原子力発電でも使われている核分裂反応。
核分裂によって、莫大なエネルギーを生み出すことができますが、そのエネルギーは一体どこからくるのでしょうか?
核分裂反応エネルギーの正体を簡単に説明してみます。
核分裂反応
まず核分裂反応を簡単に説明します。
原子核にエネルギーが与えられると、原子核が変形して、変形が大きくなると2つ(またはそれ以上)の原子核に分裂することがあります。
これを核分裂反応と呼びます。
原子核の構成
原子核は、陽子と中性子からできています。
陽子はプラスの電荷を持っているので、陽子同士は反発します。
原子核の大きさはとんでもなく小さくて、原子の大きさの1万分の1しかありません。
反発力は距離が近いほど大きくなるので、これだけ近くに陽子を集めると反発力も膨大なものになります。
核力
反発し合うものを閉じ込めるためには、反発をとどめるよう引き合う力が必要です。
これを核力と呼びます。
湯川秀樹博士がノーベル賞を受賞したのは、この核力の理論によるものです。
核力は、短い距離しか働かないという特徴がありますが、とんでもなく強いはずの電気的な反発力よりも更に強い力で引き合っているのです。
核力を振り切る
核力は距離が長くなると急激に小さくなるという特徴があります。
もし原子核が最初の図のように上下に長く変形したとします。
すると上下方向の距離が長くなって、その方向への核力が小さくなっていきます。
そして、変形が大きくなって電気的な反発力の方が強くなると、2つ(またはそれ以上)の原子核に分裂してしまうのです。
そして、分裂した原子核は、両方ともプラスの電荷を持っているので、電気的に反発します。
もう押しとどめるものはありません。
分裂した原子核は、凄い勢いで遠ざかっていくことになります。
この運動エネルギーが核分裂のエネルギーの正体です。
得られるエネルギーは?
このときに得られるトータルのエネルギーは、原子核同士の反発のエネルギーから、変形させるために使ったエネルギーを引いたものになります。
核力が強く、電荷の反発が弱い場合は、変形するために沢山のエネルギーが必要になります。
核力と電荷の反発が釣り合っているような場合は、わずかなエネルギーで変形します。
少しのエネルギーで簡単に変形できる原子核は、不安定で徐々に核分裂をしていきます。
これが放射性物質と呼ばれるものです。
ウランの核分裂
ウランは原子番号が92で、原子核内には陽子が92個もあります。
原子核には、陽子以外に中性子があり、中性子の数によって色々な種類のウランがあります。
原子力発電などに使われているのは、中性子が143個ある「ウラン235」と呼ばれるものです。
このウランが核分裂するときのエネルギーをざっくりと計算してみましょう。
核分裂反応を決める
ウラン235が核分裂したときに、どんな原子核に分裂するのかは多くのパターンがあって確率的にしかわかりません。
ここではイットリウム95 とヨウ素139(と中性子)に分裂する場合を計算してみます。
核分裂させるときに必要なエネルギー
得られるエネルギーは「原子核同士の電荷の反発によるエネルギーから、変形させるために使ったエネルギーを引いたものになります。」でした。
でも、ウラン235は、わずかなエネルギーで簡単に分裂します。
変形して核力を振り切るために必要なエネルギーは小さいとして、無視することにしましょう。
変形による距離
ウラン235にわずかなエネルギーを与えると電気的な反発力が上回るような変形をして、分裂します。
このとき電気的な反発力が上回ったときの原子核同士の距離を推定します。
ここでは細かいところを無視して、ウラン235の直径の分の距離で分裂すると仮定します。
何となくそれくらいかな? というイメージです。
別にきちんとした数値はわからなくても、ざっくりとオーダーくらいわかればいいという計算です。
計算
その後、電気的な反発力で原子核同士が凄い勢いで飛び去ります。
そのときの反発のエネルギーは、2つの原子核の電荷と距離が分かればクーロンの法則で簡単に計算できます。
- 原子核間の距離:ウラン235の直径(1.6×10-14メートル)
- イットリウムの電荷:陽子39個分
- ヨウ素の電荷:陽子53個分
計算に必要なのは、これだけです。
そうして計算した結果がこれです。
◆計算結果:3×10-11ジュール/ウラン原子1個
比較してみる
Wikipediaに、イットリウムとヨウ素に核分裂したときのエネルギーが載っているので比べてみましょう。
その値は、3.2×10-11 ジュール/ウラン原子1個。
ざっくりと計算した値とほぼ同じです。
核分裂のエネルギーは、プラス電荷同士が反発する電気的なエネルギーとして計算できるのです。
E=mc2はどこへ
「原子力のエネルギーはE=mc2によるもの」と聞いたことがある人はいませんか?
E=mc2というのは、相対性理論から求められるエネルギーEと質量mの関係式です(cは光速度)。
それを使って「原子力のエネルギーはE=mc2によるもの」とか「原子力エネルギーは質量がエネルギーに転換したもの」という説明をよく見かけます。
でも上に示したように、原子力はE=mc2を使わなくても説明できます。
なぜ「原子力のエネルギーはE=mc2によるもの」という誤解が広がったのでしょうか?
E=mc2でも計算できる
実は、Wikipediaに載っている3.2×10-11 ジュール/ウラン原子1個という値は、E=mc2で計算した値です。
実は、元々のウラン235の質量と、生成したイットリウム95 とヨウ素139 (とふたつの中性子)の質量の合計を比べると、核反応前後で質量が小さくなっています。
その質量の減少分をE=mc2に入れてエネルギーを計算したのが、3.2×10-11 ジュール/ウラン原子1個だったのです。
E=mc2はエネルギーと質量の関係を表したもの
E=mc2はエネルギーと質量の関係を示した式です。
エネルギーを取り出すと質量が小さくなり、エネルギーを与えると質量が大きくなるということです。
例えば、水を沸かしてお湯にするとエネルギーが大きくなるので、質量は増加します。
ガスを燃してエネルギーを取り出したら、その分質量が減少します。
E=mc2は原子力特有のものではなく、一般的に成り立つ関係式なのです。
質量の変化を測定できるか
E=mc2はエネルギーと質量が比例するという式なので、エネルギー変化が小さければ、質量の変化も小さくなります。
お湯を沸かしたり、ガスを燃やしたりしたときのエネルギー変化は、原子力に比べると極端に小さくて、質量の変化を測定することができません。
原子力の場合はエネルギーが膨大になるので、やっと質量変化が測定できるようになりまず。
その質量変化とエネルギーを測定することで、E=mc2が成り立っていることを確認できます。
原子力は特別ではない
原子力エネルギーは、他のエネルギーと比べて特別なものではありません。
普通にエネルギー保存則に従っていて、他のエネルギー(電気、核力によるエネルギー)を変換して取り出しているだけです。
そしてE=mc2は原子力だけではなく全ての場合に成り立つ式です。
「原子力エネルギーはE=mc2によるものだ」
というのなら、
「全てのエネルギーはE=mc2によるものだ」
という主張も成り立ちます。
違いは、質量の変化を測定できるかどうかだけなのです。
- 核反応によってE=mc2が確認された
- よって核反応はE=mc2によるものだ
という論理の飛躍が広まってしまったのではないでしょうか?
最後に
この記事は、「アインシュタインと原子爆弾の関係 原爆は相対性理論によるものなのか?」という記事を書いたときに、「説明不足かな?」と思って補足の意味で書き始めました。
でも書いていくうちに、単なる補足ではなく重要なことを書いているような気になってきました。
少しでも原子力の誤解を解くきっかけになれば嬉しいのですが。