以前の記事”スライムは液体か固体か? どう分類するのか考えてみる”で、スライムのように液体か固体か区別しにくいものを、物性で区別してみました。
結論は「スライムは液体と固体のあいのこ」となったのですが、この分類方法をもう少し深く考えてみると、以外な結果になってしまいます。
今回は、そのことについて説明していきます。
※前記事を読まれてない方は、そちらからお読みください。
前回のおさらい
前回は、固体は弾性という性質を持ち、液体は粘性という性質を持っていて、スライムは両方の中間の性質を持っていることから「液体と固体のあいのこ」と結論しました。
そして他にも、マヨネーズ、プリン、ガム、粘土、グミ、クリームなど、あいのこ物質が沢山あることを紹介しました。
これを踏まえて、もう少し突っ込んで考えてみます。
スライムの弾性と粘性
スライムを、素早くちょんとつつけば跳ね返ってきます。これは固体が持つ弾性という性質です。
またスライムを容器に入れると、容器に合わせて形を変えます。
硬めなスライムではすぐには容器の形にはなりませんが、長く置いておけばそのうち容器の形になります。
これは液体が持つ粘性という性質です。
スライムの物性と時間の関係
スライムの弾性と粘性についての説明をもう一度考えてみます。
スライムは、素早く変形させたら跳ね返り、重力などでゆっくり変形させたら形を変えるのです。
時間と関係がありそうな気がしませんか?
短時間では弾性の性質が目立ち、長時間では粘性の性質が目立つということです。
実は、スライムだけでなく、液体と固体のあいのこ物質は変形時間(速度)によって、どちらの特性が強くあらわれるのかが変わります。
短時間では弾性を示し、長時間では粘性を示すというのは、一般的な傾向なのです。
普通の液体はどうなのか?
では、普通の液体ではどうでしょう。
水を容器に入れると、すぐに容器の形になります。典型的な粘性体です。
あいのこ物質とは、全然違う気がします。
でも、
プールに飛び込んで腹うちした経験はありませんか?
お風呂で水面をパチンと叩くと衝撃がありませんか?
水のような典型的な液体でも、ごく短時間に力が加わる場合には、跳ね返す力が働きます。
短時間では弾性的な性質を示すのは、あいのこ物質だけではなく、普通の液体でも同じなのです。
普通の固体はどうなのか?
今度は固体の氷について考えてみましょう。
氷は容器に入れても変形することはありません(融けない限り)。
でも「氷河」というものがあります。
氷のかたまりが、何万年という長い時間をかけながら川のように流れていく現象です。
これは、粘性の性質です。
氷も長い時間かければ、粘性の性質を示すのです。
全ての物質は液体と固体のあいのこだった
物質の持っている「粘性」「弾性」という特性で液体を固体を分類しようとすると、結局全ての物質が液体と固体のあいのこだという結論になってしまうのです。
粘性だけを持つ「完全な粘性体」、弾性だけを持つ「完全な弾性体」は存在しないということです。
全ての物質が、短時間では弾性、長時間では粘性の性質を示します。
弾性から粘性に移り変わる時間間隔が、人間が普通に認識する時間(秒~年)にあるものが「あいのこ」で、それより短い場合が「粘性体」、それより長いものが「弾性体」と呼ばれているだけだったのです。
分子からみた説明
なぜそうなるのか、分子の立場で考えてみます。
液体が短時間で弾性の性質を示す理由
まずは、水のような液体が短時間では弾性体の性質を示す理由から説明していきます。
液体が容器に合わせて形を変えるのは、分子が自由に動けるからです。
でも、分子が動く速度より速い場合は、形を変えるひまがありません。
そんな場合には弾性的な性質を示します。
固体が長時間で粘性の性質を示す理由
では、固体が長時間かけると粘性の性質を示すのはなぜでしょう?
氷のような結晶は、分子同士が強く結合しているので自由に動くことができません。
ですから、普通は変形することができません。
ただ、強く結合していても、高いエネルギーを持った分子なら、その結合を振り切って動くことができます。
分子が、それだけの高いエネルギーを持つ確率はゼロではありません。
このように結合を振りきった分子が、重力によって安定な位置で結合しなおすこともあるのです。
分子の結合が強い物質は、ほとんど形を変えることがありません。
それは、結合を振り切れるほどの高いエネルギーを持つ確率が非常に低く、粘性を示し始める時間がとても長い(宇宙の年齢より長いとか)ということなのです。
あいのこ物質の特徴は
では、人間が認識する時間感覚で、弾性⇔粘性と変化する”あいのこ物質”の分子には、どんな特徴があるのでしょうか。
一般的なあいのこ物質は、「分子が大きくて動きにくい」のです。
高分子という大きな分子は、動くのに時間がかかります。
そのため、短時間で弾性、長時間で粘性という性質を示します。
スライムは、洗濯ノリに使われているPVA(ポリビニルアルコール)という高分子に、ホウ砂という砂をを混ぜることで作ることができます。
PVAは、元々の分子が大きいのですが、ホウ砂を入れることで更に大きく(ホウ砂が分子同士を引っ付けるので)、動きにくくなってスライムの特性が現れてきます。
分子は自由に動けるけど大きすぎてゆっくりとしか動けないものは、あいのこ物質になるのです。
これ以外にも「複合材料」が、あいのこの性質を持つことが多いです。液体に小さな粒子が混ざっているようなものです。粘土が典型的ですね。
あいのこ物質の利用法
あいのこ物質は、食品や化粧品によく使われていますが、それ以外にも多くの用途で使われています。
上手に特性を活かしている例としては、塗料が挙げられるでしょう。
刷毛やローラーで塗るときは液体のように簡単に塗れて、塗った後は固体のような性質があらわれて重力で垂れたりしない、塗料に求められている特性は、あいのこ物質の特性そのものです。
このような特性をチクソ性(チキソ性)と呼びます。
液体と固体は、物質の状態という観点からは分類可能です(結晶をつくらないものでは区別があいまいになります)。それを弾性とか粘性という固体や液体が持つ特徴的な性質で分類しようとすると、弾性から粘性に変化する時間が目安になります。
粘弾性学(レオロジー)
このような、粘性と弾性を併せ持つ物質の性質は、”レオロジー”という分野で扱われています。
あまり知られていない分野ですが、食品、化粧品、プラスチック、ゴムなど身の回りにある多くのものを作るために、活躍してくれているのです。