テフロンと言えば、フライパンなどの調理器具に施されているテフロン加工を思い浮かべる人が多いでしょう。
でもテフロンとは何かと聞かれても、答えるのは難しいのではないでしょうか?
そこで、テフロンとはどういうものなのか、テフロンはどんな特性があるのか、そしてテフロン発明の舞台裏を紹介したいと思います。
テフロンとは
テフロンとは ”ポリテトラフルオロエチレン” という物質のことを差す言葉です。
ポリテトラフルオロエチレンは、炭素とフッ素からできた物質で、図のように長い鎖状の構造をしています。
ちなみに「テフロン」という名称はアメリカのデュポン社の商標です。
※ポリテトラフルオロエチレンだけでなく類似の物質もテフロンと呼ばれています。
テフロンの結合は強い
炭素とフッ素の結合は非常に強いことが知られています。
そのため、熱によって分解しにくい、他の物質と反応しにくいという特徴を持っています。
言葉を変えれば、耐熱性、耐薬品性に優れている材料なのです。
テフロンは分子間力が低い
分子同士には分子間力という引き合う力が働きます。
テフロンは、その分子間力が非常に低いという性質を持っています。
ですから、水や油などの物質と引き合うことなくはじき、汚れがこびりつかないという特徴があります。
テフロンの用途
テフロンは、フライパン、炊飯器、ポット、電子レンジなど汚れがこびりつかない特徴を利用して調理器具によく使われています。
また、耐熱性と耐薬品性に優れているため、高温で腐食性の高い物質を扱うときには欠かせない材料です。
多くの化学工場や、半導体工場などで利用され、先端技術を陰で支えている立役者でもあるのです。
テフロンの発明
テフロンは、1938年にアメリカのデュポン社の研究員 ”ロイ・プランケット” によって発見されました。
その発見の経緯がなかなか興味深いものなので、簡単に説明してみます。
テフロンはフロンの研究から生まれた
「テフロン」の”テ”を取ったら「フロン」になるというのは、単なる語呂合わせですが、テフロンとフロンには密接な関係があります。
1928年にゼネラルモーターズ社 の ”トマス・ミジリー” がフロンを発明しました。
※フロンの発明者ミジリーの興味深い逸話も別記事で紹介しているので併せて読んでみて下さい。
そしてゼネラルモーターズ社と化学会社のデュポン社が共同で会社を設立してフロンの製造販売を始め、冷凍機用の冷媒として使用され始めていました。
デュポン社の研究員だったプランケットも冷凍機用の冷媒として、新しいフッ素化合物を研究していたのです。
そこから偶然テフロンが産まれたのです。
テフロン発見の経緯
プランケットは、フッ素化合物の原料として「テトラフルオロエチレン」という気体を使っていました。
気体なのでガスボンベの中に入っていたのですが、ある日プランケットが実験をしようとしたとき、バルブを開いてもガスが出てこないという現象が起きたのです。
漏れたのかと思い、ボンベの重さを測っても変化がなく、ボンベ内には物質が入ったままだということがわかりました。
そこで、ボンベを切断して中を見ると、白いふわふわの物質が詰まっていたのです。
それがテフロンだったのです。
プランケットはテフロンができることを知っていた?
テフロンの発見は単なる偶然だったのでしょうか?
プランケットは、ボンベの中の物質を見た瞬間に「ポリテトラフルオロエチレン(テフロン)だ」と思ったそうです。
それどころか、ボンベを切断するときには「テフロンができているのではないか?」ということが頭をよぎっていたのだろうと想像できます。
ボンベの中に入っていたのは「テトラフルオロエチレン」、テフロンは「ポリテトラフルオロエチレン」です。
「テトラフルオロエチレン」がつながったものが「ポリテトラフルオロエチレン」なので、テフロンの原料そのものです。
構造から考えて、つながる反応(重合反応)が起きることは充分予想できることだったのです。
テフロン発見の時期
テフロンが発見された1938年は、ブラスチックのひとつ「ポリエチレン」が工業的に製造され始めた時代です。
俗に塩ビといわれるポリ塩化ビニルの工業化もこの時期です。
テフロンの重合反応は、ポリエチレンやポリ塩化ビニルに似た反応なので、当時の化学者なら予測はできたはずなのです。
また、プランケットと同じデュポン社の ”ウォーレス・カロザース” が、ナイロンを発明したのが3年前の1935年です。
研究者であるプランケットが、当時の花形だったプラスチック材料(高分子材料)に興味を持っていなかったはずがありません。
「テフロン」がデュポンの登録商標だということは説明しましたが、それ以外にもデュポンの登録商標が一般に使われている例があります。
ここで説明した「ナイロン」もデュポンの商標ですし、「フロン」も海外では「フレオン」というデュポンの商標で呼ばれています。
本当にすごい化学会社です。
研究テーマと違う興味
プランケットに与えられたテーマは、冷媒に使えるフッ素化合物の開発でした。
そのテーマを研究しながらも、フッ素系の高分子化合物ができないかという想いが頭の片隅にあったはずです。
「あったはずです」と言えるのは、自分自身がプランケットと同じ企業の研究者なので、研究者の習性を知っているからです。
頭の片隅にあったからこそ、偶然を見逃さなかったのでしょう。
自分の研究テーマとは違いますが、テフロンができた時には「やった!」と思ったに違いありません。
与えられた仕事と違っても、面白い現象が起きると楽しい、それが研究者の性なのです。
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