コバルトは、スマホのバッテリーなどに使われている希少な金属です。
そのほかにも、高強度な合金や磁性材料など現代テクノロジーを支える重要な材料として、私たちの生活を支えてくれています。
また、コバルトを含んだ顔料が示す「コバルトブルー」の鮮やかな青色が思い受かび、爽やかなイメージも湧いてきます。
しかし、このコバルトには世界中が問題視している闇があります。
私たちの生活を便利にしてくれる裏で犠牲になっている人々がいるのです。
今回は、そのコバルトの闇について話したいと思います。
コバルトは入手しにくい
コバルトの闇に入る前に、その背景となっているコバルトの性質について説明しておきます。
コバルトは非常に高価な金属です。
スマホやPC、電気自動車に利用されているリチウムイオン二次電池は、コストの40%がコバルトだといわれているほどです。
その理由は、「とにかく入手しにくい」ことに起因しています。
※リチウムイオン二次電池については、別記事【リチウムイオン二次電池とは何か? その仕組みを簡単に説明してみた】で解説していますので、興味がある方は参考にしてください。
コバルトはレアメタルの一種
コバルトはレアメタルの一種です。
レアメタルについては別記事『レアメタルとは何? 今さら聞けない種類、用途、問題点をまとめてみた』で詳しく説明していますが、簡単に言えば「手に入れることが難しい金属」のことです。
その金属を多く含んだ鉱石がない、あっても散在している、鉱石から金属を取り出すのが難しい、そのような理由で入手することが難しいのです。
コバルトは、レアメタルの中でも特に入手しにくい部類に入ります。
コバルトの名前がその難しさを示している
コバルトという名前は「コボルド(kobold)」というドイツの民間伝承に出てくる醜い妖精にちなんで名づけられました。
コボルトというよりも、別名の「ゴブリン」の方が有名かもしれません。
銅の鉱山で採掘された鉱石の中に、鉱石に見えるのに精錬できないものがわずかに混ざっていました。
その鉱石のことを、ゴブリンが魔法をかけて精錬できなくしたものだとして「コバルト鉱石」と呼んでいました。
そのコバルト鉱石から取り出された金属なので「コバルト」と名付けられました。
コバルトはコバルト鉱石が沢山とれる鉱山があるわけではなく、銅などの鉱山からたまに産出するものなのです。
※同じように銅鉱石に似ていて妖精ニコラウス(nicoraus)が魔法をかけたと呼ばれていた鉱石から取り出されたのが「ニッケル」です。
コバルトの産出国
全世界のコバルト埋蔵量の50%がコンゴ共和国に集中しています(アメリカ地質調査所調査)。
コンゴは、最近まで内戦が続いていて、現在でも多くの市民が武装勢力の犠牲になっています。
そのため安定供給に不安があることとも価格を押し上げる要因となっています。
コバルトの闇の部分
コバルトには社会問題にもなっている闇があります。
コバルトの原産国コンゴで起きている問題で、人権保護団体が有名企業を提訴したこともあり、広く知られるようになりました。
コバルトをめぐる集団訴訟
2019年12月15日、米国に拠点を置く人権保護団体がコンゴでの児童労働を容認していたとして、5つの企業を提訴しました。
その5つの企業とは、
- テスラ
- アップル
- アルファベット(Googleの親会社)
- マイクロソフト
- デル
という超有名企業です。
テスラは電気自動車に、他の4社はパソコン、タブレット、スマホなどにコバルトを使ったリチウムイオン二次電池を搭載して販売していることが問題となりました。
コンゴでのコバルト採掘の現状
2016年、世界最大の国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル」がコンゴでのコバルト採掘の現状を調査した報告書を公表しました。
⇒命を削って掘る鉱石-コンゴ民主共和国における人権侵害とコバルトの国際取引-
それによると、コンゴで産出されているコバルトの20%は手掘りによるもので、11~15 万人の鉱山労働者が手掘り採掘に従事しているとのことです。
そこでは、安全対策もとられておらず、坑道での落盤や窒息による死亡事故が多発しています。
また、コバルトの粉塵を吸い込むことで呼吸器疾患もまん延し、土壌も汚染が進んでいるそうです。
児童労働の問題
特に問題とされているのが、コバルト採掘に7歳くらいの児童までもが従事していることです。
ユニセフの推定値(2014年)によると、約 4 万人の子どもたちが 採掘現場で働いているとされています。
これが人権問題として大きく取り上げられました。
企業には、人権侵害を行わないようにする、また人権侵害に加担しないようにするといった注意義務があります。
ここで挙げた5社は、人権侵害に加担したとして提訴されたのです。
問題解決に向かう道筋
コンゴ政府も人権問題の解決に動いているようですが、実質的には解消できるだけの力がありません。
しかし人権保護団体の活動もあり、この現状は世界中に知られることになりました。
コバルトを使っている企業は沢山あります。
この問題が広く知られることで、企業はコバルトの闇と真剣に向き合わざるを得なくなりました。
企業イメージを損なうことにつながるからです。
このままでは「電気自動車はクリーン」というイメージも吹き飛ぶくらいです。
貧しいコンゴにとっては、鉱物資源は大きな財源です。
その鉱物資源を安全に採掘して、子供たちが働かなくてもいい豊かな国になるよう協力することが企業に求められているのではないでしょうか。