光管に塗ってある蛍光物質にあたって光(可視光線)に変わって光るというのが蛍光灯の仕組みです。

ブラックライトを蛍光物質に充てると光るのと同じです。

体温計

最近は電子式体温計が主流になってきたため見かけることが少なくなってきましたが、少し前までは体温計と言えば水銀体温計でした。

水銀が温度とともに体積が大きくなることを利用して、細い管の中を水銀がのぼった位置で体温を測定するものです。

0.1度以下の温度まで正確に測るためには水銀の性質が(温度と体積膨張が線形に近いこと、熱伝導率が高いことなど)適していたため水銀を使ったのです。

熱を測ったあと、体温計を振って上った水銀を下していたことが懐かしく思えます。

血圧計

血圧を測るときにも水銀柱が使われていました。今でも見かけますし血圧のmmHgという単位も水銀柱の高さを表すものなので、水銀といえば血圧計というイメージがあります。

腕に加えた圧力を水銀柱の高さで計測するものです。

ボタン電池

時計などに使われているボタン型の電池にも水銀が使われているものがあります。

結構、身近なところに水銀は使われていますね。

有名な水銀の利用

過去に水銀が使われた有名な事例を紹介します。

奈良の大仏の金メッキ

奈良の大仏は元々表面が金で覆われていました。そのメッキの方法として水銀を使った手法がとられています。

水銀と金を触れさせるとアマルガムと呼ばれる合金になります。この合金は水銀の量が多いと液体、金の量が多いと固体です。

液体の合金を作って、大仏の表面に塗布します。そのあと熱を加えて合金中の水銀を蒸発させることで金で覆うことができるのです。

トリチェリの実験

水銀を使った実験といえば、17世紀に ”エヴァンジェリスタ・トリチェリ” が行った「トリチェリの真空」の実験が有名です。

世界で初めて真空を作り、長く信じられていた自然は真空を嫌うというアリストテレスの説を否定した実験です。

トリチェリの実験については他記事で詳しく説明していますので、そちらを参照してください。

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水銀の特性

ここで水銀の特性を簡単にみていきましょう。

広い温度範囲で液体

水銀の融点は約-39℃、沸点は約357℃ですから、この温度範囲で液体です。

低温から高温までの広い温度範囲で液体として存在します。

重い

水銀は重金属に含まれるのでとにかく重たいです。水銀の上では鉄の塊も浮かぶほどです。

密度はなんと約13.5g/cm3で鉛の11.3g/cm3よりも重たいのです。

私は学生時代に実験で水銀をよく扱っていましたが、水銀が入ったガラス瓶を持ち上げるたびに思ったより重たくて驚きました。

子供のころから瓶に入った液体を持ち上げる感覚が刷り込まれているために、頭で重たいとわかっていても毎回その感覚の違いに大きな違和感を感じていたほどです。

アマルガムを作る

水銀は他の金属と触れるとアマルガムと呼ばれる合金を作ることが知られています。鉄などの一部の金属以外とは簡単に合金を形成するのです。

アマルガムを形成すると一般的に脆くなるため、飛行機に水銀はご法度です。一滴水銀がこぼれ、それがアルミ合金などに触れるとその部分が脆くなり最悪の結果を招く可能性があります。

ですから飛行機に水銀体温計を持ち込むことは厳しく禁止されています。

水銀の有毒性

金属水銀の有毒性

水銀は金属状態でも毒性を持っています。特に水銀の蒸気を吸い込むとかなり強い毒性を示します。

ですから、水銀が入った廃棄物を焼却すると大量の蒸気が発生してしまい非常に危険です。燃えるごみに水銀が混ざることがないように特に気を付けましょう(壊れた体温計や電池が紛れ込まないように)。

有機水銀の有毒性

水銀と聞くと水俣病を思い出す人も多いのではないでしょうか?

水俣病の原因物質は金属の水銀ではなく、有機物と反応した有機水銀と呼ばれる化合物です。体内に吸収されやすいこともあり、金属の水銀よりもはるかに毒性が高いことで知られています。

かつては農薬などにも使用されていた有機水銀ですが現在では使用は禁止されています。

当然のことですが、水銀は自然界にも存在します。その一部が微生物の作用によって有機水銀になることも知られています。

微量であれば摂取しても問題ありませんが、場所によって水銀が多く存在しているところもあるかもしれません。

同じ産地の同じ食品ばかり食べていると、それが水銀を多く含有していた場合に健康を害する可能性もありますので、食事は偏らない方がよいかもせしれません。

なぜ水銀は常温で液体なのか?

水銀はなぜ常温で液体なのでしょうか?

簡単にいうと、水銀の原子同士が引き合う力が小さいためです。蛍光灯の中にある水銀の蒸気では水銀の原子が単独存在していて、水銀原子同士が結合した分子を作ったりしていません。それほど引き合う力が小さいのです。

それではなぜ水銀は原子同士が引き合う力が小さいのでしょうか?

水銀原子内の電子の軌道が、引き合う力が小さくなるような配置になっているという程度で理解してください。

それ以上の説明は量子力学を使った電子軌道論の基礎知識を持っている人に説明するのも大変なくらいなので。

「相対性理論を考慮した量子力学で計算するとそうなる」としか言えません。

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